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3.聞こえない音が聞こえる

イヌはヒトよりも耳がいい……普段イヌと生活しているヒトのほとんどが、この命題を否定することはないでしょう。イヌの驚くべき聴力を目の当たりにすることはしばしばあります。

外部情報である音は、耳の中の「蝸牛(かぎゅう)」と呼ばれる部位で電気信号に変えられて脳に送られます。光同様、音の高低レベルや種類、抑揚などの情報属性を識別しているのは脳であり、これまた光同様、他人の脳でどう処理されているのかは知る由もないのです。

イヌがどれくらいよく聞こえるのか、その実験は国内外で頻繁に行われてきました。結果、細かい数値は違えども、イヌが高い周波数の音(高音)を聞きわける能力がヒトよりも高い、ということはほぼ一致しているようです。イヌの不可解な行動が、ヒトとイヌのその聴力格差に起因しているケースも多々あるのでしょう。

(以下引用)
「聴覚の最も重要な特性は、聴覚神経細胞によって感知できる周波数帯域です。一定の強さ(60db)の純音を用いて、可聴域(聴力図)を実験的に確定できます。聴力図の種による違いは、通常、最低周波数と最高周波数、また最もよく聞こえる周波数によって比較されます。オオカミについては何もデータがありませんが、イヌと人の聴力図の比較からは、低い周波数帯では類似性が認められますが、高い周波数帯では、イヌが人間に比べより高い音を聞き取れることがわかります(イヌ:67~45,000Hz、人間:64~23,000Hz)。イヌは私たちには知覚できない高周波音(人間の言葉でいう超音波)を聞き取ることができるのです」(「イヌの動物行動学 Adam Miklosi 東海大学出版部 2014」)

さらに、研究の結果、イヌが音を識別する時にはその高周波音も含めて判断しているようですので、多くの場合、ヒトが感じる「同じ音」をイヌに聞かせても、イヌには「異なる音」として聞こえているのでしょう。

(以下引用)
「犬が自分たちに聞こえていない音まで聞いていることを、人はつい忘れがちになる。音に対する犬の反応を調べようとする研究者が、ごくふつうの音声再生装置を使うことがあるが、再生装置は人間が聞こえる音だけを再現するよう設計されたことに気づいていないようだ。犬にとってはあらゆる音で大切な部分を占める高周波の音が、そのような装置では再生されない。だから、犬が「生の」音には反応するのに録音や(テレビなどの)放送の音に反応するとは限らないのは、別に驚くにはあたらない。人間の耳には実質的にはまったく同じ音でも、犬には違う」(「犬はあなたをこう見ている John Bradshaw 河出書房新社 2012」)

音声再生装置では含まれる周波数域が生の音とは異なる、ということは、愛犬に、雷の音に慣れさせようとか、赤ちゃんの泣き声に慣れさせようとして、録音機を利用しても、あまり意味がないのかもしれません。

別アカウント「イヌの行動学」の記事で触れられると思いますが、イヌを呼び戻す際のコマンドは、その抑揚でイヌの行動に違いが出るという結果も出ているようです。その行動の違いは、音の高低差、抑揚に基づくものなのか、全体の周波数の組み合わせによるものなのか、どちらなのでしょうか? それともどちらでもないのでしょうか?


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