長夜の長兵衛 蟄虫啓戸(すごもりむしとをひらく)
蟇目鏑
お社さんで蔵の掃除を手伝っておると、見慣れぬ矢が仕舞われてある。矢尻に大きな繭のようなものがついて、繭には小窓があけられている。はて、と長兵衛は首を傾げた。
宮司さんが教えてくださる。蟇目鏑といいますもので。
鏑矢とは、初めて近くで見ました。蛙のような声で飛ぶのでござりましょうか。
宮司さんははっはっ、と心底愉快そうに笑われた。いやいや見た目が似ておる、ということでしてな。穴が四つあるのを四目と申しまして、まことに心があらわれるような音がしますぞ。いずれ聴きにおいでなさい。
お天道様が幾筋にもわかれて降り注ぐような日である。もぞもぞ、と地面が動いたかと思えば、足元の穴から蟇が顔をのぞかせたのであった。
あの鏑矢に似ておるかのう。
はて、と長兵衛が首を傾げると、穴の主と目が合うた。向きを変え、また穴の中へ戻るようだ。
二度寝するつもりかのう。
長兵衛は、一つ大きなあくびをすると歩き出した。
<了>
photo AC by ゴッツええかも
本年の「蟄虫啓戸」の候は三月五日から九日、でありました! 作者が穴から出てくるのが、ちとばかり、いや、大遅刻。
季節はもう「桃始笑」へ移っております。さあ、長兵衛も追いかけて行きませんとね。
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また、以前に執筆しました二十四節気の物語と、今回の七十二候が順に並んで出てまいります。
長兵衛をお楽しみいただきやすくなっているかもしれません。
お気持ちありがとうございます。お犬に無添加のオヤツを買ってやります。