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私のところへきた相談者たち②〜噛みつき〜チワワ6ヶ月♂

「すごく気が強いので早くトレーニングした方がいい」

獣医さんからそう言われたと私に連絡をしてきたのはチワワの飼い主さんだった。

噛みつくから診察ができない、噛みつくから首輪が付けられない、噛みつくからリードがはずせない、噛みつくから爪が切れない…

これだけ聞くととんでもない子かと思われるが、私の心は凪いでいた。この程度のチワワの問題行動は日常茶飯事だし、生後6ヶ月という月齢から考えても改善の余地はたっぷりあるからだ。
実際にご自宅にお伺いすると、しっぽをプリプリふってはしゃぎ回る愛らしいチワワちゃんだった。

思ったとおり

思ったとおり、気が強いのではなく【気が弱い】子だ。
ここでいう気が弱いとは、未知の刺激や不快刺激に過敏に反応することとする。

チワワは刺激に過敏に反応する子が多い。
つまり
心の受け皿に対して外から受ける水(刺激)の量が多すぎるのだ。

この場合、パニック様の過敏反応によってその先の学習が阻まれたり、無理に押さえつけられた痛みや恐怖の体験から、次に同じようなシチュエーションになった時に不快刺激を排除しようとする。
その行動のひとつが【噛みつき】だ。

チワワは、気の弱さに自己主張の明確さが合わさって【噛みつく】という不快排除行動をとる子が多い傾向がある。この場合、トレーニングのポイントは
刺激受容
である。

排除しなければならないほどの不快刺激ではないことを学習させるための【系統的脱感作トレーニング】をほどこす。

今回のコースは、当所でのスタンダードコースで週3回/月の計13回を、飼い主さんではなく私が施し、脱感作を進めた状態で今度は飼い主さんにもできるようにレクチャーする。
系統的脱感作法は0,1秒、0,1mmのかけひきが必要なトレーニングなので、ここはプロの腕の見せ所となる。
スモールステップで少しずつ、でも確実に刺激を受容した成功体験を積ませる。
重要なのは
冷静に今自分の身に起こっていることを理解させ、受容させていくことである。

犬が不快刺激を受けてから噛みつく行動までを信号に例えるなら、

青信号(刺激許容範囲)
黄色信号(不快刺激感受以上排除行動未満)
赤信号(不快刺激排除行動)

この場合、系統的脱感作トレーニングは黄色信号で行っていく。
青信号ではトレーニングは進まず、赤信号に変わってしまったらトレーニングは失敗である。
赤信号になる直前の黄色信号で横断歩道を渡りきるのが上手いドッグトレーナーだ。

週3回のトレーニングは順調に進み、首輪の付けはずしもできるようになり、リードで少しでも首輪に負荷がかかろうものなら悲鳴をあげてころがりまわっていた子が、お嬢ちゃんとお散歩できるまでに改善した。

しかし…

先日、去勢手術の日程を相談にいった動物病院で爪を切られてしまった!
つまり、赤信号に変わったのにそのまま横断歩道を渡ろうとしたのだ。

残念ながら、脱感作トレーニングやその応用としてのハズバンダリートレーニングなどとはかけ離れた犬を押さえつけてな爪の切り方だったので、当然受け皿以上の刺激に耐えきれずに、叫び暴れ噛みついたらしい。エリザベスカラーを付けようとしたがそんなもの付けられるわけもなく、獣医さんからは
「この子はうちに診察にきた子の中でもトップレベルに暴れる」
と言われてしまった飼い主さんは心がボキッと…

すっかり自信を無くしてしまった飼い主さんですが、大丈夫!ちゃんともとに戻るしステップアップもしますからね。

脱感作トレーニングは、ドミノを並べるような作業だ。並べるのは大変だけど崩れるのは一瞬。
それでも、地道に並べていけば確実にゴールにたどり着く。

現在、脱感作トレーニングを行っている読者さんは、愛犬に新奇刺激や強い刺激を与える際には、トレーナーに相談したり、獣医さんやトリマーさんにトレーニング中である旨を伝えてほしい。
そして、脱感作トレーニングを理解してくれる獣医やトリマーが増えることを願ってやまない。

その後の13回目のトレーニングは少し心配していたが、動物病院での不快経験は日常生活にはまったく影響していなかったので安心した。

首輪の付けはずしどころか、今まで着れなかった洋服も脱ぎ着できるようになった。散歩もどんどん上達している。

今後は動物病院での脱感作トレーニングをしたいという依頼で、週1コースに移行して、獣医さんの協力のもと診察のためのトレーニングを施していくこととなる。
模擬採血トレーニングは順調に進みそうだが、エリザベスカラーに完全に怯えてる…

プロの腕のみせどころである。


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