読書記録『親子で哲学対話 10分からはじめる「本質を考える」レッスン』

オーディブルで『水中の哲学者たち』を聴き終わってすぐに、amazonで以前に予約していた本書が届いた。見事に哲学対話つながりだ。「前著の記憶がホットなうちに」と読みだしたら2時間もせずに読み切ってしまった。

著者は教育哲学者の苫野一徳。彼が普及活動を行っている「本質観取(ほんしつかんしゅ」と言う哲学対話。それを親子で行った記録になっている。1章で本質観取自体の説明、2章で本質観取の行い方を示しており、3章で20回分の哲学対話が掲載されている。

親子で話すことになった経緯

彼の娘が小学校3年生の時に不登校になった。不登校というより、本人が「学校を辞める」と宣言して学校に行かなくなったのだ。紆余曲折を経て、半年で登校を再開したものの、色々な悩みがあったはずだ。

そんな彼女が「パパと本質観取をしてみたい」といいだす。父が取り組みをみる機会が何度もあったのだ。そして夜ごとの哲学対話が始まる。

本質観取とは

さて、前回読んだ『水中の哲学者たち』の中で行われていた哲学対話は、いくつかのルールのもとで自由に対話を行っていた。

・自分の言葉で語る(借り物の言葉で語らない)
・他人の話をよく聴く
・”人それぞれ”に着地しない

最低限のルールとして『水中の哲学者たち』で言及されていたもの

だが、本質観取という哲学対話では以下のように明確なプロセスが決まっている。

① 本質がわかると、どんないいことがある?
まずは、なぜこのテーマで本質観取をしたいのか話し合います。
② さまざまな事例を挙げる
経験から「あれは学びだったなぁ」「これこそ学びだ」と思った具体的な例を出し合います。
③ 本質的なキーワードを挙げる
すべての事例に共通するキーワードをいくつか見つけていきます。
④ 本質を言葉にする
最も核心をついた言葉で、その本質を言葉にしてみます。
⑤ ①に答える
見つけ出した答えが、最初の問題意識に答えるものになっているかたしかめてみます。

本書54‐55頁「本質観取」のやり方 例:「学び」ってなんだろう?より

なるほど、これぐらいフォーマットが決まっていると、だいぶ参加しやすそうに見える。論を立てるプロセスがマニュアル化されているので、迷走しづらそうだ。

対話を読んでみて

対話は20個掲載されている。最初の5つだけタイトルを出しておこう。

第1話 「幸せ」ってなんだ?
第2話 人間の「愚かさ」について
第3話 究極のテーマ「人間」とは何か?
第4話 「よい政治」とは?
第5話 「存在とは何か?」にせまる

このように「うわ、それ答えだせるの?」とも思わせるし、「あ、それについての自論をとりあえず聞いてもらいたい」と思えるような話題が多い。

もちろん。小学生である長女との対話だし、寝る前の10~20分程度の対話だ。ギチギチに煮詰められた結論が得られるわけではないが、会話を経てそれぞれの概念についての解像度が深まっていく様子はうかがえる。

1話あたりも4~5ページ程度にまとまっているし、ライトな読み味ながら、それぞれ楽しめた。やっぱり理屈っぽく生きている自分としては、この場に参加したいな、続きを考えたいなと思わせてくれるものだった。

親子のコミュニケーションとしての哲学対話

同じく子育て中の父親として、こういうコミュニケーションへの憧れのようなものもある。こちらの長男はまだ年中さんなので、まだまだ難しいのだが、いずれやってみたいと思えた。

それと、やはり不登校との関わりも見逃せない。著者の家庭では不登校からの回復後に哲学対話を始めたわけだが、読者からの反響のなかには、不登校からの回復に哲学対話が役立ったという声もあったという。

不登校になるような子どもは、きっと学校のなかで様々なモヤモヤを抱えているだろう。でも、そのモヤモヤをうまく消化できない。あるいは自分を責めるような形で受け止めてしまっている。

それが「友情とは何か」とか、「恥ずかしいとは何か」とかについて言葉を練り上げていく中で、スッと整理がついていく。学校での上手く行かなかったこと、イライラしたこと、自分を責めてしまったことの一つ一つについて、以前よりも高い視座から俯瞰して見つめなおすことできたんじゃないだろうか。

うちの長男は、言ってしまえば教育機関とあまり相性が良くない子どもだ。興味関心は乗り物→生物と推移していて、公園に言っても走り回るのではなく延々とアリを観察したりする。ポケモンにもニチアサにも反応は薄く、運動会のダンスのテーマ曲も息子だけ初見だったりする。

そんな息子の個性を自分は最高だと思っている。しかし、小学校という場に投げ込まれれば色々な苦労があることが想像される。そんなときにしてあげたいことを一つ、本書から見つけられたような気がした。

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