『鬼滅の刃』死を軽視しないダークファンタジー
実は、アニメを途中まで見ていて、何かテンポが自分とあわないような気がして脱落していた。戦闘中のモノローグが多いことが、アニメのテンポ感に影響していたこともあるだろうし、また善逸が仲間になるあたりのやりとりはクドく感じてしまったのである。
ただ、その後に神回もあったようで、評価は上がっていく一方だった。国民的な関心を集めるような作品は、とりあえず触れてみて損はないと思っている。だから「ひょっとしたらnot for meという結論になるかな」という懸念もあったが、冬休みに全巻読もうと決めていた。
その懸念は、部分的には正解だった。ギャグ時のキャラクターのデフォルメの仕方やせりふ回しなどは、いまだにnot for meかなと思っている。
それでも、巻が進むにつれてどんどん面白くなっていった。6巻あたりからは読む手を止められなくなり、終盤戦は大いに心を揺さぶられながら読みすすめ、最終巻は目に涙をためながら読み終えた。
この作品の面白さを短い言葉で表現することは、なかなか難しく思う。世界観や絵柄に強い個性があることはもちろんだが、それが面白さの核ではないのではないか。
きっと、この作品は登場人物一人ひとりが丁寧に描かれていたということ、それでいてバトルマンガとしてのテンポが損なわれなかったということが重要だったのだろう(※)。
近年、登場人物があっさり死んでいく作品が増えている。ジャンプでもダークファンタジーが人気を集めているらしい。鬼滅の刃でも多くの人が命を落とす。しかし、この作品では、一人ひとりの人格が、命が重たく感じられた。多くの死は暴力性の強調のためでなく、目的に向かう過程での死であった。そして、主人公はじめ、多くの登場人物がその死を引き受けて、同じ目的に進んでいく。だからこそ、話が進むにつれて、一つ一つの戦いがずっしりと重みのあるものになっていったのだろう。
しかし、現在映画で記録を更新しているのは無限列車編というのが驚かされる。そのあたり、もちろん面白かったし映画向けだとも思うが、作品全体の盛り上がりのなかでいえば、クライマックスから程遠いところで記録を樹立してしまったことになる。最終版の盛り上がりはどうなってしまうのだろう。とりあえず、今、このタイミングで読めてよかった。
※ 個人を掘り下げる回想が徐々に入るようになっていったが、ページ数はあまり割かずに個々人の物語を膨らませていたように思う。