オーディブル記録15『逆ソクラテス』

伊坂幸太郎に初挑戦。かなり良かった。
小学生を主人公とした5つの短編が収録されており、やっぱり表題作が特によかった。表題作についてだけ語り、あとは一冊全体を通じての話だけ書いておこう。

逆ソクラテス

主人公の担任は感じが悪い。生徒一人一人を値踏みする。
「この子はできる子。こいつはダメ。」
そして、その評価を露骨に表にだしてしまう。生徒の本当のポテンシャルなど、簡単に値踏みできるものではないのに。

教師に期待された生徒は本当に成績が伸びてしまうピグマリオン効果や、その逆のゴーレム効果というものもある。担任が雑に決めつけた評価によって生徒の成長が実際に影響されてしまう。それでいいのか。

友人の安斎は、そんな教師の在り方が気に入らない。担任へのささやかな反抗として、「自分の値踏みは全く的外れだった」という経験を作ろうという目論見が始まる。

安斎の動機の方はなんとなく読めたが、それでも読後感はとても良かった。それにこういう高度な「正義のいたずら」を小学生がしかけて戦うという構図自体、自分にはとても魅力的だ。

全体を通じて

5つの短編には一貫したテーマがあった。それは、先入観や思い込みで、他人に対してわかった気になるんじゃないぞということだ。

他の短編でも、内気で運動オンチに見える転校生、無気力に見える先生などが登場し、読者の先入観を超える姿を見せてくれる。

これって、表題作で安斎が先生に仕掛けたのと同じことを、伊坂幸太郎が読者に仕掛けていると言えないだろうか?

もう一つは、罪を犯した人間もやり直せるということ。そのモチーフが少なくとも3つの短編に盛り込まれていた。

4つ目の短編と5つ目の短編には共通の登場人物もいて、「拙者、一冊の中で短編どうしにゆるくつながりが生じて思いがけず後日談が見られるの大好き侍」という気持ちになった。

良くも悪くも周到な構成

初の伊坂幸太郎だったわけで、思ったことを。
ポジティブな感想としては、表題作が面白かったし、5作品に通底するメッセージも好きだった。

一方で、本書は全体的にすごく構成が練られており、それをちょっと過剰にも感じた。終盤が読めるというか、構成的すぎるというか。ここまで丁寧に構成されると、登場人物に実在感がなくなって、著者の操り人形という雰囲気が強くなってしまう。特に3作目でそう思った。

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