『灼熱カバディ』変化球な題材による王道スポーツマンガ
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『灼熱カバディ』変化球な題材による王道スポーツマンガ

マンガONEが1日に限り「全作品全話無料」というクレイジーなキャンペーンをやっていた。実は、以前から『灼熱カバディ』が気になっており、この期に65話までを読むことができた(最新話は168話)。そして、期待以上に面白かったのである。

この作品が気になっていながらも、連載開始からすぐに応援できなかった反省から、心をこめて紹介してみたい。

作者、武蔵野創について

なぜ『灼熱カバディ』を読んでみようと思ったかというと、作者の別作品を知っていたからだ。以前、裏サンデー投稿トーナメントという企画があって、以下のような珍しい形式だった。

第1話投稿→読者投票→上位20作品程度が2回戦進出
→第2話投稿→読者投票→上位10作品程度が3回戦進出
→第3話投稿→読者投票→優勝者が連載獲得

武蔵野創氏はこの企画の第2回、第3回に参加し、どちらも4位に終わっている(※1)。記憶が確かなら、どちらも「レベルが高かったので、1位だけじゃなく、3位までを連載させます!」という発表があったはずだ。悲劇の主人公の誕生である。

そんな彼が、トーナメントで競い合ったメンバーから数年遅れてついに獲得した連載が『灼熱カバディ』だ。背景からしてアツいのである(※2)。だから、連載の報を知ってうまく行って欲しいと願った。しかし、「カバディか…うーん」という感じで、申し訳ないことに自分自身は手が伸びなかった。

最近になって、「灼熱カバディアニメ化」の報を聞いた。眼球が飛び出し、顎が外れ、心臓は1分あたり300回のペースで拍動した。カバディが題材でそんな面白くなるの?作者はトーナメントからどんだけ成長したの?そう思ったからこそ、この作品が気になって仕方なかったのである。

カバディという題材を扱うということ

カバディのルールをまともに知っているという読者はまずいないだろう。しかし、試合中に「カバディ」と言い続けなければならないというルールだけは妙に有名で、競技としては知られていなくても、「カバディはシュールなスポーツ」というイメージは広く共有されているのではないだろうか。

だから、本作のタイトルを見た時、これはギャグ要素が強いだろうなと予測した。しかし、蓋を開けてみると、マイナースポーツをやっていることへの自虐とか、カバディと言い続けることのシュールさを笑いに変えようとする姿勢はほとんどみられなかった。ただただ、カバディというスポーツを愛し、勝利への欲求に身を焦がし、努力に自らを捧げる男臭い世界がそこにあった。『灼熱カバディ』は純度の高い、熱血スポーツマンガなのである。

能力バトル型と純競技型

スポーツマンガの試合の描き方について、個人的には2つの類型があると思っている。『黒子のバスケ』と『スラムダンク』を例にだそう。

『黒子のバスケ』では、バスケットボールという競技に、能力バトルの要素を取り入れていると理解している。他の選手の特技を即座にコピーして再現する能力だったり、自分の影の薄さを限界突破させて虚をついたりといったものだ。多少の理由付けはあるにしても、競技の枠を超えた能力が展開のカギを握っている。

一方で『スラムダンク』は、バスケットボールという競技を高い純度で描いている(フンフンディフェンスは各自記憶から消去すること)。それでマンガとしての面白さを出しているというのは、考えてみると驚異的な表現力なのかもしれない。作者の圧倒的な画力とキャラクターの魅力もあるだろうが、バスケットボールへの理解の深さも極めて大きな要因だろう。

このように能力バトル型と純競技型に分けるなら、『ハイキュー』や『ベイビーステップ』は純競技型だし、『テニスの王子様』や『ライジングインパクト』は能力バトル型と言えるだろう(※3)。そして、個人的には純競技型の方が好きなのである。

さて、『灼熱カバディ』がどちらのタイプかというと、65話まで読んだ限りでは純競技型なのである。よく考えると、これは驚異的なことだと思う。スラムダンクやハイキューは、作者がその競技の経験者だし、テレビ等でトップレベルの試合を多数鑑賞できただろう。しかし武蔵野氏は、カバディ経験者ではないだろうし、テレビでの観戦経験も無かっただろう(※4)。にも関わらず、わかりやすい必殺技の応酬に陥らずに、カバディという競技の攻防自体の面白さで勝負し続けているというのは、かなり凄いのではないだろうか。どうやって、あそこまで競技理解を深めたのだろう。どれだけの執念で取材をしたのだろう。

成長の描き方

競技の描き方が面白いだけでなく、成長の描き方も素晴らしい。主人公たちはもちろん競技への熱を持ち、惜しまず努力する。しかし、その努力にはしっかりと中身があるのだ。

主人公の宵越(※5)は、中学校までサッカーで大活躍をしていた。そんな彼がカバディの初心者として再スタートする。宵越はメキメキと力をつけていくことになるが、当然、サッカー時代の経験が味方をすることになる。

ここで、「サッカー時代に培った運動能力が…」と描くことは容易い。他のスポーツマンガでも、他競技からの移籍組は特定の運動能力に優れていると描写されるものだ。しかし、本作では、宵越のサッカー経験が「自分自身の競技力を合理的に向上させるのがうまい」という形でも活きてくるのである

宵越は初心者なので、練習や試合で悔しい思いをすることは少なくない。そこで、しっかりと悔しがりながらも、相手に負けた理由を理解しようとし、そこから自分の伸びしろを導き出そうと、常に考えているのだ。

主人公のこういった特性は『ベイビーステップ』の丸尾くんを連想させるところである。ベイビーステップのレビューでも書いたが、努力にだって効率や方向性の正しさは存在するのだ。そして、自分はそういうスポーツマンガに強く惹かれるのである。

まとめ

灼熱カバディは、本物の、重厚なスポーツマンガだ。『スラムダンク』のように競技の純粋な面白さを見せつけてくれるし、主人公は『ベイビーステップ』のようにしっかり考えながら成長していく。

カバディという競技のなんとなくのイメージに引っ張られて敬遠するのは大きな損失である。アニメ化を控えた今、大いに注目する価値のある作品だろう。






※1 ちなみに自分は第2回は『Helck』、第3回は『堕天作戦』を全力で応援していたので、その意味で彼の熱心なファンだったわけではない。

※2 もちろん、多くの連載が苦難の果てに始まっているのだろうが、この作品については、作者の苦労の歴史をダイレクトに見てきたので思い入れが違うのだ。

※3 余談だが、『はじめの一歩』は純競技型から能力バトル型に移行した作品と言えるかもしれない。徐々に、試合が必殺技重視になっていき、強敵はデンプシーロールじゃないと倒れない世界観になってしまった。長期化するとやむを得ないのかもしれない。

※4 武蔵野氏は、第3回投稿トーナメントはバスケマンガで勝負していた。バスケ出身だったのではないか。しかし、編集との競技の中でレッドオーシャンのバスケを避けることになったのではと妄想している。

※5 宵越(よいごし)という主人公のネーミング、「4位を超えたい」という意味があったりするのだろうか。

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マジすか
理系の博士。読書好き。専門外のことについても色々と考えてしまうので、思考をアウトプットする場としてnoteを利用しています。投稿記事には専門性の裏付けはありません。