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28.運動のモーション分析
人も犬もそれぞれの運動に合わせて、筋肉が関節を上手に動かすことでカラダを動かします。ここでは、それぞれの運動時の関節の動きなどを分析しながら、その運動が犬のカラダに与える影響を考えます。
脇腹ねじり運動(ツイストクランチ)
脇腹にねじり運動を加えます。
胸椎・腰椎関節の内、上下や左右への曲げ伸ばし(屈伸)は胸椎関節より腰椎関節の可動域が大きく、左右へのひねり(回旋)は腰椎関節より胸椎関節の可動域が大きくなっています。と言うか、回旋運動では腰椎関節はほとんど回らないんですね。つまり、高負荷でねじり運動を続けていると腰椎関節の椎間板をやられるリスクが高くなってしまうわけです。
■ 腹斜筋強化が期待できる。
■ 腰椎(椎間板)の損傷には注意が必要。
引綱運動
いわゆるおもちゃでの引っ張りっこ遊びで、犬は前肢と後肢をおもいっきり踏ん張ります。
小学校の運動会などで行われる「人同士の綱引」は立った姿勢で行いますので、四肢では腕の上腕二頭筋や脚の大腿四頭筋、体幹では背中の広背筋やお尻の臀筋に力が入りますが、犬は四つん這いですので、(自分でやってみたところ)四肢では前肢の上腕三頭筋や後肢の大腿四頭筋、体幹ではお腹の腹直筋に力が入ります。
飼い主の手を振り払おうと首を横に振りますが、この時は首の背側にある板状筋に力が入ります。
犬も人も、7つ並んでいる首の骨(頸椎)の内、頭に一番近い「環椎」とその次の「軸椎」の間の「環軸関節」には椎間板がなく、この関節のおかげで頭を左右にひねりやすくなっています。この環軸関節は動かしやすいがゆえにズレやすくもなっていて、靭帯が傷むことなどで「環軸椎亜脱臼」という症状になると、脊髄を圧迫して四肢麻痺に陥らせることさえもあるのです。
将来のことを考えると、首の筋肉を強くしておくことは良いことですが、負荷が強すぎると首の関節に損傷を与える(運動全般に言えることですが)リスクも高くなりますので、引っ張りっこ遊びの時は犬の力に合わせてある程度手加減するようにしましょう。
■ 板状筋や上腕三頭筋、大腿四頭筋が鍛えられる。
■ 頸部の損傷には注意が必要。
Sit-to-Stand運動
いわゆる自重トレーニング「スクワット」です。
散歩の途中、信号待ちや知人との立ち話の際などには、頻繁に座ったり立ったりさせることで、主に大腿四頭筋やハムストリングスの筋力を強化することができます。股関節脱臼などの歩行リハビリでも多用されています。
伏臥位からの起立運動
いわゆるフセの状態から直接立たせる運動です。
肩関節の屈曲と股関節及び膝関節の伸展が同時に行われますので、四肢に同時に力を入れさせなければなりません。
■ 股関節や膝関節の可動域を維持改善できる。
■ 前肢の抗重力筋と後肢の伸筋が鍛えられる。
後肢立ちスクワット
人が前肢を持ち上げた状態で後肢を屈伸させます。
股関節の角度も広く、後肢への負重も大きいため、「座り立ち運動」よりもはるかに負荷が大きくなります。
■ 後肢の抗重力筋/伸筋が鍛えられる。
■ プロプリオセプション(固有受容感覚)およびバランス能力の強化に役立つ。
■ 股関節や膝関節の可動域を維持改善できる。
■ 関節や靭帯を痛める危険が高く、スピードが速いほど危険度が高まる。
■ 股関節や膝関節、脊椎に障害のある犬にはやらせないこと。
ダンス運動
人が前肢を持ち上げて歩かせる運動です。
後肢に大きな負重を与えることができますが、股関節を開いたままの運動ですので、股関節脱臼などの障害を抱えた犬などにはやらせないようにします。バランスボールやハンモックなどを利用してもできます。
後ろ向きに歩くと自然と膝関節の屈伸が大きくなります。動画でも前進と後進では犬の膝関節の屈曲角度が異なるのがわかります。
■ 後肢の伸筋/抗重力筋が鍛えられる。
■ プロプリオセプション(固有受容感覚)およびバランス能力の強化に役立つ。
■ 股関節の可動域を維持改善できる。
平地歩行
平坦な道をまっすぐ歩かせます
前肢を前に運ぶ時は、頭を上げて、肘関節を曲げて伸ばし、肩甲骨を前方に寝かせます。後ろに運ぶ時は、前指で地面をつかんだ上で肩甲骨を立てながら上腕骨を後方に引っ張ります。
後肢を前に運ぶ時は、膝関節を後ろに股関節を前に曲げ、その後膝関節と足根関節を伸ばします。後ろに運ぶ時は、着地の衝撃を避けるために曲げた膝関節と足根関節を伸ばしながら、股関節を後ろに開きます。
■ 四肢の屈伸により屈伸筋が強化される。
■ 地上からの衝撃により骨や抗重力筋が強化される。勾配がきついほど負重は大きくなる。
■ 緩やかな屈伸運動なので、靭帯や軟骨の新陳代謝に役立つ。
■ 長時間の連続歩行は持久力の強化につながる。
坂道歩行
坂道を登ったり下ったりする運動です。
平地歩行に比べて、登坂歩行は主に後肢への負重が格段に増えますので、散歩に登坂歩行を加えることで、加齢とともに弱りやすい後肢の筋肉(抗重力筋)を手軽に鍛えることができます。
降坂歩行は前肢の筋肉を鍛えられます。前肢筋にブレーキング作業をやらせることはその筋力強化に大いに役立つからです。
登坂も降坂も、速度を上げることでその負重を増やすことができます。
重量物負荷歩行
坂道歩行や階段歩行といった自重トレーニングでは満足しない高運動欲求犬には、重しを入れたザックのような重量物を背負わせたり、ソリやタイヤなどを曳かせたりして負荷を高めてやります。
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重量物負荷歩行をやらせる時は、いきなりではなく、漸進性の原則に従って徐々に負荷を増やすようにしましょう。
全力疾走
ドッグランなどで全力で走る運動です。
基本的に「平地歩行」と変わりませんが、肩関節や股関節は大きく開きます。また、後肢を前に運ぶ際、思いっきり引っ張るために、体幹(カラダの手足を除いた部位)を前屈(腹側に曲げること)させます。
■ 四肢の屈伸により屈伸筋が強化される。
■ 体幹の筋力強化につながる。
■ 地上からの衝撃により骨や抗重力筋が強化される。勾配がきついほど負重は大きくなる。
■ 肩関節や股関節の可動域を維持・改善する。
■ 骨や靭帯、関節などを痛める危険が高く、地面が固いほど危険度は高まる。
ジグザグ歩行
平地歩行に体幹の側屈(左右に曲げること)が加わります。慣れた犬は旋回方向に尻尾を曲げてカジをとりながら進んでいきます。
■ 体幹を側屈させることで胸椎や腰椎を支える筋肉群の横方向への筋力を維持改善する。
■ 四肢の内転筋や外転筋の筋力を強化する。
■ プロプリオセプション(固有受容感覚)およびバランス能力の強化に役立つ。
■ 地上からの衝撃により骨や抗重力筋が強化される。
■ 四肢の屈伸により屈伸筋が強化される。
ハードル越え
アジリティ競技の一つ「ハードル」はカラダ全体を持ち上げて後肢の筋力で高く跳躍します。
跳躍の時は、背中の筋肉や太ももの筋肉を収縮させて力を得て、肩関節も股関節も大きく伸展します。
■ 四肢の屈伸により屈伸筋が強化される。
■ 体幹の筋力強化につながり、高さが高いほど負荷は大きくなる。
■ 地上からの衝撃により骨や抗重力筋が強化され、高さが高いほど負重は大きくなる。
■ 肩関節や股関節の可動域を維持・改善する。
■ 骨や靭帯、関節などを痛める危険が高く、地面が固いほど危険度は高まる。
■ 背が大きく反るので脊椎を痛める危険が高い。
後進
【 直進後進(バック) 】
直進後進の時、前肢は交互運動(ステッピング)となりますが、後肢には前肢を軸にした跳躍運動(ホッピング)が加わります。
後進でもリーディングレッグ(着地の時に先に地面に着く肢)が決まっているのが面白いです。
【 後進股くぐり(バックウィーブ) 】
後進での股くぐりをやる時は、最初は四肢ともステッピングですが、直進後進とは逆に、次第に後肢はステッピングのまま、前肢には後肢を軸にしたホッピングが加わります。
【 後方旋回(スピン) 】
人の周囲をグルグル回る時、前方旋回(アラウンド)の時は人を自分のカラダの横に置いて周りますが、後方旋回の時は後肢を軸にして時計の針のように人を自分のカラダの後方に置いて周ります。
後進で連続して向きを変えなければならない時は、前肢後肢ともホッピングになります。
犬は、ホッピングを利用しないと移動したり方向転換したりすることができないのでしょうか? 今後研究してみようと思います。
階段上り
犬は体重の約6割を前肢に、4割を後肢に支えさせて立っています。加齢とともに後肢の筋肉が衰えてくるのはそういった事情もあるのではないかと思います。階段を上る運動は平地歩行に比べて肘関節や膝関節の屈曲角度が大きくなります。体重配分は後肢に傾きますが、上るために前肢にもより力が入りますので、前肢後肢ともに負重は大きくなります。
上りの時の四肢はほぼまっすぐに動いています。
■ 四肢の屈伸により屈伸筋が強化される。
■ 体幹の筋力強化につながり、高さが高いほど負荷は大きくなる。
■ 地上からの衝撃により骨や抗重力筋が強化され、高さが高いほど負重は大きくなる。
■ 肩関節や股関節の可動域を維持・改善する。
■ 骨や靭帯、関節、脊椎などを痛める危険が高く、地面が固いほど危険度は高まる。
階段下り
下り階段では前肢でブレーキを掛けながら歩くことになります。最近、人のトレーニングでは「上り坂より下り坂の方が筋力強化の効果が高い」と言われていますが、筋肉が伸びる時に力を入れる、つまり筋肉をブレーキとして使う時が良い筋力トレーニングになる、とされています。
下り坂では肘関節の内反(頭側から見て上腕骨が外側に膨らむ動き)と膝関節の内旋(頭側から見て下腿骨が脛骨に対して内側にひねられる動き)が見られます。
■ 地上からの衝撃により骨や抗重力筋が強化される。特に前肢への負重は大きく抗重力筋としての前肢筋の筋力が強化される。
■ 前肢の伸筋が強化される。
■ 骨や靭帯、関節などを痛める危険が高く、地面が固いほど危険度は高まる。
高段差跳び乗り
高い段に跳び乗る時は、主に体幹や後肢の跳躍筋が使われます。
■ 体幹や後肢筋の筋力強化につながり、高さが高いほど負荷は大きくなる。
■ 背が大きく反りますので脊椎を痛める危険が高い。
高段差跳び降り
高い段を跳び下りる運動は、ほぼ重力にまかせた運動であり、前肢がブレーキとして使われます。ノーマルスピードではわかりにくいと思いますが、肩関節や肘関節への負荷がかなり高い運動です。
■ 地上からの衝撃により骨や抗重力筋が強化される。特に前肢への負重は大きく抗重力筋としての前肢筋の筋力が強化される。
■ 骨や靭帯、関節などを痛める危険が高く、地面が固いほど危険度は高まる。
■ 背が大きく反るので脊椎を痛める危険が高い。
障害物歩行
散歩中に、低めの段差や草むらを歩かせることで肘関節や膝関節の屈伸を余儀なくさせることができます。歩行リハビリテーションのプログラムにもなっている「カバレッティレール歩行」や「はしご歩行」「草むら歩行」などを健康な犬のロコモ予防トレーニングに取り入れて、屈筋も鍛えるようにしましょう。
![](https://assets.st-note.com/img/1701864344785-WDFaLMKV9S.jpg?width=800)
草むら歩行
犬を草むらの中に入れて歩かせると、チクチクするのが嫌なのか、四肢の肘関節や膝関節を深く屈曲させてできるだけ上に挙げようとします。
スローモーションで見ると、平地歩行に比べて草むら歩行では、肘や膝の屈曲度が大きくなっているのがわかります。
■ 屈筋強化策として平地歩行より効果的。
■ 肘関節や膝関節の屈曲可動域が広がる。
■ プロプリオセプション(固有受容感覚)およびバランス能力の強化に役立つ。
■ 地上からの衝撃により骨や抗重力筋が強化される。
砂地歩行
歩きにくい砂地では、肢を挙上気味に歩きます。砂の抵抗が、屈筋としての筋力を増やし、カラダを不安定にすることでプロプリオセプション(固有受容感覚)の活性化に寄与します。
■ 肘関節や膝関節の可動域を維持改善できる。
■ 四肢の屈筋が鍛えられる。
■ プロプリオセプション(固有受容感覚)およびバランス能力の強化に役立つ。
■ 地上からの衝撃により骨や抗重力筋が強化される。
雪中疾走
雪中では、固い地面に比べて衝撃が小さくなる反面、抵抗も増えます。
雪中疾走の場合はカラダ全体を抜くように跳躍するような動きになり、雪が深いほど力強く跳躍します。跳躍の時は、背中の筋肉や太ももの筋肉を収縮させて力を得て、肩関節も股関節も大きく伸展します。
■ 屈筋強化策として効果的。雪が深いほど負荷は大きくなる。
■ 肘関節や膝関節の屈曲可動域が広がる。
■ 体幹の筋力強化につながり、雪が深いほど負荷は大きくなる。
■ プロプリオセプション(固有受容感覚)およびバランス能力の強化に役立つ。
■ 地上からの衝撃により骨や抗重力筋が強化され、勾配がきついほど負重は大きくなる。
■ 背が大きく反るので脊椎を痛める危険が高い。
水中歩行
水の中を歩かせる最大のメリットは、水の持つ浮力を利用できるということです。
手根関節や足根関節までのわずかな水位であっても体重の1割程度を免荷してくれますし、背中が出る程度の深さでの水中歩行であれば約6割を免荷してくれます。それでも、砂地歩行同様、歩きにくい上に、水の持つ表面張力や粘性による抵抗が、屈筋としての筋力を増やし、カラダを不安定にすることでプロプリオセプション(固有受容感覚)の活性化に寄与します。
■ 肘関節や膝関節の可動域を維持改善できる。
■ 四肢の屈筋が鍛えられる。
■ プロプリオセプション(固有受容感覚)およびバランス能力の強化に役立つ。
■ 疼痛を緩和しながら運動させることができる。
水泳
水泳では、肩関節や股関節はさほど屈伸せず、肘関節や膝関節の屈伸と手根関節や足根関節の屈伸で推進力を得ています。
体重そのものが免荷されていますので、肩関節や股関節への負重運動としての負荷はほとんどありません。肘関節や膝関節、手根関節や足根関節の屈伸時は水の抵抗が大きく、すべての四肢の筋肉が屈筋あるいは伸筋として使われます。
■ 四肢あるいは体幹の屈伸筋が鍛えられる。
■ 心肺機能を高める。
■ 肘関節や膝関節の可動域を維持改善できる。
■ 疼痛を緩和しながら運動させることができる。
■ 皮膚疾患や循環器疾患の場合は重篤な結果をもたらす危険性がある。
ちなみに、犬が泳ぐ時に指を開くことはよく知られていますが、指の開閉運動というのは、人の神経リハビリテーションでも重要なトレーニングですので、水泳が犬の歩行リハビリテーションに多用されている一つの理由なのかもしれません。また、ボルダリングの選手は、指を閉じる筋肉の拮抗筋としての指を開く筋肉を鍛えることに余念がないそうですので、水泳は地上での走歩行で地面を捉える訓練にもなるのかもしれません。
下の4か月齢の仔犬がはじめて泳ぐ時の画像です。指間はしっかりと開いて水を掻いています。
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