1.iBF仮説
思いの通りに動かせる「筋電義手」
みなさんは「筋電義手(きんでんぎしゅ)」というものをご存知ですか? 「義手」と言うからには生身ではない機械の腕(ロボット)なのですが、その義手の動きを操作するのは、装着している人の「思い」なんです。
たとえば、装着している人が指を閉じたいと思えば指が閉じ、ヒジを曲げたいと思えば肘が曲がり、目の前にあるコーヒーを飲みたいと思えば義手がカップを口まで運ぶ。ただ思うだけなんです。腕を失った方々にとって「夢のような義手」ですよね。すでに開発されて世界各地で利用されています。
仕組はこうです。指を動かしたいという「思い=脳からの命令」は電気信号となって腕を通って指に届きます。でも腕の先がない方はその信号が腕の途中で止まります。しかし、その途中まで届いている電気信号をその先にある義手に伝えれば、その人が命令した動作を義手が代わって行ってくれる、というわけです。
治療ロボット「HAL(ハル)」
サイバーダイン社が市場に出した「HAL」というロボットも、筋電義手同様、装着者がカラダを動かそうと思うと、その思いで発生した電位信号を元に、思い通りにカラダを動かしてくれます。その仕組は筋電義手とほぼ同じです。でもHALが筋電義手と大きく異なるのは、いずれロボットの力を借りなくても自分の力で動けるようになることを目標とした「治療用ロボット」である、ということなのです。
HAL開発の原理となったiBF(インタラクティブ・バイオ・フィードバック)仮説は、動かそうと思えば運動神経を通じてカラダを動かすことができ、動いたら感覚神経を通じて動いたという情報が脳に届く、という、日ごろ健常者のカラダの中で至極当然に作動している神経ループを再生しようというもので、脊髄損傷などでカラダが動かせなくなった方でもそのループが再生できれば、自分の意思でカラダを再び動かすことができる、というものです。そしてHALは現実に医療現場で急速に普及してきています。
DM(変性性脊髄症)にもHALが欲しい!
実は、このHALを使うことで次第にカラダが動かなくなるヒトの難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)の症状が改善したという報告が上がっています。もちろん、ヒトのALSと犬のDMは、原因となる遺伝子変異が共通していることがわかっているものの、残念ながら発症の機序や症状は同じではありません。HALでALSが改善してもDMが改善するとは限らないのです。
それでも、私たちは、DMの進行予防あるいは症状改善に、HALの原理となったiBF仮説が役立つ可能性に大きく期待したいと思いますし、それだけでなく、「DM犬のための効果的な運動療法」も広く探していきたいとも思っています。
WIZ-DOGドッグトレーナー 脇 依里