映画レビュー「ゴジラ-1.0(ゴジラマイナスワン)」

ゴジラ映画の枠を超えた、日本発の優れたエンターテインメント作品。個人的にはゴジラ映画最高傑作! (ネタバレあり)
★5


「シン・ゴジラ」の興奮も冷めやらぬ中
もう次の実写作品が登場した事に驚きましたが、
世代的に怪獣映画大好き人間なので
例えどんな作品でも観るつもりでいました。

できるだけ事前に入ってくる情報をシャットアウトし、
作品に集中できるようにして劇場で鑑賞。

感想・・・・

面白い!!!!!



何より素晴らしいのは「ちゃんと映画として面白い」作品だという事です。

得てしてこの手の作品は
そのジャンルが大好きなファンには刺さるけれども
何の興味もない人たちにとっては「はいはい」という出来になってしまいがちです。

この作品を観た後では
私がゴジラ映画史上圧倒的にナンバーワンの面白さで
万人向けだと感じていた「シン・ゴジラ」でさえ、
ゴジラが好きな人たちに向けたマニアックなジャンルに立ち位置があったと感じてしまいます。

それほどにこの「ゴジラ・マイナスワン」は
何の予備知識もなく普通に観始めて
ちゃんと映画として楽しめる優れたエンターテインメント作品だと感じました。


私はそもそも邦画をあまり観ず
基本的にはほぼ洋画ばかり観ている人間です。

それは
邦画では人物がちゃんと描けていないシナリオが多く
観ていて登場人物に対する感情移入がほとんどできないので
結局観終わっても何も気持ちが動かないという事を
何度も経験して来たからというのが一番大きな理由です。

私の映画の良し悪しの尺度は一にも二にもその部分で、
登場人物に感情移入できるかどうかが一番大切。
いちいち細かい説明はなくとも
自然と人物(特に主人公)の感情の動きに同調できるように作られている作品こそが優れた作品だと思っています。

だってそこが出来ていないと感動する事なんて絶対に出来ないんですもの。

洋画はこれがしっかりとできている作品が多いと感じるんですよね。

まず冒頭の数分だけでも、
登場人物がどういう人間で背景に何を抱えているのか
という部分がサラっと理解できる作りになっている事が多いんです。

それはシナリオが優れているからなんだと思います。
シナリオが優れているからなんなら俳優は自然に振る舞うだけでも成り立ってしまう。

それに対して邦画は
人物がどういう人なのかがまずよくわからないままに放置される事が多く、
そのまま重要なシーンに突入してしまって、やたら俳優の演技にだけ力が入ったシーンが続くような作品が多いと思います。
いくら俳優が頑張ろうとそのシーン自体の意味が観ている側の腑に落ちないならそれは空回りでしかないんですよね。
邦画ってそういう事、本当に多いです。
例えば「シン・仮面ライダー」のクライマックスで3人の登場人物が必死に殴り合いをしているシーン・・・。なんで殴り合ってるんですか?あの人たち。観ていてその中の誰か1人でもその気持ちに寄り添えますか?

さらに言うと「○○という俳優が演技してる」と感じたらもうリアリティはゼロなんですよ。

私が邦画で一番好きな「万引き家族」のリアリティを見てください。
セリフは本当にあの家族の人たちが自発的に言ってるようにしか見えないし、その上で自然とあの人たちが好きになれるように出来ていますよね。


少し話が逸れましたが
私が今回の「ゴジラ・マイナスワン」に関心したのはまずその部分です。

神木隆之介演じる主人公敷島が
最初のシーンでもう「いざという時に逃げてしまう心の弱さを持っているが実直な人間である」という事がすぐに理解できます。

そしてもういきなり現れるゴジラ。

そこで青木崇高演じる橘とのやりとりが展開しますが、
これがちゃんと作品の最後に生きてくるんですよね。

上記は一例に過ぎませんが
この作品が優れていると感じるのは
人物を丁寧に描き、それらがしっかりとストーリーを展開していく上で生きているという部分に尽きると思います。

邦画の悪い部分が全くない。

今回人物設定もそしてキャスティングも素晴らしいんです。
出てくる人物全てにちゃんと感情移入が出来る。

こんな邦画作品、滅多にないんじゃないでしょうか?
(すみません邦画をほぼ観ないので今はそれが当たり前なのだったら嬉しい事ですが)



そしてもう一ついいのは、
時代設定が終戦直後だという事です。

この手の映画って大体が現代を舞台にして
「日本に襲来する大怪獣とそれに対峙する日本政府そして自衛隊」
という図式になってしまいがちだと思います。

確かにそういう規模でないと太刀打ちできない存在がやってくるのだから
仕方ない事だとは思います。

ただ、その事が過去のゴジラ映画を根本的に面白くなくしてしまっている
要因の一つだと感じてます。

我々の普段の生活に国家とか軍隊の視点から物事を捉える意識は全くなく、
そして何より世界で一番平和と言われる日本という国において
「命をかけて戦う」という感覚に我々はリアリティを全く持てないのが
実際の所だと思うのです。

だから過去のゴジラ映画は全てが「空想上の絵空事」という前提を自分の中に作ってその上で観て来たと思っています。
自分の中に「そういう事ね」という理解を作る必要があったんです。
「怪獣が出たんだから戦います」というのはある種のお約束事となり、
そこにリアリティがあるかどうかは問題視されない作りの作品がほとんどだったと思います。
それをまず打破したのが前作「シン・ゴジラ」。
政府の対応をリアルに描き切った事で過去作にないリアリティを生み出す事に成功しましたよね。

でもこの「ゴジラ・マイナスワン」はさらにもっと上を行ってると思います。

我々日本人の中で「戦う」という事に対してリアリティがあった時代。
その一番新しい記憶が第二次世界大戦だと思うのですが、
その直後の時代を背景にして
国のために死をも厭わない決意をしながら生き残ってしまった人々をメインにして描くことで、
現代の日本人である我々に無理なく「命をかけて戦いたい」という想いを伝える事に成功していると思うのです。

人々が命をかけて戦おうとする動機に全く無理がないんですよね。

この設定は見事だと思います。

綺麗で新しい現代の街並みだけが日本なのではなく、
終戦直後には本当にこのような混乱の時代があったのは紛れもない事実だし、
その中で必死に生きて来た人たちがいたからこそ
今の日本がある訳だし。

それらは「事実」なんですよね。

この作品はもちろん架空のゴジラという相手に対しての戦いを描いてはいますが、
上記のようにちゃんと現代日本人の中ですっと腑に落ちる時代設定、そして人物描写がなされているからこそ、
ここまでの説得力を持つ作品になったのだと思います。

「戦う」そして「生きる」。
その事に独りよがりじゃないちゃんとした強い理由がある事が、
しっかりと描き切れています。

そしてその時代設定にした事で
世界に対しても日本という国が直面した歴史的な事実を伝える事ができ、
さらにその上でそれらの背景だからこそ展開出来るストーリーが見事に帰結しているのですから、言う事がないんじゃないかと思います。

一人の日本人としてこの作品を観た時に
「戦う」という事をここまで違和感なく受け入れられたのは、
素晴らしい時代設定と、主人公敷島を中心とした登場人物の心の動きを見事に描き切った素晴らしい脚本があったからこそ。

シナリオの作成に3年掛けただけの事はあります!



「ゴジラ・マイナスワン」は怪獣映画ですが、
全くその枠で捉える必要がないぐらい
映画として見事にちゃんと作られていますし、
何ひとつ空回りしていません。
そしてちゃんと面白い。


稀有なバランスを実現した日本の怪獣映画史上の金字塔的作品だと
言っても全く過言じゃないと思います。





以下、少しだけ個人的な細かいツッコミポイントを。
(これらは全て作品が素晴らしい事を100%受け入れた上での小ネタです)

・ゴジラってどうして毎回毎回真っ直ぐ日本にやって来て
しかも東京、銀座に上陸してしまうのでしょうね?(笑)
本当の意味でリアリティを追求するなら例えば和歌山県に上陸したっていい訳ですもんね。でもやっぱりそれは銀座であって、電車を咥えて引きちぎるというシーンがゴジラ映画の象徴として大切な事なんですよね。84年ゴジラもマリオンを破壊していましたね。

・典子役の浜辺美波は「シン・仮面ライダー」に続いての登場ですね。ライダー物と怪獣物の両方を制覇したのは快挙。まるで故・小林昭二氏のような立ち位置じゃないかと思ってしまいました。

・明子役の永谷咲笑ちゃん、よく頑張ってましたね。私はもう年齢的に小さい子供が泣いてるだけでもらい泣きしてしまうような涙腺が緩いジジイなんです。だから明子ちゃんの気持ちを考えて何度も泣きそうになっていました。でも一番最後のシーンは明子ちゃんも輪に入れてあげてよって思っちゃいましたけどね。

・冒頭の大戸島のシーン。過去のゴジラ映画ならこのシーンはこのシーンで
「ゴジラに襲われた部隊のシーンでした」という描写だけで終わってたんじゃないかと思います。昔なら橘ももう出て来ない。でもそこでの敷島と橘の気持ちの動きがちゃんと物語の肝になり、最後にちゃんとつながって奇跡的な展開を生むのが本当に素晴らしいシナリオだと思いました。

・これはゴジラファンから猛反発を喰らう覚悟で書きますが、
個人的には伊福部氏のゴジラのテーマ曲はもう使わなかった方がよかったんじゃないかと感じました。敷島が「震電」に乗り込んでゴジラを誘導するシーンで流れていたコーラスの楽曲が素晴らしい効果を挙げていたので、そのままその曲のイメージで進んで欲しいと思いましたね。せっかくの素晴らしい作品なのにテーマ曲を使う事で過去のゴジラ(つまらない物も全て含めた)作品に引っ張られてしまうような気がしました。シンシリーズでも感じましたが過去の作品に対するリスペクトはもちろん大切だと思うものの、新しい作品に流石にもう昭和の音楽はそぐわないと思うのです。たとえ戦後日本を描いていたとしても音楽は現代のもので良かったんじゃないかな・・。こんな感想を持っているのは私だけでしょうか??

・典子が電車でゴジラに襲われて、1人だけ落下せずに粘るシーンがありますがちょっと無理があるかなとは思いました。また敷島が銀座ですぐに典子を見つける所とか、いきなり転がり込んで来た典子が美人だったり、めっちゃ巨大で凶暴なゴジラが暴れているのになんでそんなに近くに一般人がたくさんいるの?とか・・。まあこの辺りはそもそもがモンスタームービーなので普通に無視できるレベルのツッコミどころですね。



いや、本当にこれ面白かったですよ。

なにより観ていてちゃんと感情が動く作品である事がもう本当に素晴らしいです。

万人にオススメできます!
私ももう一度観に行こうかなと思ってます!

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