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農林水産省の公式YouTubeチャンネルBUZZ MAFF(ばずまふ)からみる柔軟性と硬直性の狭間

枕にかえて

 Twitterのタイムラインを賑わす動画が、我が家の妻さんの元にも届いた。

 届いた動画の内容は、農林水産省が年末年始の生乳の廃棄を回避することができたことに対するお礼を述べたもので、ほのぼのとした台本があるのかないのかわからないほどにゆるくふわっとした動画だ。

 どうも、えんどう @ryosuke_endo です。農林水産省では、これだけでなくさまざまな動画をYouTubeチャンネル『BUZZ MAFF(ばずまふ)』で制作・発信しており、その内容が省庁っぽくはない点で非常に好評なのだが、その解説なんて烏滸おこがましいことはできないので、ゆったりとみていこうと書きはじめた。

▶︎ 柔軟性がなければ伝わらない

 YouTubeチャンネルをご覧いただければわかる通り、かなりゆるくふわっとした動画が多い。しかし、それがダメだとは一切思わない。むしろ、これまでの硬直的さを想起させるような『官僚』や『省庁』といった言葉の抱く重さから脱却するほどの内容でなければ視聴数を稼げないだろう。

 すべてを真似する必要はない。いや、できない。
 ただ、少なくとも硬直性を抱えがちな企業広報にとっては大いに参考になるのではないか。むしろ、構造からエッセンスを抜き出しつつ、自分たちなりの企画や制作物として活かしていくべきだ。

▷ 根本的な『プロダクト』が存在するからこその柔軟性

 勘違いしてはならないのが、このBAZZ MAFF(ばずまふ)の動画制作を企画段階から真似したところでうまくいくとはいえないということだ。

 多くの企業やサービスは「少しでも多くの人に知ってもらいたい」「ちょっとでも多く売れてほしい」という下心があるはずで、それ自体は企業という組織であれば健全だといえる。

 ただ、BAZZ MAFF(ばずまふ)の場合、すでに国民的な認知度を得ている「農林水産省」という省庁名(ブランド名)があり、立派なプロダクトやサービス(政策)が存在しているという点を見逃してはならない。

 これを無視し、同じ土台に上がって勝負をしようなどとは間違っても考えてはいけない。なぜなら、その知名度や認知度で農林水産省を越えることができるブランド名やサービス名など、日本国内において決して多くはないからだ。

 この「根本的なプロダクト」や「確固たるブランド名」があるからこそ、BAZZ MAFF(ばずまふ)の動画で見られるような柔軟性が活かされる。それもなしに「構図や企画」を真似したところで二番煎じにもならない、無駄なクズ制作物が内輪ノリで誕生するだけである。

 企業広報の場面で、少なくない事業者がYouTubeチャンネルを開設したり、SNSで公式アカウントを運用するようになったが、どれもこれもがうまくいっているとは言えないだろう。

 LINEグループかのように相互フォローを増やしては、共通のハッシュタグを用いて「いいね」や「スキ」を連打したからといって自社の認知獲得や拡大、ましてや自社サービスやプロダクトが売れたり体験してくれる人が増えるなんてことはない。

 何より、自社の売りたいプロダクトやサービスが明確に他よりも優れていること。これが前提なのだ。その次や同じタイミングで中の人が顔を出して自社プロダクトやサービスのスキなところを発信し、同様の投稿をしてくれる人たちのフォロー(アカウントフォローではなく)をして回るお礼周りをするからこそファンが増えるのだ。

 ただ闇雲に柔軟性だけを発揮し、何でもかんでも企画だけを真似すべきではないし、流行り廃りに乗るだけの態度は、ただただ業務工数が増えるだけで徒労感の増える「作業化」してしまう懸念を忘れてはならない。

▷ 仕掛け人がいてこそであり、それを許容してこそ

 これらの企画制作を行う上では仕掛け人となる実行者がいて然るべきなことも忘れるべきではない。ただ企画をすればいいのではなく、それを実行することが必要なのだ

 BAZZ MAFF(ばずまふ)でも、明確に実行する人間がいる。それは同省の広報室に所属する白石優生さんだ。

 「職員のYouTuber計画」「業務時間の2割まで動画制作に充ててよい」とする省内での理解、何よりも「企画内容について上司は一切口出ししない」といった明確な阻害要因を排除していることも特筆すべき点だ。

 ソーシャルメディアのマイナス面に「炎上」があるため、企業イメージを大きく損なうことになってしまう炎上を避けたいのはどこも一緒だろう。しかし、そもそも炎上なんて狙ってできるものではないし、狙ってできるのだとしたらものすごく優秀なPR実務者であるといえる。

 言い方を変えれば、炎上にビクついているような企業の多くは炎上など経験することはない。なぜなら、炎上を明確に分析したことなどない組織がメディアに載せられた情報を目にしてビビっているだけなのだから、経験するできるような状態でもない。

 自転車に乗れもしないのに自転車に乗った事故を想定して自転車に乗らないと宣言をするようなものであり、その滑稽さはいうまでもない。

 特に会社組織においては上層部が主導で行うことはなく、あくまでも「若手」と呼ばれる20代や30代に「丸投げ」しておきながら、「企画などで上がってきた少しでも気になる制作物」を叩き潰すことをやってのける。そんな風にするのであれば、自らが企画して撮影し編集制作すべきなのだが「そんな時間はない」と突き返す。

 しかし、それならばやめてしまうべきだ。やらない方がマシなのである。

 そもそもソーシャルメディアを利用し、肩書きも何も無視した状態で一からフォロワーを1000も集めることは決して簡単ではない。誰も興味ないのだから当然だろう。

 それでも「会社として述べたいキレイゴト」を発信しろというのは、任せられる担当者からすると地獄のような指令だ。そんなものは誰にも響かないし、注目されることもない。そこには何の価値もない投稿が積み重なっていき、誰も興味のないアカウントとして忘れられもしないまま時間ばかりが過ぎるのである。

 だから、やめてしまえばいい。

▷ ソーシャルメディアの運営は片手間でやるものではない

 そもそもソーシャルメディアを運営・運用することは他の業務と片手間でやるようなことではない。しかも、会社上層部はできないけれど重要そうだから...という理由で手を出しているのだから、本格的な運営体制を敷くべきである。

 「スマートフォンでちょちょっとできるんだろう」だなんて発言は愚の骨頂なのだ。

 個人アカウントはそれで構わないが、法人アカウントや組織アカウント、サービスアカウントにブランドアカウント、コーポレートアカウントなど、いろいろなアカウントの種類があるが、正直なところ「誰も知らない」状態から始めなければならないものは、長期的な闘いであることが前提となる。

 フォローしてくれるアカウントがイメージを定着して抱いてくれるようになるために、また、その企業アカウントや組織アカウントの発信を「習慣として楽しみにしてくれる」ようにすることがアカウント運用における一つの目標であることから逆算すると、定期的な投稿だけでなく、突発的な投稿やニッチに向けた投稿など、あらゆる方向からファン候補を探り出していかなければならない。

 今回、主題として扱っているBAZ MAFF(ばずまふ)にしても、時として今回のように爆発的に視聴される動画があるにしても、そのすべてがそうではない。

 日常的な動画もあれば、どうしようもないネタ動画もあるし、明らかな企画動画だってある。ここから言えることは担当者たちの懸命な企画立案であり、その実行する姿勢や態度なのだ。

 業務時間の2割というのも決して多い時間を確保されているわけではないだろうが、その中でも確かな数値上の成果を出し続けているし、時として話題になっている動画も生まれていることから、彼らは省庁を辞めたとしても民間事業者で同様の企画を受け持つことができる実績を積んだことになる。(だからといって無名ブランドの無名プロダクトを著名にすることができるかどうかは別である。)

 だから片手間でいいだろう、ではない。それができるだけのスタッフの特性が必要なのである。ソーシャルメディアの運営・運用とは、それもなしに押し付け、任せつつ、いちゃもんをつけていいようなものではない。

 動画のような情報量の多いメディアであるからこそ、そんなことにも意識を張り巡らせつつ、やっていく事業者が増えていってほしいものだ。

 まぁ、知らんけど。

 ではでは。

 えんどう

▶︎ おまけ

▷ 紹介したいnote

専属で助言したり生計を立てるようなことを生業にしている人間が「むずかしい」とするほどにYouTubeは難しい。YouTubeに限らず、ソーシャルメディアは全般的にむずかしいのだ。決して片手間で成果や結果を出せるような媒体ではないことを認知することがスタートだと言える。

BAZZ MAFF(ばずまふ)の組織体制に関して簡単にまとめてくれているnote。目的から逆算的に方法に落とし込むことは大切なことであるが、同時に、彼らは省庁に入ることができるほどのスペックを持ち合わせていることも忘れてはならない。

ソーシャルメディアは無料で使えるからこそ、あらゆる情報をプラットフォーム側に提供していることを忘れてはならない。ただアカウントを持てばいいのではなく、アカウントを持つ以上は提供している情報以上に利益を得るために行動した方がいいのだ。

▷ 本noteに関連する紹介したい書籍

ピタゴラスイッチや0655などの素晴らしいコンテンツを生み出し続けている佐藤雅彦さんの著書。どうも「わかった風」な人が増える昨今で、きちんと「分かる」を明確にできることの心地よさを感じる書籍だ。

▷ 著者のTwitterアカウント

僕の主な生息SNSはTwitterで、日々、意識ひくい系の投稿を繰り返している。気になる人はぜひ以下から覗いてみて欲しい。何ならフォローしてくれると毎日書いているnoteの更新情報をお届けする。

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