第20回【対談】「私にしかできない事」の積み重ねが今のキャリアに
今回は、講演会「医師100人カイギ」当日のパネルディスカッションの様子を、総合司会を務めた私・平野がお届け。医師として医療課題の解決に奔走する先生方に、目的を成し遂げていくにあたって一番大事にしていることは何かを語っていただきます。
※各登壇者の詳細については以下の記事もご覧ください
■沖山翔先生(アイリス株式会社)
■中西智之先生(株式会社Vitaars)
■柴田綾子先生(淀川キリスト教病院 産婦人科)
■安井佑先生(TEAM BLUE 代表)
※以下、敬称略
やりたいことを貫くだけで世界は変わる
平野:今回は、医師100人カイギ最終回となります。そこで、本日ご登壇いただいた皆さんに、後進である若い人たちへ向けたメッセージをいただきたいと思います。ご自身が一番伝えたいことや、現在のキャリアに至る中で最も大きかった出来事などを教えてください。まずは安井先生からお願いします。
安井:僕の人生のテーマとして「愛と勇気と冒険」という言葉を掲げています。きっかけは、師に出会ったことですね。医師3年目でミャンマーに行った時、国際医療ボランティア団体「ジャパンハート」の創始者である吉岡秀人先生に出会ったことが、僕の人生を大きく変えました。
平たく言うと、(吉岡先生は)すごく不器用な人なんです。僕のほうがはるかに恵まれた環境で育ったと感じる部分もあります。しかしそんな不器用な人でも、ただ志を貫くというだけで、これだけ世の中を動かせるんだということを見せてもらったんです。だとすると、吉岡先生よりもいろいろな機会に恵まれている自分が、世の中をよくしたいと口だけで言って行動しないのは、どれだけカッコ悪いことなんだと腹を決めるきっかけになりましたね。
中西:自分の興味があることにのめり込むことでしょうね。柴田先生が藤原和博さんのお話を紹介されていました。自分が100人に1人の存在でも、それが3つあれば、3乗して100万人に1人になるという話には、私もすごく共感しています。
ではその3つがなんなのかという問題ですが、最初から戦略的に3つを選ぶのは、なかなか難しいことだと思います。まず自分が興味のあることに全力で取り組んで、それが3つ重なったところがオンリーワンになれる領域だと思うんです。ですから、まずは自分の興味あることを見つけることが大切です。
柴田:自分にしかできないことは何かをとことん考えることですかね。やはり40代になると体力的にもキャパの限界が見えてくるので、20代、30代で自分の強みを作って、そこと社会的ニーズを擦り合わせていく。
ただし、他の人がすでにうまくやっているところにあえて手を出す必要はないので、自分にしかできないところで力を尽くす。それがどこにあるのかを分析することが大事だと思っています。
沖山:私も何か自分が没頭できること、好きなことが一番だと思います。私が「起業する前に全国の病院を自分の目で見て回った」という話をすると、自分にはそこまでできない、と感じる方もいるかもしれません。でも実際は、当直や遠出は元々苦じゃなくて、逆に普段と違う環境に行けることが自分にとっては新鮮でありがたいくらい。
やはり自分ができることをやっていただけなんですよね。柴田先生がポジショニングについてお話ししていましたが、私にも共通するところがあるなと思いました。自分が得意で、かつ、何か世の中のためになること、自分のキャリアのためになること。そういうところを探しながら、あるいは創っていけると、自分にとってもやりがいになるし、持続しやすいのかもしれませんね。
次世代の医療人に求められるのは「人間力」
平野:ここで登壇者の方から他の方に質問があれば、ぜひうかがいたいのですが。
柴田:質問していいでしょうか。次の世代の医療を作るにはどういう医療人が必要かといったテーマを私はよく考えるのですが、皆さんはどう思われますか。今後の日本の医療がどうなるかにもよると思いますが、どういう医療人が求められているか、またどういう能力が必要か。皆さんのお考えをぜひ聞いてみたいです。
沖山:私の考えでは、もちろん医療の中を変えていくことも大事ですが、私のいるベンチャーや研究開発との関連性で言うと、より、外の人とコミュニケーションを取れる人、外の世界に興味がある人が、医療を良くする価値を発揮しやすいと思います。
しかし、今の医学部の授業だけだとどうしてもそういう人が増えにくい構造があるとは思っています。ですから、もう少し部門をまたぐという意識を育てられるシステムが必要な気がしています。
安井:これからの日本は圧倒的に高齢者が増えていき、このままでは医療がもたない。社会全体が下降のフェーズに入る中で、日本はお先真っ暗だって中途半端に主張する日本人がすごく多いと思うのです。でも、僕らが今いる日本の状況って、世界のどの国よりはるかに幸せなんです。ですから、人口減に伴う下降フェーズの中でも、自分たちが今持っている価値をどう発揮していくかが、社会や、日本の医療全体として大事な問いだと思うんです。
でもこの日本の中だけにいる限り、われわれが今すごく幸せだということを皆が感じられていないので、どんな形でもいいから海外に出ていき、そこから自分たちの価値を再定義していくことが必要なのではないかと思っています。次の時代の医療人に求められるのは、日本の医療がもうもたないということを前提に、課題解決的思想を持つことではないでしょうか。
中西:沖山先生が先ほど外の世界の人たちとコミュニケーションを取ることの大切さの話をされて、安井先生は、死に向かっていくフェーズにおいて人とどう接するかというテーマをお話しいただきました。皆さんおっしゃるように、そういう人間力を磨くことが、今後すごく大切になってくることは確かだと思いますね。
まとめ
先程の「司会・平野のひとこと」で、オンリーワンなキャリアの築き方に触れましたが、後半はまさに「どのように社会に役立っていくか」という話でした。自分で課題を見つけること、外の世界と積極的に交わること、これは学生時代からでも鍛えられる内容です。
この医師100人カイギで伝えたかったメッセージ、それは「多様な医師が社会で活躍していることを知ってほしい」、そして「そのキャリアはすごく身近なところにある」ということです。
登壇いただいた皆さんはまさに素晴らしい「活動」と「人間力」を持たれていました。しかし医師になった当初から素晴らしい活動をしていたわけでも、狙ってしていたわけでもなく、さまざまな経験をし、時には失敗をしながら、今の活動につながっていました。
その姿は決して「すごい人がすごいことをしている」わけではないですし、人間的な失敗・葛藤があったことも多くの方が語ってくださいました。
そんな姿を通じて、少しでも視聴者の、この記事を読んでいただいた皆様のキャリアが良い方向に行きますように。そう願って、この会を締めくくらせていただきます。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。ぜひ気になる記事は引き続き読んでいただければ幸いです。
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