高齢者の高血圧治療の原因・特徴と具体的な薬剤選択の工夫

高齢者になれば,高血圧の有病率は増えます.

機序はさまざまですが,まぁ,少なくとも減りはしないことは,容易にわかりますよね.

ますます高齢化が進む社会,特に,長寿国・日本において,高齢者の高血圧加療から目を向けることは無理でしょう.

今回は,高齢者高血圧の特徴と,そこから想定される薬剤選択・導入の話,ザックリします.

※降圧目標も含めて,ガイドラインに基づく詳細な解説はこちら.

病態生理・原因の特徴

➀血圧動揺性の増大
血管心筋コンプライアンス(柔軟性)の低下や,圧受容器反射(自律神経反射のトリガー)の低下などが原因として考えられます.

➁脱水・溢水・電解質異常の易出現
腎機能低下や食事摂取量が不安定であること,などに起因します.

➂収縮期高血圧が多い
動脈硬化のため動脈の伸展効果が低下し,脈圧が開大しやすくなります.

➃仮面高血圧の可能性が高くなる
種々の要因(自律神経,腎機能,耐糖能異常など)でnon-dipper型(夜間血圧が下降しにくい)やモーニングサージ(早朝高血圧)などのタイプが多くなるためです.

高齢者の特殊性

➀転倒骨折のリスク

高齢者の転倒・骨折は,要介護の原因の10%を占めます.

降圧薬の新規開始・変更時は骨折リスクが上昇するので注意が必要.

骨粗鬆症患者で,特に積極的適応となる降圧薬がない場合,サイアザイド系利尿薬が推奨となる.

➁過度の減塩や脱水のリスク

体液の恒常性が保たれにくくなるので,季節や摂食内容の変化や,施設入所などの生活環境の変化で,血圧が変動し,服薬調整が必要となる可能性が高い.

➂服薬アドヒアランスの低下リスク

単純な理解不足に加え,認知機能の低下,視力の低下(薬剤容器の開封能力)など,多くの因子から服薬アドヒアランスが低下する.


具体的な薬剤選択,導入の工夫

ガイドラインによれば,「高齢者であれば○○を優先して選択する」という旨の記載はありません.

75歳未満と同様に,心疾患既往,腎機能(蛋白尿の有無),糖尿病の有無などを元に,第一選択薬であるCa拮抗薬,ARB/ACE阻害薬,サイアザイド系利尿薬,の中から薬剤選択をするのが基本です.

ただ,実状として,75歳以上では腎機能障害や糖尿病などの代謝障害を抱えている人は多くなるので,サイアザイド系利尿薬の使用は慎重にすべきです.

特に,こういった腎障害や糖尿病がある場合,(若年者と同様ですが)ARB/ACE阻害薬が推奨されることは覚えておきましょう.

また,第二選択薬であるβ遮断薬は,高齢者ではリスクが高いので,心疾患がない場合は,極力使用は控えた方がいいでしょう.

高齢者では,誤嚥性肺炎が多くなります.ACE阻害薬は,サブスタンスPの分解を阻害することによって嚥下反射・咳反射を改善させることが期待されます.脳卒中学会のガイドラインでも,嚥下性肺炎予防のためにclassⅡbで推奨されています.

時に,サイアザイド系利尿薬は(上述したように)高齢者で敬遠されがちですが,薬理作用として血清カルシウム値が上昇する可能性があります.このことから,高カルシウム血症や副甲状腺機能亢進症では慎重投与となっているんですが,骨粗鬆症患者では,血中カルシウム濃度の増加だけでなく,二次的な副甲状腺ホルモンの分泌低下にもつながるため,むしろ推奨されています

実際に,サイアザイド系利尿薬によって骨折頻度が低下したという報告もいくつかあります.

Effects of thiazide diuretic therapy on bone mass, fractures, and falls. The Study of Osteoporotic Fractures Research Group. Ann Intern Med. 1993 May 1;118(9):666-73.
Association of 3 Different Antihypertensive Medications With Hip and Pelvic Fracture Risk in Older Adults.JAMA Intern Med. 2017;177(1):67-76.

いずれにせよ,高齢者が若年者に比して副作用頻度が高くなることは自明なので,薬剤導入・追加・増量はより慎重に,時間をかけて行うべきでしょう.

また,服薬アドヒアランスが低下することに対して,合剤の選択薬剤の一包化1日1回で済むlong actingな薬剤の優先,なども重要です.

服薬タイミングは,なんとなく「朝1回」で始めることが多い印象ですが,病態生理的に高齢者の高血圧は,non-dipper型(夜間血圧が下降しにくい)やモーニングサージ(早朝高血圧)が多いので,「夕食後内服」に切り替えることで,血圧変動をコントロールできる可能性があります.

日々の血圧記録の指導も大事ですね.




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?