【糖尿病にβ遮断薬は使わない方がいい?】β遮断薬と糖代謝【おすすめの薬剤選択も】

糖尿病症例ではβ遮断薬が使用しづらい

という話を聞いたことがあるでしょうか?

β遮断薬は,副作用が少なくなく,2014年のガイドライン改訂で,降圧薬の第一選択から外れ,悪い印象を持たれやすいと思います.

一方で,β遮断薬の心不全や心筋梗塞症例に対する予後改善効果は明らかであり,心疾患に関わりのある医療者であれば,その重要性もご存知かと思います.

ただ,そんな心疾患に関わりのある医療者でも,糖尿病症例へのβ遮断薬の使用に慎重な方はいるかもしれません

それは,β遮断薬が糖代謝を悪化させるからです.

 

今回は,β遮断薬と糖代謝の関係から,糖尿病症例への使用はどのようにすればいいのか,エビデンスや具体的薬剤選択も含め,わかりやすく解説します.

 

交感神経活性とインスリン抵抗性

高インスリン血症は,交感神経活性を上昇させます

機序としては,中枢への直接作用や血管拡張作用などが考えられています.

インスリン抵抗性が高い症例では,代償として血中のインスリン量が増えているので,交感神経が亢進していることがしばしばあります.

一方,交感神経興奮により,血管収縮が起こると,骨格筋血流が低下します.
すると,インスリンによる骨格筋へのブドウ糖の取り込み作用が低下し,インスリン抵抗性が増すことになります.

つまり,インスリン抵抗性と交感神経の亢進は,それぞれを相互に悪化させる状況が生じることがあるわけです.
(≫糖尿病と高血圧の関係にもつながります.)

 

β遮断薬と糖代謝の関係

この背景をふまえて,β遮断薬を考えます.

前項の話を聞くと「交感神経を抑えるβ遮断薬は,インスリン抵抗性がむしろ改善しないの?」と思うかもしれませんが,違います.

交感神経の受容体にはβ受容体とα受容体があるからです.

β遮断薬は,その名の通り,β受容体刺激を抑制するので,交感神経緊張をα受容体優位にします.

このことは,骨格筋血流低下を助長し,インスリン抵抗性が上昇します.

これが,β遮断薬が糖代謝を悪化させるメインの機序です.

 

また,β2作用を遮断すると,膵臓のインスリン分泌の低下などが起き,血糖値が上昇しやすくなることも,β遮断薬の糖代謝悪化には関係しています.

・インスリン抵抗性は交感神経活性を亢進させる.
・交感神経緊張は,インスリン抵抗性を上昇させる.
・β遮断薬は,α作用優位にすることでインスリン抵抗性上昇させ,糖代謝を悪化させる.
・β2作用抑制インスリン分泌低下などが起き,糖代謝の悪化させる.

 

糖代謝悪化以外にβ遮断薬を糖代謝に使用しづらい理由【低血糖を遷延・マスク】

β2作用遮断には,先ほど言ったインスリン分泌低下以外にも,糖尿病症例での不利益があります.

β2受容体刺激が減ると,肝臓骨格筋でのグリコーゲン分解抑制が起こり,低血糖が遷延しやすくなります.

また,頻脈・手指振戦などの低血糖症状は,β2作用遮断によりマスクされてしまうことがあります.

このことも,β遮断薬が糖尿病症例で敬遠される理由です.

 

それでもβ遮断薬を糖尿病症例に使いますか?「必要なら絶対に使うべき」

ここまでの話を聞いたら,β遮断薬を糖尿病症例に使用するなんて,何かの間違いかと思いますよね?

結論は

「β遮断薬が推奨される状況で
糖尿病を理由に使用をためらうことは絶対にダメ」

「必要なら絶対に使うべき」

です.

β遮断薬の使用が推奨される状況の代表は,心筋梗塞後低心機能の心不全です.

心筋梗塞後や低心機能の心不全において,β遮断薬明らかに予後を改善させることがわかっているからです.

この予後改善効果のためなら,正直言って,糖代謝の悪化など取るに足らないことです

なぜなら,糖尿病症例の血糖の正常化自体に,予後改善エビデンスや心血管イベントの抑制効果は(明確には)確認されていないからです.
(≫糖尿治療のエビデンスはこちらの記事で解説しています.)

また,β遮断薬による糖代謝の悪化に関しては,血糖降下薬の増量・強化で対応しうりますが,予後改善効果は他の薬剤で補えませんからね

特に,β遮断薬を心筋梗塞後症例に使用した場合,心血管イベント抑制効果,全死亡の減少効果は,非糖尿病症例より糖尿病症例で大きいことがわかっています.(Eur Heart J. 1990 Jan;11(1):43-50.)

「むしろ,糖尿病症例でこそ絶対に使いなさい」

と,いうことです.

これらの考え方から,糖尿病症例へのβ遮断薬の使用をためらうべきでない,ということを覚えておきましょう.

 

糖尿病症例でβ遮断薬を使用する時の具体的な工夫

前項の通り,β遮断薬を使用する最も大きな理由は,予後改善効果です.

本邦で使用可能なβ遮断薬のなかで,予後改善効果が認められているものは,カルベジロールビソプロロールの2種類ですが,糖尿病症例であえて選択するのであれば,カルベジロールがいいです.

理由は,α遮断作用による骨格筋血流の改善がインスリン抵抗性を改善させ,糖代謝への悪影響が少ないとされているからです.

GEMINI試験(JAMA. 2004 Nov 10;292(18):2227-36.)
ACE阻害薬/ARBの投与された2型糖尿病患者を対象に,メトプロロール酒石酸塩とカルベジロール糖代謝への影響を比較.
結果:
HbA1c値は,メトプロロール群では有意に上昇したのに対し,カルベジロール群では上昇を認めませんでした
HOMA-IRにより測定したインスリン抵抗性は,カルベジロール群で有意に改善しました.

本記事の序盤で説明した通り,β遮断薬による糖代謝悪化は,α作用が相対的に優位となることがメインの機序でしたからね.

 

ただ,もう一つのビソプロロールも悪くはありません

ビソプロロールは,内服のβ遮断薬で最もβ1選択性が高いからです.

上述した通り,β2作用を遮断すること糖代謝を悪化させ,さらに,低血糖症状をマスクします.

ゆえに,β1選択性が高いことも,糖尿病症例で有利となるわけです.

 

・特に理由やこだわりがなければ,糖尿病症例で用いるβ遮断薬はカルベジロールがbest
心拍数を低下させたい場合閉塞性肺疾患合併時などは,β1選択性が高いビソプロロールでも問題なし.
・いずれも,予後改善効果の確認されている優れたβ遮断薬.

 

まとめ

今回は,糖尿病とβ遮断薬の関係を解説しました.

ザックリ言います.

(予後改善効果の認められている)
カルベジロールとビソプロロールに関して
「糖尿病だから」とβ遮断薬の使用をためらう意味は全くなし

です.

 

2020年最後の記事は以上になります.

今年もお世話になりました.

来年もよろしくお願いします。

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