【HFrecEF/HFworEF/HFuncEF】新しく追加されたLVEFによる心不全の分類を解説(2021年 JCS/JHFS ガイドラインフォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療より)

先日の日本循環器学会総会中に発表された「2021年 JCS/JHFS ガイドラインフォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療」では,LVEFによる心不全の分類が追加されました.

「はぁ~,またややこしくなった💦」

「覚えることが増える~,めんどくさい~」

「分類多すぎて心不全嫌い~」

と思っている人も多いのではないでしょうか?

でもですね,

そもそも今回追加されたHFrecEF/HFworEF/HFuncEFの分類は,これまでの分類とは少し立ち位置が違うと思います.

なので,頭の中をこんがらがらせなくてもいいです.

(極論,知らなくても臨床はやれます←)

 

でも,せっかくだから,新しく追加されたHFrecEF/HFworEF/HFuncEFという心不全の分類について解説をしていきますね.

まぁ,流し読みしてみてください.

 

⓪前提:LVEFによる心不全の分類

左室駆出率LVEFは,心収縮能の指標の1つです.

LVEFは,計測が容易であり,収縮能の単一指標として優れていました.

そのため,心機能評価による心不全の分類で,古くから用いられてきました.

心不全発症時のLVEFを用いた心不全の分類は,従来のガイドラインにも記載されており,LVEFの値によって,HFrEF/HFmrEF/HFpEFの3つのカテゴリーに分類されます.

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この従来からあるカテゴリーを”定点的な”収縮能評価による心不全の分類とするのであれば,今回の2021年 JCS/JHFS ガイドラインフォーカスアップデートで追加された「HFrecEF/HFworEF/HFuncEF」は,経時的な収縮能変化による心不全の分類です.

では,見ていきましょう.

 

➀HFrecEF:LVEFが改善した心不全(heart failure with recovered ejection fraction)

呼び方は”リカバード”というのが一般的な様子です.

「最初,心不全起こしたときより,心機能が良くなりましたー」

という状態.

心不全の慢性期管理に触れることの少ない方は知らないかもしれませんが,

HFrEF(EF<40%)であった方が,経時的にLVEFが改善することは少なくないんです.

それは,β遮断薬などの心保護薬のおかげであったり,頻拍誘発性心筋症(tachycardia-induced cardiomyopathy)でHRをコントロールした結果であったり,虚血性心疾患の血行再建で気絶心筋や冬眠心筋が回復した結果であったり,原因はさまざまです.

HFrEFとHFmrEFの2-4割程度が,このHFrecEFになると言われています.

結構多いですよね.

HFredEFは一般的に予後良好とされます.

また,女性,若年,非虚血性心疾患に多いといわれています.

➁HFworEF:LVEFが悪化した心不全(heart failure with worsened ejection fraction)

呼び方は”ワースンド”になるんでしょうか?
”ワースニング”と呼ばれることもありそう.

「あれ,最初の心不全のときより,だんだん心機能が悪くなってきちゃったな...」

というパターン.

HFworEFは一般的に予後不良とされます.

HFpEFの1-4割HFmrEFの2-3割が,HFworEFに移行するとされています.

男性,虚血性心疾患などが LVEF悪化の予測因子とされています.

 

➂HFuncEF:LVEFが変化しない心不全(heart failure with unchanged ejection fraction)

呼び方は”アンチェンジド”というのが一般的な様子です.

HFrEFとHFpEFの大多数(6-9割)は,このHFuncEF

HFmrEFのみ,HFuncHFが3割程度と少ないが,これは,そもそもLVEFの範囲が40~50%と狭い範囲で定義されていることにともなって,測定誤差の因子が多いのでは,とされています.

■HFrecEF/HFworEF/HFuncEFの分類から見えてくること

上述しましたが,結局のところ,HFrEFとHFpEFの大多数(6-9割)はHFuncEFです.

なので,”大多数から外れる特殊パターン”であるHFrecEFの特徴と,HFworEFの特徴を,それぞれ抑えることが重要だと考えます.

それをイラストにまとめると,こう☟

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背景や割合もチラ見してほしいですが,最も重要なのは,”予後の違い”なのかな?と思ってます.

 

  

■LVEFは予後指標になるのか?

そもそも,従来より,LVEFが心不全の予後指標になるか否かは,結論が出ていないところでした.

なんとなくHFrEF(EF<40%)の方が予後が悪そうですけど,そうでもないんですよね.

古典的には,そう考えられていた時期もありましたが,「HFpEFも,HFrEFと予後はほとんど同等だった」という大規模臨床試験の結果などがあり,考え方が変わってきました(N Engl J Med. 2006 Jul 20;355(3):251-9. ).

これには

標準治療がどんどん浸透し,改良されてきたHFrEF
確立された治療方針がいまだ定まらないHFpEF

という,対称的な動きに起因するのかもしれません.

高齢化が進み,高齢者に多いHFpEFの有病率増加,および基礎疾患の複雑化も関係しているかもしれません.

つまるところ,これまで行われた”定点的な”収縮能評価による心不全の分類では,心不全患者さんの予後はあまり語れませんでした.

 

■新しい分類はどうか

では,今回加わった経時的な収縮能変化による心不全の分類はどうか.

まず,初発心不全時より,EFが改善した方が,EFが改善しないより予後がいい,というのは感覚的にも納得できませんか?

つまり

➤初発心不全時に同じHFrEF(EF<40%)でも
「その後にEF改善した人(HFrecEF)」は
「その後もEFが変わらなかった人(HFuncEF)」
より予後良好

とされています.

また,”現在”のEFが同じでも,それ以前からのEFの移り変わりで,予後予測になるという報告があります.

➤現在同じHFpEF(EF≧50%)でも
「最初の心不全のときよりEFが改善した結果,今はEF≧50%(HFrecEF)」は
「最初の心不全のときから変わらずEF≧50%(HFuncEF)」
より予後良好

➤現在同じHFrEF(EF<40%)でも
「最初の心不全のときよりEFが悪化した結果,今はEF<40%(HFworEF)」は
「最初の心不全のときから変わらずEF<40%(HFuncEF)」
より予後不良

イラストにすると,こう☟

画像4

つまるところ,新しく追加された経時的な収縮能変化による心不全の分類予後指標なのかな?と思ってます.

 

【注意点】
HFrecEFで
「EFが良くなったから」といってβ遮断薬などを中止したところ,EFの再低下を認めた
という報告があります.
(心機能が低下していた原因にもよりますが)HFrecEFであっても,元々の標準治療薬は継続するのが基本,というふうに考えてください.

 

■まとめ

ということで,まとめると

➤従来からのHFrEF/HFmrEF/HFpEFのカテゴリー:”定点的な”収縮能評価による心不全の分類は,病態の推定や,治療方針の決定は左右していましたが,予後指標としてはイマイチでした.

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➤新しく追加されたHFrecEF/HFworEF/HFuncEFのカテゴリー:経時的な収縮能変化による心不全の分類は,一定の予後指標となる.

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という感じで,立ち位置が少し違うのかな,と思います.


ただし,結局,「予後が違う」ということは,「異なる病態をみている」という可能性があります.

すると,今後,HFrecEF/HFworEF/HFuncEFの経時的な収縮能変化による心不全の分類が,治療方針の決定に影響を及ぼす時代もくるかもしれません.

今後の報告に注目ですね!

  

今回の話は以上です.

本日もお疲れ様でした!

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