【よくある組み合わせ】腎不全と利尿薬の選択【使い分けやポイントを解説】

腎不全では,体液が貯留します.

体内の水分の調整を担う腎臓が”バカ”になっているからです.

ここで利尿薬の出番が来ることがありますが,腎不全症例では,利尿薬が効きづらくなります

健常人がフロセミドを内服すると,とんでもなくオシッコが出るって言いますよね.
腎機能がすっごい正常だから,こういうことになるんだと思います.

さらに,利尿薬を使いすぎると,脱水から腎血流が低下し,さらなる腎機能の増悪にもつながります.

このように,一般的には,腎不全があるだけで,利尿薬は使用しづらくなります

今回は,腎不全症例における利尿薬の使用の仕方や選択のポイントを解説します.

 

0.利尿薬治療と腎機能:心腎連関

まず,腎不全症例において利尿薬を使う上で,心臓ー腎臓の関係は知っておく方がいいです.

利尿薬の治療対象は,浮腫うっ血状態ですよね?

これは,心不全状態であることが多いです.

心不全では,➀腎血流の低下➁神経体液性因子の亢進(交感神経系・RAA系・ADH系などの亢進)➂腎うっ血(腎間質の浮腫)などが,腎機能の増悪を招きます.

この3つの因子は,頭の片隅に置いておきましょう.

(≫心腎連関の解説はこちらの記事.)

 

1.腎不全とループ利尿薬

まずは,”The利尿薬”であるループ利尿薬.

腎不全症例でも有用であり,非腎不全症例と同様に,利尿薬治療の中心的な存在と言えます.

ヘンレのループの太い上行脚にあるNa-K-2Cl共輸送体を阻害し,

ナトリウム再吸収抑制果+ヘンレのループの濃縮機構阻害効果

の2つの効果が合わさって強力な利尿効果を生みます.

(≫ループ利尿薬が最強の利尿薬である理由はこちらの記事で解説しています.)

「そんなに強力な利尿作用だと,(血管内脱水で)腎血流がすごく低下しちゃいそうじゃない?腎血流が低下したら,尿がすぐ出なくなっちゃうんじゃない?」

と思われるかもしれません.

もちろん,ループ利尿薬を使っていれば,いつかはそのような腎血流の低下は生まれますが,腎血流の低下を緩和するような作用がループ利尿薬にはあります.

それが,ループ利尿薬による尿細管ー糸球体フィードバックの阻害です.

■尿細管ー糸球体フィードバック
遠位尿細管管腔内へNa+, Cl-の流入が増加すると,マクラデンサを介したRAA系が抑制され,輸入細動脈の収縮.糸球体濾過量が抑制されます.
この一連の反応を尿細管ー糸球体TGフィードバックと言います.
要は,「尿が多そう→糸球体に入る血液減らしちゃお」という反応.

ループ利尿薬は,(ヘンレのループだけでなく)マクラデンサのNa-K-2Cl共輸送体も阻害します.
すると,この尿細管ー糸球体フィードバックによる糸球体濾過の抑制が起きにくいということです.

「利尿をかけても,腎血流を保とうと働く」

と理解してください.

このため,(ある程度の期間は)安定した利尿効果が継続的に得られます.

利尿効果の強力さと安定感ゆえに,体液量過剰の原因が心不全・腎不全のいずれであろうとも,急性期うっ血治療の1st choiceとなります.

ただ,用量に関しては注意が必要です.

(私の記事で頻出させていますが)ループ利尿薬の反応性と心不全・腎不全の関係性を示した有名なグラフがあります.☟

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すなわち,ループ利尿薬の利尿作用が優れていることは間違いありませんが,「ループ利尿薬の反応が悪いな....なんでだろう??」と思った時,このグラフを思い出してください.

慢性腎不全では,(腎臓の機能単位である)ネフロンが減少しているので,単純に作用が用量依存に弱まっていることがあります.

この場合は,増量すれば効いてくるでしょう.(グラフの緑の線)

一方,心不全の要素が加わると,前項で述べた心腎連関の一環として神経体液性因子の亢進が,ループ利尿薬の作用を邪魔します.

代表的なものとして,ループ利尿薬使用時のRAA系の亢進です.

このような機序が生じている(心不全合併)腎不全症例にループ利尿薬をどんどん増やすと,どんどんRAA系が亢進していくだけで,利尿作用は頭打ちになります.(グラフの赤い線)

また,このことは利尿作用を頭打ちにするだけでなく,RAA系の亢進が腎機能のさらなる増悪を生みます.

つまり,まとめると,腎不全の要素が強い体液貯留にループ利尿薬を増量していくことはTryしていくべきですが,(心疾患の合併など)心不全要素の合併が示唆される場合は,ループ利尿薬の増量は慎重になり,他の利尿薬の併用などを検討していくべきです.

(≫ループ利尿薬の解説はこちらの記事.)

 

2.腎不全とミネラルコルチコイド拮抗薬(MRA)

腎不全症例において,MRAは使用づらいです.

MRA自体は,心不全の標準治療薬であり,非常にいい薬なんですが,高K血症のリスクが高まるからです.

ただ,前述した通り,ループ利尿薬が効きづらい状況(抵抗性)の原因の一つとして,RAA系の亢進の可能性があります.

ゆえに,腎機能や血清K値を参考に慎重な併用は有効です.

画像2

これは私見も含みますが,腎機能や血清K値で区分したMRAの使用目安です.

MRA単剤での利尿作用は弱いことだけ注意してください.

腎不全症例にMRA単剤で利尿をかけるのは無謀です.

利尿作用を目的にMRAを使用する際は,あくまでもループ利尿薬の抵抗性の対応だと考えてください.

(≫MRAの解説はこちらの記事.)

 

3.腎不全とサイアザイド系利尿薬

サイアザイドも腎不全には使用しづらい薬剤です.

(詳しい機序は不明ですが)GFR<30では,ほぼ無効になるとされます.

そもそも,サイアザイドもMRA同様,単剤での利尿作用が弱い薬剤です.(MRAよりはマシですが)

降圧薬としては優れていますが,(体液貯留を解除する)利尿薬としてはキーマンをはれるほどサイアザイドは活躍できないんです.

ただし.

こちらも,ループ利尿薬の抵抗性のときに利尿作用のお助けができます.

これは,ループ利尿薬を長期使用していると,遠位尿細管Na-Cl共輸送体の機能が亢進してしまうことに起因します.

心不全診療ガイドラインでも

ループ利尿薬抵抗性の際は
(前述した)MRA もしくは サイアザイド
併用をまずは検討する

という記載があります.

ここが,腎不全症例のうっ血解除におけるサイアザイドの使用方法です.

MRAとサイアザイド,どちらを併用するかはさまざまな状況によりますが,一番手っ取り早いのは,血清K値かなと思います.

血清Kが高めなら,(MRAが使用しづらいので)サイアザイドの併用をまず考え,

そうでなければ,(心不全のエビデンスが強い)MRAの併用をまず考える.

こんな感じで考えましょう.

(≫利尿薬抵抗性への具体的な対応方法はこちらの記事で解説しています.)

(≫サイアザイドの解説はこちらの記事.)

  

4.腎不全とトルバプタン

トルバプタンは,主に集合管に作用します.

慢性腎不全の病態には,腎虚血(腎慢性低酸素)の関与があるとされますが,腎髄質は(皮質に比して)低酸素の影響を受けづらく,腎不全症例でも集合管の機能は(尿細管に比して)温存されやすいとされます.

さらに,ループ利尿薬などのように,尿細管腔に分泌されて作用するのではなく,集合管上皮細胞の血管腔側に存在するバソプレシンV2受容体に作用するので,尿細管機能やGFRの影響を受けにくいんです.

このことから,トルバプタンは,従来型のナトリウム利尿薬ではいかんともしがたかった腎不全症例でも,有効な利尿をかけられる可能性があります

実際に,心不全診療ガイドラインにおいても,「ループ利尿薬などの他の利尿剤で効果不十分な体液貯留」が,急性心不全やHFrEFに対する使用推奨となっている理由も頷(うなず)けますよね.

とはいえ,高度の脱水心不全などで腎髄質の血流が低下した際は,トルバプタンは効きづらくなります.

また,高度の尿細管障害のために尿希釈能が低下すると,そもそも”集合管にとどく尿量”が減ってしまい,トルバプタン抵抗性となります.

まとめると

・従来のナトリウム利尿薬が効きづらい腎不全症例でも,トルバプタンなら有効な可能性がある
・そのトルバプタンでも,腎不全が高度すぎたり,脱水や心不全があると,利尿薬抵抗性となる

ということです.

有効ではあるけど,過信しすぎないように.

また,トルバプタンは,血管内脱水を起こしづらいので,利尿作用が発揮されても比較的腎血流が保たれるとされます.

これは,腎不全症例で利尿薬を使用するときの懸念である,腎機能の増悪が起きにくいということで,この点でもトルバプタンは有用です.

ただし,トルバプタンはのデメリットは2つ.

大変高価であること と 予後改善エビデンスがないこと

です.

トルバプタンを用いることで腎不全症例の難治性の体液貯留を解決できたとしても,その後は漫然と使用せずに,減量や中止ができそうであれば積極的に試みることが,クールな利尿薬の調整の仕方かもしれません.

(≫トルバプタンの解説はこちらの記事.)

 

5.腎不全とカルペリチド

カルペリチドは,さまざまな作用を有します.

その中でも,利尿作用に関与するのは

・輸入細動脈の拡張
・腎髄質血流の増加
・アルドステロン作用やADH作用への拮抗

などです.

輸入細動脈の拡張は,腎不全症例における糸球体濾過量の低下を改善させるため,腎不全症例でのカルペリチドの利尿効果は,他のナトリウム利尿薬を上回る可能性があります.

また,腎髄質血流の増加による利尿効果も,腎機能の影響は受けにくいため,同様に,腎不全症例でも有効な利尿作用を期待できます.

以上のことから,トルバプタン同様,従来型のナトリウム利尿薬を複数使用しても治療反応が得られないような腎不全症例では,最終兵器的にカルペリチドを併用することがあります.

(≫カルペリチドの解説はこちらの記事.)

 

■まとめ

まず,腎不全症例でも,利尿薬選択の中心がループ利尿薬であることは変わりません.

注意点としては

・非腎不全症例よりループ利尿薬の必要用量が増える可能性がある
・心不全(に伴う神経体液性因子の亢進)がある場合は,安易に用量を増量しない方がいい

の2点.

MRAとサイアザイドは,このループ利尿薬抵抗性の際に併用を検討します.

これら単剤では利尿作用が乏しく,そもそも腎不全症例ではいずれも使用しづらい薬剤なので,併用は慎重かつ,少量から検討する

トルバプタンとカルペリチドは,従来型のナトリウム利尿薬が効きづらい腎不全症例でも有効な可能性があるので,腎不全に起因する難治性の利尿薬抵抗性を疑った際,これらを併用することは最終兵器となります.

また,トルバプタンは腎血流を低下させにくくカルペリチドは糸球体濾過率を改善させたりすることから,これらの薬剤による利尿は,腎機能増悪をさせにくいとされます.

このことから,腎不全症例では,これらの併用タイミングの敷居を低くするのもひとつの考え方ですが,

ただし

トルバプタンもカルペリチドも,併用による明らかな予後改善エビデンスはない薬剤であり,高価な薬剤でもあるので,乱用することはよろしくないことも知っておきましょう.

 

今回の話は以上です.

本日もお疲れ様でした.


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