【意外に知らない】心不全と腎不全の関係【心腎連関】

※2023/5/8一部加筆修正.

心不全症例は,腎不全になりやすい

腎不全症例は,溢水によって心不全を発症しやすい

このことは,これらの疾患のいずれかに関与する医療者なら,少なからず感じたことがあると思います.

私が専門としている循環器の領域では,腎機能が低下していると,心不全治療は困難であることは自明です.

実際に,GFR(糸球体濾過量)心不全の強力な予後規定因子であることもわかっています.

この心臓と腎臓の関係を理解することが,心不全,腎不全の治療をより進歩させると考えられ,「心腎連関」という概念が生まれました.

今回は,この心腎連関の解説しつつ,この知識の臨床への実用法を紹介します.

1.古典的な心腎連関:腎血流量低下

「心腎連関」という言葉こそ,できたのは2000年頃とされています

しかし,心不全に関連した腎機能の増悪は,はるか昔から言われていました.

その機序として考えられていたのは

低心拍出
→腎血流量の低下
→腎機能障害

という単純なしくみです.

これくらいなら知っている人も多いかな,と思います.

実際,この機序も,腎機能障害の一因ではあると考えらえます.

しかし,心臓ー腎臓の関係はもっと複雑なんです.

現在わかっている心腎連関の要素を,(上で示した「腎血流量の低下」も含め)3つに分けて説明します.

 

2.神経体液性因子を介した心腎連関

心拍出が低下した時,腎血流を含め,全身の組織還流が低下します.

その際,代償機構として,RAA系がや交感神経系などの神経体液性因子が亢進します.

この神経体液性因子の亢進は,一時的には組織血流を保つために必要な代償反応です.

しかし,最終的には心機能,腎機能の双方を増悪させることがわかっています.

”駄馬に鞭をうつ”イメージです.

低心拍出
→組織還流低下
→代償機構として神経体液性因子亢進
→時間とともに神経体液性因子が腎機能を障害

β遮断薬,ACE阻害薬/ARB,ミネラルコルチコイド拮抗薬などが,心不全治療で有用とされることにも関連してきますね.

ACE阻害薬/ARBRAA系を抑制する薬剤ですが,独立した腎保護作用が認められており,RAA系が腎血流の維持や長期的な腎機能保護にいかに重要かを裏付けています.

具体的には,RAA系は,糸球体濾過圧を高く保とうとしますが,それが腎臓の負担となるとされます.

 

3.腎静脈圧上昇による心腎連関

心不全では,血液を循環させられないことによって,右心系(静脈系)の圧が上昇します.

すると,腎静脈のうっ血を介して,腎臓の間質がむくみます.

腎間質の浮腫です.

実は,腎間質の浮腫は,糸球体濾過率を低下させるとされるんです.

実際に,(静脈系の代表的な指標である)中心静脈圧の上昇糸球体濾過率の低下相関することも示されています(J Am Coll Cardiol 2009; 53: 582–588.).
この相関は,心拍出量の低下の有無と関係ありませんでした.
つまり,上述した「腎血流の低下」とは異なる独立したしくみのようです.

機序としては以下のようなものが考えられています.

➀ボウマン嚢の静水圧上昇

腎間質の浮腫
→ボウマン嚢を外部から圧迫し,ボウマン嚢の静水圧上昇
→毛細血管内静水圧との圧較差が減少し,糸球体濾過率低下

➁神経体液性因子の賦活化(前述とは別機序)

腎間質の浮腫
腎臓の組織RAA系や交感神経系が亢進
→糸球体濾過係数が変化し,糸球体濾過率低下

➂輸入細動脈の収縮

腎間質の浮腫
尿細管糸球体フィードバックの感度低下
→輸入細動脈の(輸出細動脈に比して相対的に)収縮

※尿細管糸球体フィードバック:緻密斑が尿中NaCl濃度を感知して,輸入細動脈の収縮度合いを調整し,糸球体濾過圧を保つ機構

 

■心腎連関のまとめ

心腎連関

単純にまとめると,このようなフローで心不全は腎機能障害へとつながっていきます.

では,この考えをどのように臨床で生かしていけるでしょうか.

 

■心腎連関の概念の臨床での生かし方

➀「腎血流量の低下」をまず疑うのはいいけど...

最初に言っておくと,この考え方は,多くの人が急性期の治療を間違えるところなので注意.

まずは,古くから心腎連関の要因として考えられてきた,腎血流量低下の可能性を考えた対応について.

ここには補液も含まれます.

心不全に補液をする,という考えは生まれにくいかもしれませんが,前負荷を増加させることで改善するような,末梢循環不全主体の心不全もあるわけです.

Forrster分類でいうところのサブセット3ですね.

ただ,最初にも話した通り,安易な補液は,よくある間違った対応です.

「心不全を治療していたら腎機能が悪くなった」

水を引きすぎて,腎血流量が減ったせいに違いない

よし,補液しよう!

これが良くある間違い.

確かに,本当に「腎血流量の低下」が腎機能増悪の原因であることはありますが,症例は心不全なんです.

元々の心機能が弱ければ,前負荷を上げても思うように心拍出は改善せず,うっ血が増悪するだけなんです.

フォレスター分類でいうところのサブセット3に補液してサブセット4になる状態ですね.


心不全症例で,腎血流量の低下による腎機能増悪を疑った場合は,常に,強心剤やIABPのような補助循環の選択肢を念頭においてください.

その判断に迷うようであれば,スワンガンツカテーテルで心内圧の計測をして,必要性に客観性を持たせるべきでしょう.

 

➁「腎間質の浮腫」で腎機能が悪くなっている可能性を忘れない

次に,腎間質の浮腫による腎機能増悪.

これは,➀で言及した補液をすると増悪するので,可能性を頭に入れていないと,真逆の治療をすることになります.

補液をしても腎機能全然よくならないし,いよいようっ血も悪くなってきた....」

というグダグダな状況になりかねません.

この病態を意識する最も重要なポイントは,利尿剤を増量した方がいい可能性があること.

みなさん,「腎機能が悪くなるのは,利尿剤が多すぎるから」という考えだけになっていませんか?

もちろん,腎前性腎不全は,腎不全の理由で最多であり,実際に利尿剤過多で腎機能が増悪していることは多いです.
(≫腎前性腎不全や,腎性・腎後性の腎不全の鑑別の仕方の記事はこちら

ただ,”そうじゃないこともある”,と知っていた方がいいです.

腎間質の浮腫による腎不全の場合,利尿剤使用で利尿がつくことで腎機能が改善します.

「心不全入院で治療開始して,利尿がついたら,入院時より腎機能が改善した」

っていう経験ありませんか?

これは,(左室拡張末期圧が下がって心拍出が改善した可能性もありますが,)おそらく腎間質の浮腫が改善したおかげです.

また,腎機能が高度に障害されている症例のとき

「利尿剤ではどれだけ高用量使用しても利尿がつかなくて,ついに血液透析を回して除水した.すると,急激に腎機能が改善して,それまでいくら使用しても反応しなかった利尿剤に反応するようになった」

なんてこともあります.

これも腎間質の浮腫が改善したからです.

この考え方に基づけば,腎機能が著しく低下した心不全では,一時的透析(ECUM)も有効な治療選択肢であることがわかります.

それ以外に,pericardial constraintが改善した要素もあるかもしれませんが…
難しい話なので,詳細はページ最下部の「余談」にて.

 

➂神経体液性因子の亢進をどうするか

最後に,神経体液性因子による腎機能増悪ですが,これは基本的に急性期はどうしようもないことが多いです.

なぜならば,これらの因子はあくまで代償機構であり,この代償機構を急性期に抑えようとすると,かえって状況が悪化します.

例えば,急性腎不全の急性期に,ACE阻害薬/ARBを使用すると,糸球体濾過圧が下がってしまい,GFRがさらに低下してしまうことがあります.

つまり,代償機構が必要なタイミングでは,神経体液性因子はある程度放っておくしかないです.

大事なのは慢性期.

状態が安定している状態で,これらの代償機構が過剰な状態だと,心機能・腎機能がともに増悪してしまいます.

心腎連関は,急性期から慢性期まで,心不全と腎不全の病態に常に絡んでくる概念であり,特に慢性期では,この神経体液性因子は超重要な治療対象になります.

具体的に言うと,心腎連関の心不全・腎不全の慢性期は,ACE阻害薬/ARBはマスト

心臓の状態によっては,β遮断薬,ミネラルコルチコイド拮抗薬,トルバプタンなども,有効な治療になるわけですね.”腎臓にとっても”,です.

 

以上,心腎連関のしくみを知ることで,急性期から慢性期まで,柔軟な治療選択と,論理的な治療戦略を練っていきたいですね.

今回もお疲れ様でした.

■余談:右室圧上昇によるPericardial constraint

今回の話は,「低心拍出」と「静脈圧の上昇」を独立した因子としてお話ししました.
その方が理解しやすいですからね.

でも,実は
「静脈圧の上昇」 が 「低心拍出」 の原因
となることがあります.

それが,Pericardial constraint です.

直訳すると,「心外膜の制限」となります.

〇容量負荷と左室の大きさ

心臓に,容量負荷となる前負荷がかかると,通常は心臓(特に左心室)が大きくなって,容量負荷が増えた分,多く拍出してくれます(心拍出量の増加).

ただ,心臓がゴム玉のように大きくなるのにも限界があります.

それが,Pericardial constraint です.

〇右室圧上昇によるPericardial constraint

体循環を行うのは左心室であり,心拍出量を規定していますが,そのお隣には右心室がありますよね.

静脈系の圧は,右心系の圧に寄与しますが,それによって右心室(RV)が大きくなることで,左心室(LV)が圧し潰されてしまうことがあります.

これって,Pericardial constraint(伸展に限界のある心外膜)による左心室サイズの狭小化ですよね?

心エコーでいうと,"D shape"といわれる状態です.


「https://www.researchgate.net/publication/330169223_The_right_ventricle_in_heart_failure_with_preserved_ejection_fraction」より引用

例えば,肺塞栓症を知っていますか?

肺塞栓症は,肺動脈に血栓/塞栓がつまることで,急激な肺高血圧を来たします.
肺高血圧とは,すなわち,右心系の圧の上昇です.
重症の肺塞栓症で血圧が低下する原因の1つは,このPericardial constraintです.
(知っている方であれば,"D shape"と聞いたら,むしろ肺塞栓症を思い浮かべたことでしょう.)

このように
「静脈圧の上昇」はあまりにも高度だと,「低心拍出」の原因となること
ということは,頭の片隅に入れておくといいかもしれません.






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