【ユニークなナトリウム利尿薬】K保持性利尿薬(ミネラルコルチコイド拮抗薬)【ENaCはナトリウム再吸収の最後の砦】

※2021/3/1一部修正.

今回は,K保持性利尿薬(ミネラルコルチコイド拮抗薬:MRA)について.

スピロノラクトン(アルダクトン®),エプレレノン(セララ®),エサキセレノン(ミネブロ®)ですね.

1.K保持性利尿薬(MRA)の作用機序

腎臓の遠位尿細管~皮質集合管には,アルドステロン依存性にはたらく上皮性ナトリウムチャネル(ENaC)があります.

ENaCアルドステロンが作用すると,カリウム排泄を促進し,ナトリウム(と水)の排泄を抑制します

ゆえに,Na-K交感系とも呼ばれます.

K保持性利尿薬(MRA)は,このアルドステロン作用に拮抗して,ENaCを抑制します.

画像3

ナトリウムの再吸収を抑制するので,これも(ループ利尿薬やサイアザイドと同じ)ナトリウム利尿薬の一種です.

ただ,他のナトリウム利尿薬と決定的に異なることは,(その名の通り)カリウムが保持されることです.

 

2.カリウムが保持されることの意味:利尿薬としてユニーク

ENaCは,ナトリウムと水を再吸収して,カリウムを分泌します.

そして大事なことは,
・ループ利尿薬が作用するヘンレのループ上行脚より
・サイアザイド系利尿薬が作用する遠位尿細管より
ENaCが存在する部分は,尿細管において一番遠位(排泄される直前)になります.

ENaCは尿細管にとっては,ナトリウム再吸収の最後の砦ような存在です.
(ナトリウムの再吸収の割合は少ないですけどね...)

画像2

ゆえに,ループ利尿薬や,サイアザイド系利尿薬など,他のナトリウム利尿薬によってナトリウムの再吸収が抑制されると,(最後の砦である)ENaCでのナトリウム再吸収が亢進し,”つられて”カリウムが失われます

交換ですからね,ENaCの機能は.

カリウムを対価にナトリウムを再吸収するイメージです.

だから

通常,ナトリウム利尿薬を使うと,低カリウム血症になるんです.

これが,ループ利尿薬やサイアザイド系利尿薬の副作用である低カリウム血症のしくみです.

 

ここで

待ってました,K保持性利尿薬(MRA)

 

この利尿薬は,ENaCの作用を抑えるんです.

最後の砦をやっつけちゃうんです

すると,カリウムが失われるのを防げます

だから,”K保持性”利尿薬なんです.

 

この特徴から,フロセミドやサイアザイドによる低カリウム血症時に,K保持性利尿薬(MRA)を併用する,という手法がとられます.

 

注意点として,利尿作用はごく小です.

なんせ,(上の図を見てもらえばわかるように)ENaCが担うナトリウム再吸収の割合は,全体の1-3%に過ぎないんです.

K保持性利尿薬(MRA)”単剤”で,体液量過剰(溢水)を解除できることは,ほぼないと思ってください.

K保持性利尿薬(MRA)は,ナトリウムの利尿薬で唯一,カリウムを下げない利尿薬
・ゆえに,他のナトリウム利尿薬による低カリウム血症のカバーに使用可能(併用)
利尿作用は軽微

 

3.K保持性利尿薬(MRA)のエビデンス

実は,高血圧症を主な適応として,降圧薬として作られK保持性利尿薬ですが,心不全に対する有用性が際立ちます.(むしろ,血圧はあまり下がりません.)

「え?さっき,『利尿作用はごく小』って言わなかった?

違うんですよ.

心不全の予後を改善するのは,利尿作用ではないんです.

実際,利尿作用は文句なしのループ利尿薬ですが,心不全の予後改善エビデンスはありません

 

それでは,K保持性利尿薬(MRA)のエビデンスを見ていきます.

■心不全とアルドステロン

心不全にとって,RAA系などの神経体液性因子の亢進予後不良因子であることは良く知られています.

”駄馬に鞭を打つ”ような機構なので,心臓の機能を低下させ,心不全破綻の引き金にもなるからです.

K保持性利尿薬(MRA)が拮抗するアルドステロンは,RAA系の下流にあります.

アルドステロンは,神経体液性因子の最終到達点(のひとつ)とでも考えてください.(厳密にはちょっと違いますけど,イメージの話)

実際,血中アルドステロン濃度慢性心不全の予後には関連性が示唆されています.(Circulation. 2007 Apr 3;115(13):1754-61.)

アルドステロンを拮抗するK保持性利尿薬(MRA)は,作用機序的にも心不全治療への効果の期待がかかるわけです,

■RALES試験

重症心不全(EF≦35%,NYHAⅢ-Ⅳ)症例を対象に,ACE阻害薬やβ遮断薬を含む従来型治療群 vs スピロノラクトン併用群,としたところ,心イベント35%低下,死亡率30%低下,という結果.

■EMPHASIS-HF試験

EF≦30%で軽症(NYHAⅡ度)心不全対象に,エプレレノンを追加したところ,死亡や心不全入院が有意に減少.

このようにHFrEFでの有効性のエビデンスはしっかりしています.

■EPHESUS試験

EF≦40%の急性心筋梗塞を対象に,標準治療群 vs エプレレノン追加群で,心疾患による死亡率が減少.

■REMINDER試験

心不全を有していないST上昇型心筋梗塞を対象に,エプレレノンを追加したところ,複合エンドポイント(心血管死 + 心不全 or SV or VFによる再入院ないし入院期間延長 + 1か月後のEF<40% or BNP/NT-proBNP上昇) が有意に減少.

心筋梗塞症例に対しても,一定の効果が期待できそうでした.

■TOPCAT試験

EF≧45%の心不全(HFpEF)を対象に,スピロノラクトンを追加したところ,一次エンドポイント(心血管死+心停止からの蘇生+心不全管理のための再入院)に有意差はなかった.

HFrEF,心筋梗塞と,明確なエビデンスを叩き出してきたK保持性利尿薬(MRA)なので,HFpEFでも効果が期待されたが,結果は残念なものでした.

心不全入院だけは,スピロノラクトン群で抑制された結果でしたが,心不全入院に地域差が大きく,心不全入院の定義が不明確であったことがLimitationとされています.

HFrEF心筋梗塞症例では,標準治療にK保持性利尿薬(MRA)を追加することにストロングエビデンスあり.
HFpEFでは残念ながら明らかなエビデンスは残せず心不全再入院は減らすかもしれないが,やや怪しい結果.

 

4.K保持性利尿薬(MRA)のガイドラインでの推奨

「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」より.

■急性心不全に対するK保持性利尿薬(MRA)

ループ利尿薬の作用減弱例での併用(ⅡbC)
腎機能が保たれた低カリウム血症(ⅡaB)
腎機能障害・高カリウム合併例には投与すべきでない(ⅢC)

うっ血解除のため,と言うより,ループ利尿薬の耐性対策,および心不全治療中の低カリウム血症対策,と言った推奨.

薬効に準じた推奨というイメージ.

■HFrEFに対するK保持性利尿薬(MRA)

ループ利尿薬+ACE阻害薬投与中で,NYHAⅡ度以上,LVEF<35%(ⅠA)

うっ血解除を目的としているわけでなく,予後改善を目指した推奨

あくまでACE阻害薬などによる標準治療がなされていることがベースなので,注意.

前述したエビデンスに基づく推奨.

■HFpEFに対するK保持性利尿薬(MRA)

臨床イベント発生抑制を目指してできるだけ増量(ⅡbC)

前提として,HFpEF治療にはエビデンスがなさ過ぎて,どの利尿薬を推奨するかの明記がない

それゆえ,なぞに,K保持性利尿薬(MRA)増量の推奨だけがされている.

 

5.【まとめ】K保持性利尿薬(MRA)のいい適応

良い適応➀:他のナトリウム利尿薬の低カリウム血症
良い適応➁:ループ利尿薬の耐性時

薬理作用的に妥当.

急性心不全治療においては,ガイドライン上このように推奨されている.

良い適応➂:慢性心不全治療薬として
良い適応➃:アルドステロンブレイクスルー対策

エビデンスに基づく推奨.

HFrEF心筋梗塞症例では,明らかなエビデンスがあります.

HFpEFは,心不全再入院だけ減らすかもしれない.

アルドステロンブレイクスルーに関してはこちらの記事で解説しています

 

6.K保持性利尿薬(MRA)薬剤間の違い

最後に,K保持性利尿薬(MRA)各薬剤の違いについて簡単に説明します.

・スピロノラクトン(アルダクトン®)
よく言えば,「エビデンスの蓄積が多い」
悪く言えば,「古い」
ミネラルコルチコイド受容体の選択性が低く,アンドロゲンも抑制
⇒女性化乳房になることが少なくない.
⇒対策としては,エプレレノンへの切り替え.

・エプレレノン(セララ®)
スピロノラクトンより,ミネラルコルチコイド受容体の選択性を高めた.
よって,女性化乳房・月経異常の副作用はほぼ起きなくなった
スピロノラクトンより薬価が高い(スピロノラクトンの薬4倍)
禁忌が多い

【エプレレノンの禁忌】
GFR<45微量アルブミン尿を含む蛋白尿をみとめる糖尿病患者,他のMRAの併用.カリウム製剤の併用.など

カリウム製剤と併用できないこと,腎機能の縛りがきついこと,の2点がすごく使いづらい.

また,CYP3A4で代謝されるため,CYP3A4を阻害する薬剤と併用する場合は25mg/日までしか使用できない.

■併用注意のCYP3A4を阻害する薬剤
マクロライド系抗生剤,フルコナゾール,ベラパミルなど
※ちなみに,イトラコナゾールは併用禁忌


・エサキセレノン(ミネブロ®)
最新のK保持性利尿薬(MRA).
エプレレノン同様,スピロノラクトンより,ミネラルコルチコイド受容体の選択性が高い.

また,ステロイド骨格をもたない非ステロイド型薬剤.
そのためか,エプレレノンより禁忌が少なくなり,効果は同等とされます.

■エプレレノンより緩くなった点
・アルブミン尿のあるDM禁忌 ⇒投与可能
・GFR<45禁忌 ⇒GFR<30禁忌
・イトラコナゾール禁忌 ⇒投与可能
※他のMRAやカリウム製剤と併用できない点は不変

しかし,薬価がさらに高くなり(スピロノラクトンの約8倍),禁忌はエプレレノンより緩和されましたが,心不全への適応がなく,高血圧症のみが適応症です.

実際,心不全治療におけるはエビデンスでは,(新しい薬ということもありますが)スピロノラクトンとエプレレノンに劣ります

 

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今回の話は以上です.

本日もお疲れ様でした.

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