アルドステロンブレイクスルーとは【内科医なら知っておくべき】

ACE阻害薬やARBなどのRAS阻害薬や,スピロノラクトンなどの利尿剤の勉強をすると,たまに耳に入ってくるアルドステロンブレイクスルーという言葉をご存知ですか?

長期予後を左右する臓器保護作用に関わる内容なので,内科医であれば誰しもが知っておくべきだと思います.

循環器医の私が簡単に解説します.

1.アルドステロンブレイクスルーとは

ACE阻害薬/ARBを開始してしばらくは,アルドステロンの血中濃度は低下します.

しかし,投与開始から半年ほど経過すると,アルドステロンの血中濃度が,投与前と同じかそれ以上に再上昇してしまうことがわかっています.

この現象を,アルドステロンブレイクスルーと言います.

その機序の詳細は分かっていません.

複数の因子の関与の可能性が考えられていますが,今のところ臨床的な実用性のない知識なので,今回の記事では割愛します.

 

2.アルドステロンブレイクスルーの疫学

頻度は40-50%程度とされ,少なくありません.

発生時期は6‐12カ月後とされます.

 

3.アルドステロンブレイクスルーの臨床的意義

実は,アルドステロンブレイクスルーが起きようが,血圧や電解質に変化はありません

では,何が問題になるか.

そもそも,ACE阻害薬/ARBの推奨度が高いのは,降圧効果とは独立した臓器保護作用によるもの.

アルドステロンブレイクスルーは,このACE阻害薬/ARBがもたらす,心血管や腎の臓器保護作用を損なわさせる可能性があるんです.

実際,下の論文などでは,アルドステロンブレイクスルーが確認された群で,ACE阻害薬による心肥大抑制効果が認められなかったことを報告しています.

Aldosterone escape during angiotensin-converting enzyme inhibitor therapy in essential hypertensive patients with left ventricular hypertrophy.J Int Med Res. Jan-Feb 2001;29(1):13-21.

どうにかしないとなりません.

 

4.アルドステロンブレイクスルーの対策

心臓の分野では,ACE阻害薬/ARBにスピノロラクトンなどのミネラルコルチコイド受容体拮抗薬MRAを追加する試みがあります.

RALES試験では,重症心不全症例を対象に,ACE阻害薬を含む従来型治療群 vs スピロノラクトン併用群,としたところ,心イベント35%低下,死亡率30%低下,という結果でした.

EMPHASIS-HF試験では,EF≦30%で軽症(NYHAⅡ度)心不全対象に,エプレレノンを追加したところ,死亡や心不全入院が有意に減少しました.

EPHESUS試験では,EF≦40%の急性心筋梗塞を対象に,標準治療群 vs エプレレノン追加群で,心疾患による死亡率が減少.

腎保護作用に関しても,心臓と同様に,MRAの併用がアルドステロンブレイクスルー対策となることが示唆されています.

このように,ACE阻害薬/ARBにMRAを併用することが,現在可能な唯一のアルドステロンブレイクスルー対策とされており,根本からアルドステロンブレイクスルーを防げるような薬剤は今のところ存在しません

 

5.ACE阻害薬/ARBにMRAを併用する際の注意点

ずばり,高K血症です.

特に高齢者,腎機能の低下や脱水を起こしやすいので,アルドステロンブレイクスルー予防のMRAは,例えば,スピロノラクトンであれば12.5-25mgなど,少量での併用が望ましいです.

 

■まとめ

内科医として,降圧薬の勉強をすると,ACE阻害薬やARBの推奨度の高さを学ぶと思います.

この根拠の多くは,これらの薬剤が持つ臓器保護作用です.

アルドステロンブレイクスルーは,この臓器保護作用を台無しにしている可能性があります

これでは,せっかくした降圧薬の勉強が水の泡です.

しっかり認知して,しっかり対策していきましょう.



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