がん患者にスポーツ医学を

2020年11月からタグリッソを服用して、確かに腫瘍マーカー値が下がってきた。一日一回の薬剤でがんの治療になる、そんな夢物語は、確かに自分の心を明るくした。

1ヶ月休んで、2020年12月に業務に戻った。考えてみれば、体調は1ヶ月前とは変わらない。でも、一夜にしてがん患者になった、stage 4、やっぱり気分は思わしくない。病院の電子カルテを開けると、そこには自分の情報も入っている。あのおぞましいCT画像が、ひょいと見れてしまう。”便利な世の中だ”、そうは思えなかった。

今まで描いていた、人生のキャリアは、全て描き直しになった。大学での教職が内定していて、後進を育てたい、研究して学会でもっともっと新しい知見を広めたい、良い手術で沢山の患者さんを治したい、そんな思いはとっても叶えられないことだと認識した。

「病院はディズニーと一緒、愛と夢と笑顔を届ける場所」なんて考えていた。そんな自分が進行期のがん患者、果たして治療をして良いのか、患者さんを全力でみてあげることができるのか、そんな気分にもなってきた。

今はダイバーシティの時代と言われている。多様性が求められ、慣用されていく時代。がんを抱えて、見えるものが変わってきたようにも感じる。特に悪性腫瘍を扱わない整形外科医、スポーツ医は、患者さんが進行期のがん患者であることはほぼないし、そうであると「無理して手術しないで痛み止めで対応しましょう」という対応になっていたようにも思う。しかし、今の自分にはそうは思わない。

With cancer、共に歩もう、そう考える。がんと共に歩んでいる患者さんを、もっともっと診察してあげたい、そう思うようになった。自分にできる対応、声かけがある、そのバリエーションが増えたように思う。

そして、がん患者、抗がん剤治療薬を用いている方々に、私の専門であるスポーツ医学の知見用いた運動方法、トレーニング方法を見つけていきたいと考える。世の中にはがん患者に対する運動療法、トレーニング本がある。でも、読んでみると全然甘い、本気じゃない。自分なら、本気で良いものが届けられる。がん患者のスポーツ医が、がんリハビリ、運動療法の本を書いたら、どれだけ有益な物になるか。自分の命はどこかで尽きても、良い方法論は永遠に残る。

そう思って、同じくがん治療を経験したトップトレーナーと共鳴して出版社をあたっているが、なかなか良い返事が貰えない。全くセンスがない、こんな我々なら、すごいことができるはずなのに。


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