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大学院進学へのきっかけ④:CADから解析へ

 手書き図面から3次元CAD設計者となって,楽しい日々を送っていました.その設計図というのは一体何に基づいて決められた線なのでしょうか.通常,よほど突飛な製品でない限り,参考となる従来製品の図面が存在します.だから,前世代の製品を参考にするのですが,もちろん新しいデザインや機能を追加していくとなれば,新しい形状や部品が必要になってきます.
 コンピュータの性能もどんどん向上してきて,一昔前のスパコンレベルの強度計算がワークステーションレベル(ハイエンドPCスペック)で解けるようになってきました.構造物に拘束条件(どこかが固定される)を設定し,稼働時の負荷を任意の場所に与えることにより,構造物に生じるひずみを計算し,その結果をカラーで画面表示してくれます.NASTRANという解析プログラムがデファクトスタンダードで,自分の設計したものがどの程度の強度を有していて,どれくらいの荷重まで耐えられるのかがコンター図で示され,変形状態がアニメーションで見ることができるのです!
 3次元CADで,思いつく形状をどんどん作成して,解析プログラムを流せばいいのです.エンジニアの沼ですね.ある意味でハマるとアリ地獄ですね.解析といっても,様々な種類(ジャンル,形態)があります.機構解析/構造強度解析/振動耐久性/流体解析/磁場解析/音響解析...今なら,非線形解析や非定常解析が行えますが,20年前となるとめちゃくちゃハードルが高く,一般の開発体制の中で通常業務として行うのはほぼ無理でした.ですので,試験研究予算をとって,いろんな部署の研究者と共同で進めていかなければなりません.研究者と開発エンジニアでは,職場に流れている時間感覚が違うのです.どちらが優れているとか悪いとかではなく,純粋に業務形態が違うので,マインドも異なります.研究者は,厳密解を求め,理論を追求します.その真摯な姿勢にはいつも感服します.時には,スケジュールをずらしてでも追加実験を要求します.一方,開発エンジニアは,出図(開発スケジュールというものがあって,○○年XX月に製品を発売するので,△△月XX日までに図面を仕上げる)する必要があるのです.ですから,忠実度やある程度の結果精度を犠牲にしても,決められた品質内に収まっているなら,次のフェーズへ進みたいのです.ここで喧々諤々の議論がなされます.
 私は開発エンジニアとして,それまでの経験と簡素な強度計算,試作機試験の結果から総合的に判断して,改良デザインを提案しようとしました.大学院の機械系修士課程で有限要素法や材料力学をみっちり専門としてやってきましたが,博士号を持たない,英語も流暢でない,職位も係長ですらない私は,国際会議における発言力は全くと言っていいほどないのだということを思い知らされました(明らかに流して聞いているのです).日本では,それなりに経験があれば博士号や職位なんて,あまり関係なく仕事を進めることができる.しかし,グローバル企業ではそうはいかない.人柄や背景,今までの実績や信頼関係が海を隔てて培われるには時間もかかる.日本の企業のように終身雇用ではなく,転職があたり前の外資系では,人がどんどん入れ替わるので,博士号がスキルの担保として最も合理的なのです.これまでそれなりに英語をやってきたのだから,いきなり流暢にはならない(全然上達しない.トホホ).いきなりマネージャー・課長に就任するわけでもない(技術に固執しすぎると,出世しないかも).ある人から言われました.『博士号は,国際会議におけるライセンスなのだ』と.名刺に書かれたその肩書で,聴くに値するかどうかが判断されてしまう.もちろん,発言の中身がお粗末であれば,それ以降の信頼が得られないのは当然ですが,まず最初に博士号を持っているかどうかでふるいにかけられてしまうのです.なぜか.博士号を取得するということは,①高度な理論式を理解している,②状況に応じた仮説を立てることができる,③その仮説の検証方法と評価基準を提案することができる,④それらを論理的に説明できる,という訓練が十分なされるということに他ならない.そうか,この会議の面々はその訓練が十分終わった人たちなのだな.と思う反面,その訓練というのは如何程のものか.実務者と学者なら,実務者の方が発言力を有しているのが普通じゃないのか.内心怒りが込み上がる.でもしばらくして冷静になって考えてみると,この怒りというのは自分ができないことをやった人に対する恐れの裏返しでもあるのではないか.かつての恩師が仰った「大学にはいつでも戻れるから一旦,会社に勤めてみなさい」という意味が分かったような気がしました.そうか,このことを味わうために先生は,社会に出なさいと言ってくれたのか.だとすれば,まさに今が博士号に向かう時期が来たのではないか.入社以来,技術レポート(メモ)的なものを1本/週ペースで書いて行こうと決めて実施してきました.上手いか下手かはさておき,文章を書くのも,全然嫌いじゃない.よし,だめもとで,博士号に向けた動きを始めようじゃないか.



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