5月17日開催【ドコモベンチャーズセミナー】米国ヘルスケアの最新トレンド~進むセルフケア、治療から予防の時代へ~
皆さんこんにちは!ドコモ・ベンチャーズです。
今回は2022年5月17日(火)に行なったイベント、
【ドコモベンチャーズセミナー】米国ヘルスケアの最新トレンド~進むセルフケア、治療から予防の時代へ~
についてレポートしていきます!
本イベントには、弊社の米国シリコンバレー支店ヘルスケア分野担当が登壇しました。米国ではセルフケアや予防医療に関心が集まっています。これは日本とは大きく異なる米国独自の保険制度にヒントがありそうです。
最新の米国の動向を読み取ることで、ヘルスケア関連の新規事業担当者の皆様に有益となる情報をお届けします!
このnoteは、
米国でのヘルスケア動向、当該領域の技術動向に興味がある方
新規事業、協業創出を検討されている方
スタートアップへの投資や事業連携を検討されている方
大企業/中小企業でスタートアップとの新規事業創出を検討されている方
にぜひお読みいただきたい内容となっております!
以下、セミナーの内容をご紹介します。
<NTT docomo Ventures Silicon Valley Branch>
Manager 長江 利行 氏
1.なぜヘルスケアに注目するのか?
Covid-19(以下「コロナ」)が世界中で広がってから、およそ2年が経ちました。感染症の危険が身近となったことで、ヘルスケアに注目される方も多くなったのではないでしょうか。もちろん、ヘルスケアはコロナに関連する問題だけではありません。例えば、日本では、少子高齢化に伴い、医療費が高騰しています。厚生労働省の統計によると、令和2年度の医療費総計額は42.2兆円であり、2025年度の医療費はおよそ54兆円にまで増加すると言われています。
また、日本は世界一の少子高齢化大国で、内閣府の統計によると、2065年には日本の人口の38.4%が65歳以上の高齢者となると予測されています。
このように、ヘルスケア分野の社会問題は日本にとっても他人事ではありません。最近ではテクノロジーの進化によって医療の質の向上、医療コスト削減、データ活用などを進める動きが加速しています。
2.世界全体のヘルスケア市場の動向
では、2つの観点から世界全体のヘルスケア市場について説明します。
①「ヘルスケア」の定義の拡張
②世界各国のヘルスケア重点領域の変化
1つ目は、ヘルスケアの定義の拡張です。
ヘルスケアサービスの領域は、従来の病気になってから医者に行く、というような「診断」や「治療」の領域に加え、その前後の段階に当たる「健康管理」や「予後」を含めた幅広いものに変化しています。
例えば、気軽に健康管理ができるようなモニタリング機器サービスなどが数多く開発されています。さらに、患者の体質や個人差を考慮した個別化医療を推進する取り組みも広がりつつあります。ヘルスケアの枠が広がったことで、新たな領域の拡大が見込まれています。
2つ目は、世界各国におけるヘルスケアの重点領域の変化です。
Strategy&(PwC)の「2030年の医療費予算合計」の調査結果によると、多くの国で「予防」や「デジタルヘルス」に予算が投入されることがわかっています。また、様々な業種においても、ヘルスケアにおける「予防」「個別化」「デジタル化」に注力していくという調査結果が出ています。
以上2点の観点から、今後のヘルスケア市場の動向は、
病気の治療から病気の予防へ
テクノロジーを生かしたデジタルヘルス
データを活用した個別化医療
へと重点が移っていく傾向が読み取れます。
3.米国全体のヘルスケア市場の動向
続いて、米国のヘルスケア市場の動向について、国ごとに特徴がある投資状況と医療制度を中心に説明していきます。
①投資状況
CB Insightsが実施した「State Of Digital Health 2021 Report」によると、ヘルスケア市場において、世界でもっとも米国に資金が集まっています。
また、米国内部市場を見てみると、2019年を除き、デジタルヘルス市場の資金調達額は年々増加しています。2021年度の米国でのデジタルヘルスケア市場の資金調達額はおよそ570億ドルとなっており、2020年と比較すると79%も増加しています。
米国のビッグ・テックであるGAFAMのヘルスケア市場の動向はどうでしょうか。実は、Meta(旧Facebook)を除き、全てのビッグ・テックが積極的にヘルスケア分野へ進出しています。例えば、日本貿易振興機構(ジェトロ)の2019年4月の調査によると、病院での情報の管理・運用について、2018年には既にGAFAMを含む大手6社が医療データの相互運用に関して共同声明を出しています。また、その進出分野も、先ほどご説明したように、「健康維持・増進」「予知・予防」「診断・治療」「予後・リハビリ・介護」など、かなり多種多様となっています。
②医療制度
「アメリカは医療費が高い」と聞いたことがある人も多いかもしれません。それは、単に医療費が高いのではなく、米国の健康保険制度に起因するものです。
米国では、日本のような国民皆保険や高額療養費制度は存在せず、健康保険に入るかどうかは個人の自由となっています。それに伴い、American Journal of Public Healthの調査によると、米国では自己破産の原因のおよそ66%が医療費が払えないことに関連しているそうです。また、米国以外のほとんどの先進国は税金による医療費負担制度を導入しているため、医療の支払いを原因とした自己破産は、他の主要国では発生していないという興味深いデータもあります。
こうした米国での医療の実態は、アメリカ人の医療費用に関する意識にも影響を与えています。長江さんによると、「コロナの感染が発覚するより、入院費が払えないことの方が怖い」というアメリカ人の意見もあるそうです。また、アメリカ人が企業を選ぶ際、福利厚生に「健康診断」や「医療保険」が含まれているかどうかが重要な要素になってくるそうです!これは、健康診断の料金が高いことや、健康診断の結果、治療が必要になった場合には高額な医療費を企業が負担してくれると助かるからだそうです。
健康保険に入らないと高額な治療費が払えないという実態を反映して、米国では現在、健康志向が高まってきているといいます。例えば、健康を意識したオーガニック食材が人気だったり、長江さんの同僚も、休み時間に会議室でオンラインフィットネスを受講していたりするそうです!
また、米国の医療制度で参考にしたいのが、Food and Drug Administration(米国食品医薬品局、以下FDA)の存在です。日本の厚生労働省に似た役割を持つ公的機関で、食品、衣料品や医療機器などの販売・流通において、許可や違反品の取り締まりといった行政上の手続きを専門的に行なっています。例えば、米国で医薬品や医療機器を販売する場合、FDAへの製品の登録や承認を受ける必要があります。
米国の投資と医療制度の現状について、おわかりいただけたでしょうか。
次に、米国ヘルスケア市場では何が起きているかを、具体的に説明していきます。
米国のヘルスケア市場では何が起きているか?
長江さんは、下記のような仮説を立てました。
米国におけるコロナ状況の概観
まずは、米国におけるコロナ状況を見ていきましょう。
世界の人口100万人あたりのコロナ感染者数(2021年12月31日現在)は、米国のコロナ感染率が世界第2位で日本の約12倍となっており、かなり深刻な状況であることがわかります。
米国では、マスク着用やワクチンに関してどのような状況かを長江さんが教えてくれました。
①マスクの着用に関して
・公共交通機関(電車、バス、Uber等)はマスク未着用だと乗車拒否(2020年3月頃~2021年8月)
・薬局でマスクが売っていない時があるが、本屋やスーパー等で無料配布している時がある
・フェイスシールド着用者は見たことがない
・長江さんの同僚が、マスク着用を乗客に義務付けているとの観点から航空会社を選んでいた
・州ごとにマスクの着用率が異なる
②ワクチンに関して
・公共施設(図書館、美術館等)やレストラン入店時にワクチン接種証明書の提示がないと入店拒否(2021年11月~2022年3月頃)
・ワクチンはスーパーに隣接している薬局で薬剤師により接種可能
コロナによるオンライン診療の急増
では、コロナによって米国ヘルスケア市場はどのような影響を受けたのでしょうか。長江さんは以下のような項目を挙げました。
生活(買い物や娯楽、仕事など)が非対面型へ急速に移行
ヘルスケアアプリのDL件数が急増
オンライン診療の利用率が急増し、非対面医療の活動が加速
米国では、新型コロナウイルス発生後、非対面医療の活動が加速しているそうです。その理由として、もともとテクノロジーの進化に伴ってオンライン診療アプリが普及していたところに、コロナ禍で、患者と医療機関の両方にオンライン診療を利用するメリットが生じたからではないかと、長江さんは考察しました。
さらに、米国でオンライン診療がヒートアップしている理由の一つとして、オンライン診療のプラットフォームを提供するスタートアップが出現してきていることが挙げられます。ここで、2016年に設立された特徴的なスタートアップを紹介します。
一方、厚生労働省によると、日本でオンライン診療に対応できる診療所の割合は、およそ15%で停滞しています。また、アクセンチュアの調査によると、過去1年以内にオンライン診断をした人の割合が、各国での平均が23%に対し、日本は7%にとどまっています。
自宅でのセルフチェックが人気に
米国では、オンライン診療が普及しているのに加えて、自宅でできるセルフチェックがトレンドになってきています。
詳しく見ていきましょう。
米国では、コロナが流行する前は、健康保険に入っていないため高額な医療費が払えず、病院に行けない人が多くいるという問題がありました。しかし、コロナの流行に伴いオンライン診療が普及し始めたことで、
オンライン診療の増加
治療費が安価に
人件費削減のためAIやセルフ診断の活用が増加
セルフ診断の質向上(診断項目・簡易性)
自宅でも高度なセルフチェックが可能に
という一連の流れができました。
またセルフチェックは、症状が発症する前や、治療が終わった後のケアにも活用することができるようになってきています。冒頭でも説明したように、従来のヘルスケア領域が拡張し始め、その前後方向にも意識が向き始めていることが改めてわかります。
米国では、コロナのPCR検査はもちろんのこと、自宅で糖尿病、癌、性感染症、生殖能力などあらゆる病気の検知が可能な在宅検査サービスも流行しているそうです。
長江さんご自身も、自宅で完結できる尿検査キットを使ってみたところ、スマホのカメラで撮影し、5分待つだけで検査結果が受け取れたそうです。病院に行かなくても、ある程度自宅で健康診断ができるのは便利ですね!
世界最大級のテックイベントSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)でも2022年には「ウェルネス」が注目領域として採り上げられたそうです。
4. 日本のヘルスケア市場の動向と今後
医療費の高騰、世界一の高齢者大国など、ヘルスケアに関する深刻な社会問題を抱えている日本。神奈川県予防医学協会の調査によると、ヨーロッパとアジア諸国のヘルスリテラシーの比較において、日本は最下位です。
日本国民のヘルスリテラシーが低い理由はたくさんありますが、長江さんは、国民皆保険や高額療養費制度の存在により、国民が医療費を払えないと悩むケースが少ないことを挙げました。日本のヘルスケア市場の未来は、日本国民の健康に関するリテラシーを向上させることにあるとのことです。
今後日本では、高齢者割合の増加がさらに加速していくと言われています。そんな中、病気前の健康や健康寿命を長く維持することが大切になってきます。そのために、健康意識を支援するようなウェアラブル機器、スマホアプリや検査キットなどがますます重要になってくることでしょう。それらの普及に伴い、将来的には日本でも、「症状が発生してから病院で治療する」という従来の医療のあり方から、セルフチェックやヘルスケアによって「病気を患う前から対策を講じ、病気そのものを防いでいく」という予知・予防の医療のあり方に変わっていくだろうと見込まれています。
5.Q&Aセッション
Q1
米国で健康保険に加入しないのはなぜか。保険料が高いからか。
A1
ニューヨーク州で一番安い健康保険でも月々の一人当たりの掛け金が400ドル以上、また月々の平均保険料は597ドルとなっており、健康保険の金額が日本より高い。The Wall Street Journal. によると、2018年の医療保険未加入者はおよそ8.5%。
日本医師会によると、ニューヨークでの盲腸での入院費用は、1~3日の入院でおよそ152万〜441万円に対し、日本は7日の入院で30万円となっている。
Q2
米国では施設の入口でワクチン証明書が必要とのことですが、発熱検査などは日本のように実施しているのか?
A2
発熱検査は米国でも日本と同様、実施している。また、日本では、自動検温のエンタメ化を狙って、検温の際に表示温度を撮影してその場で印刷・正常体温を証明するおしゃれな入場パスを作成するといった新たなサービスも生まれている。
Q3
米国ではセルフチェックで病気などを見逃した責任を医療機関に転嫁できるという法的制度はあるのか。
A3
いろいろな医療業界やスタートアップを見る限り、セルフチェックで病気を見逃した責任は自己責任とする文化だと思う。また、医薬品や医療機器を販売する際に、FDAを取得しているかどうかも重要。例えば、AppleWatchの心電図は、FDAの認可を取得している。
Q4
PHR(Personal Health Record:個人の健康・医療・介護に関する情報を統合的に管理したもの)の活用が米国では日本より進んでおり、健康管理や行動変容に活かされていると思うが、その点に関してはどうか。
A4
PHRはいろいろなところで収集・活用されている。先ほど紹介した自宅でできる尿検査の場合、採ったデータがスマホのアプリで継続的に記録され、その結果をもとに企業がパーソナライズされた精度の高いデータを個人に提供。個人が健康管理に役立てるといったサイクルができる。PHRは日々個人や企業により記録・活用されている。
Q5
米国の医療ベンチャーは、設立当初から日本市場も念頭に置いて開発する傾向があるのか。
A5
スタートアップごとに異なる。例えば、「予後」の観点、つまり高齢者を対象に、日本市場をターゲットにしているスタートアップもある。日本に進出するにあたって、まずは米国でPoCを回した検証結果をもとに、日本市場への進出を考えていると聞いたことがある。
Q6
日本と米国のオンライン診療システムの違いは。
A6
双方で大きく違う点は、テクノロジーと価格の観点である。米国のオンライン診療は、オンラインで医者と患者をつなぐだけでなく、診断にAIが用いられ、事前トリアージ型診療も進んでいる。また、日本ではオンライン診療の報酬が対面診療に比べて安く設定されており、収益性の懸念が考えられる。ただ、コロナの感染拡大を受けて、日本でも米国のような事前トリアージ型の診療の試みがなされるなど、今後の展開に期待できる。
Q7
日本と米国の間でメンタルヘルス分野に関する価値観の違いはあるか?
A7
コロナの影響によりアメリカ人の3分の1がうつ病や不安障害になったという調査結果が出ている。これは、在宅ワークが日本以上に急速に進んだことが一因だと思う。米国ではセラピストによるカウンセリングを受けることが一般的であり、うつ病に関してオープンな傾向がある。こういった状況から、米国では日本よりメンタルヘルスに対して個人も企業も関心が高いと言える。
6.まとめ
今回は、米国のヘルスケア市場の最新トレンドをお伝えしました。
日本のヘルスリテラシーや病気の予防へのインセンティブは米国ほど高くないとのことですが、だからこそ、日本におけるヘルスケア領域が発展していく余地も大きいですね!日本のヘルスケア市場の変化が大変楽しみです。
今後もドコモ・ベンチャーズでは毎週1回以上のペースで定期的にイベントを実施し、その内容を本noteでレポートしていきます!
引き続きイベントレポートを配信していきますので、乞うご期待ください!!
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