見出し画像

欧州最大級のサステナビリティトレンドカンファレンスChangeNOW Summit 2024イベントレポート

はじめに

2024年3月25日から27日にかけて、フランスではChangeNOW Summit 2024が開催されました。環境保護をテーマにした革新的な解決策やサステナビリティへの取り組みを紹介する場としてヨーロッパ最大規模とされるこのイベントには多数の専門家やスタートアップが集います。

本レポートでは、欧州の現地パートナーを通して会場の雰囲気、注目セッション、そして持続可能なイノベーションに焦点を当ててご紹介します!

※このnoteはRouteX Inc.協力のもとで作成しています。


ChangeNOWとは?

ChangeNOWは2017年に発足した団体で、地球が抱える気候変動や食糧生産、エネルギー消費等の課題に取り組む革新的な解決策や影響力を有する人々や団体を束ね、産業や地理的な垣根を超えたサステナビリティ活動に尽力しています。

出典:ChangeNOW

今回開催されたサミット以外にも、女性の社会進出や教育格差など、環境問題だけではなく社会問題を解決するための活動も行っています。

今年は環境問題に特化したジョブフェアや、LVMHグループのMoët Hennessyとコラボして生きた土壌の保全に向けたフォーラムを開催予定です。

ChangeNOW Summit 2024 現地の様子

ChangeNOW Summit 2024は、35,000人の参加者が世界120の国から集まり、パリ中心部の歴史的な会場であるGrand Palais Ephémèreで開催されました。

RouteX Inc. 撮影

同会場では定期的にテックイベントが行われており、フランスのスタートアップ・エコシステムという観点からも重要な施設となっています。

会場内は再生利用紙で作られたパネルで飾られ、環境に配慮した設計が随所に見られました。

RouteX Inc. 撮影
RouteX Inc. 撮影

各展示には、「サーキュラーエコノミー」、「ファッション」、「海と水」、「スポーツ」、「エネルギー」、「バイオダイバーシティ」、「食品&農業」、「街」、「モビリティ」、「教育」、「健康」、「生物多様性」の12分野が網羅されており、欧州の環境保全文脈におけるテーマの幅広さと関心の高さが伺えます。

出典:ChangeNOW
RouteX Inc. 撮影
RouteX Inc. 撮影
RouteX Inc. 撮影

ステージでは、各業界のリーダーたちによる環境保全についてのディスカッションや最新トレンドの共有が行われ、活発な交流が見られました。

RouteX Inc. 撮影
RouteX Inc. 撮影

次に、開催されたディスカッションの中から、「環境保護」と「文化遺産・芸術」の関連性について語られたセッションをご紹介します。

Art for Impact: Passing on a common heritage

「Art for Impact」のセッションでは、地元の人々、そして現在と未来の世代に深い社会的・環境的インパクトをもたらすために、なぜ芸術・文化プログラムを通じて遺産にもっと投資すべきなのかについて語られました。

RouteX Inc. 撮影
RouteX Inc. 撮影

まず、芸術と文化を通じて遺産に投資することは、地域が持つ特有のアイデンティティを育て、ローカルの人々の団結力を高める力となるため、単に過去を保存するだけではないことが指摘されました。

そのうえで、文化遺産への投資は、特に恵まれない、あるいは社会から疎外されたコミュニティにおいて、社会変革の触媒としての役割も果たすとし、その重要性を強調しました。
例えば、フランスでは恵まれない人々のためのプログラムはあっても、その人々が実際に自分らの手で道を切り開くための支援やプログラムなどはありませんでした。
登壇者は、都市計画や建築開発のプロセスを民主化することで、単なる保存ではなく、開発が物理的な空間だけでなく、そこに住む人々にも関わるものであることを認識させることができると指摘しました。

アートは、それ自身が環境問題への意識を高める作品として、また環境に配慮したデザインを作り出すことなど、様々な形で持続可能な社会に貢献してきました。例えば、歴史的建造物の修復によりエネルギー効率の高い材料やシステムへアップグレードされたり、都市部の歩行者増加につながり、車の排出量が削減されたものなどがあります。

芸術や文化は、現在の人々のニーズに対応した将来の世代のための基盤であり、現代の社会問題や環境問題に取り組む未来志向の戦略の一つであると結論付けられました。

サステナブルパッケージに取り組むスタートアップ

ChangeNOWでは、様々な分野で環境保護に取り組むスタートアップが出展していました。
まずは、EUの包装廃棄物削減法でも話題となったパッケージング領域のスタートアップを5社ご紹介します。

Yuka

RouteX Inc. 撮影

Yukaは無料の食品分析アプリ ”Yuka” を提供するフランスのスタートアップです。
商品のバーコードをスマホでスキャンすることで、原材料を元に商品の健康レベルを評価し、より健康的な商品も紹介します。
また、食品が環境に与える影響を表すEco Scoreも提示しています。これは、製品を影響度の低いものから影響度の高いものまで 5 つのカテゴリー (A、B、C、D、E) に分類し、製造される過程におけるCO2排出量や生物多様性の損失、水資源の使用量などで決定されます。

Pandobac

RouteX Inc. 撮影

Pandobacは運搬で生じる廃棄物をなくすため、再利用可能なパッケージングを開発するフランスのスタートアップです。

パリの卸売業者向けに展開されており、従来廃棄されていたコンテナを使用後に回収・洗浄し、再度卸売業者に返却するという循環型運搬用コンテナを提供しています。

Tomorrowpack

RouteX Inc. 撮影

Tomorrowpackは、オンライン配達用の再利用可能な梱包材を製造するウクライナのスタートアップです。

梱包の箱は、廃棄後のバイオベースの素材から作られており、50回の再利用が可能となっています。同社によると、このソリューションの導入によって、オンラインの小売業者は梱包コストを最大20%削減することができるとのことです。

Flexi-Hex

RouteX Inc. 撮影

Flexi-Hexは、100%再生紙から作られた保護包装スリーブを開発するイギリスのスタートアップで、環境保護と製品保護を両立した梱包材を提供しています。

RouteX Inc. 撮影

この蜂の巣形のデザインが特徴で、卵を包んでビルの屋上から落としても割れないとのことでした。

既に英国最大の包装会社に認証されており、ワインで行ったPoCでは破損ゼロで結果を残しています。

Proservation

RouteX Inc. 撮影

Proservationは、籾殻をアップサイクルしたクッション性の高いパッケージングを開発するドイツのスタートアップです。

輸送用パッケージの中に緩衝材として使用でき、独自の技術で他にも様々な形に加工することが可能です。

生物分解性の素材を使用しているため、サーキュラーエコノミーにも貢献しています。

サステナビリティソリューションを展開する注目のスタートアップ

次に、パッケージング以外のサステナビリティ領域のスタートアップをご紹介します。

MORFO

RouteX Inc. 撮影
RouteX Inc. 撮影

MORFOは、森の生物多様性を回復させるために活動するフランスのスタートアップです。

森林工学、コンピューター・ビジョン、ドローンを4つのステージ(診断、計画、植え付け、モニタリング)で独自に融合させ、大規模な森林生態系の完全な復元を実現しています。

同社は、2050年までにドイツとスペインの面積に相当する森林を再生させることを実現させるために、立ち上げから2年で22人の従業員を抱え、数百万ユーロの顧客と契約を結ぶというスピーディーな事業展開を行っています。

Kolbev

RouteX Inc. 撮影

Kolbevは、オンデマンド型のワイヤレス電気自動車(EV)充電システムを開発するスイスのスタートアップです。

専用アプリでリクエストすることで、再生可能エネルギーを蓄えたモバイルバッテリーが届き、EVを充電することができます。
通常はEVを充電するために充電ステーションに赴く必要がありますが、この概念を変えるソリューションをを展開しています。

Oneka Technologies

RouteX Inc. 撮影
RouteX Inc. 撮影

Oneka Technologiesは、海水淡水化装置を提供するカナダのスタートアップです。

同社の特長は、従来の技術では莫大なコストがかかっていた脱塩プロセスを、波のエネルギーを利用することにより低コスト/サステナブルに行うことができる点です。

同社は2023年9月に870万€を調達し、災害救援用途の小規模な淡水化装置から、大量の水を使用する大都市や産業に対応するユーティリティ・スケールのユニットまで、市場のあらゆるセグメントと顧客のタイプに対応する製品群の開発を完了させることを表明しています。

Hydraloop

RouteX Inc. 撮影
RouteX Inc. 撮影

Hydraloopは家庭やオフィス、ホテル用に水のリサイクルソリューションを提供するオランダのスタートアップです。

Hydraloopシステムは、シャワー、浴槽、洗濯機から回収した水を、フィルターや化学薬品を使わず、UV照射やバイオリアクターなどの6つのステップで洗浄することで、廃水を25~45%節約します。

現在は、北米、中東、オーストラリアに事業を拡大しており、35カ国に130のパートナーを持っています。2024年3月に1,050万€を調達し、B2B販売の拡大と戦略的パートナーシップの開発に注力しています。

Magnotherm

RouteX Inc. 撮影
RouteX Inc. 撮影

Magnothermは、2019年にドイツのダルムシュタット工科大学からスピンアウトしたスタートアップで、磁気を利用する冷却技術の研究と業務用冷凍庫の開発をしています。

世界の冷却業界で導入された場合、総CO2排出量の10%、商業施設では電力を40%削減できます。また、同技術を水素の液化に利用することで新たなエネルギー源としての注目も集まっています。

既に飲料大手コカ・コーラに5台のディスプレイ・クーラーを出荷しており、さらにイベント用に貸し出される55台を製造する予定とのことです。

おわりに

いかがでしたでしょうか。

ChangeNOW Summit 2024は、地球規模の環境課題に革新的な技術・ソリューションを一石投じる場として、非常に活気立ったカンファレンスでした。

スタートアップのブースでは、サステナブルな包装材料から再生エネルギー、水資源の管理まで、さまざまな分野に渡る取り組みが紹介されていました。特に「水資源」については、日本は水が豊富な国なのであまり身近ではありませんが、世界的には環境問題・人口増加により淡水化技術や省水管理技術などが重要視されています。

EUでは、気候変動問題に対する一般市民の関心が非常に高いです。
European Commissionが実施した2023年の調査によると、以下の結果が出ています。

出典:European Commission

①93%が気候変動問題に対して、何かしらのアクションを1つ起こしている
②93%が気候変動が深刻な問題と認識している
③88%が2050年までにカーボンニュートラルを実現するために、温室効果ガスの排出量を削減しすることに同意している

今後、世界市場でビジネスを展開する場合は、環境問題は避けて通ることが益々難しくなります。
本noteでは、環境先進的なEUのスタートアップ・事例を多くご紹介しました。この内容が皆さまの学びやインプットに資するものとなれば幸いです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?