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Cory Wongって右手がすげぇんだなぁ⋯

「何をそんな当たり前のことを⋯」と思った方、どうかその右手に構えた石をまだ投げないで欲しい。

去る6月6日豊洲PITにて、Cory Wongの来日ライブを聴いてきました。
もう凄すぎて詳しい内容は僕の口からは語るに恐ろしいといったところですんで、よかったら是非博士によるこちらの講義を無料聴講してください。

んでもってこんな上質なレポートを読んだ上で、中学入学と同時に練習しなすぎて怒られるだけのピアノを辞め、吹奏楽部でトロンボーンを始めて20年、30歳を手前にして音楽の視野を広げるべく良い年してギターを始めたアマチュア中年男性の感想を読んでやろうと思った方、是非その右手に構えた石をセットポジションに構えて最後まで読んでいただけたら嬉しいです。

左手と右手

ギターは右手と左手でその役割がかなりきっぱり分かれていて、左手は音程に専従し、右手はピックと指・ボリュームノブ・ピックアップセレクター・トレモロユニットを操作して音色・音量・音形といったニュアンスに相当する部分を担う。音の止めについては両手が担当する。
ハンマリング・プリングやチョーキングといった左手のテクニックによって音程に絡むニュアンスを表現する。

トロンボーンなら両手による楽器操作は音程を多少決定できるのみで、音程の大部分は口とブレスが担うし、音色も音量も音形も口とブレスに掛かっている。
一方でピアノは表現の全てを両手でコントロールできる構造になっていて、右手と左手は音楽的な役割を分担する。

(まあかなり語弊があるまとめ方だと思います。)

僕は貰ったパート譜に書かれた音程と音量と音形をその通りに吹けるようになる事を目指して身体コントロールをトレーニングする活動に時間を費やしてきたので、任意のスケールから思うがままにアドリブソロを披露するギタープレイに憧れがありながらも、加齢で固くなった脳が全く理解できず四苦八苦していた。
(左手をスルスル動かし、あらゆるポジション・あらゆるスケールを巧みに組み合わせ、激エモフレーズを食らわす⋯⋯あぁみんなギターが上手だなぁ⋯⋯)というのが最近の悩みで、

思い通りの音楽をやりたい
→思い通りの音程を押さえたい
→指板理解が必要
→左手の分析と練習

と考えて、なんちゃらスケールを覚えてみたり、ナナメにペンタをスライドさせてみたり、とにかくギターの左手について理解する事が大事ではないかと考え込んでいた。

Cory Wongの長尺ソロと右手の説得力

この日のライブはCory Wongによる長尺ギターソロが多かったように思う。他のライブ映像などと比べても。
僕はCory Wongがどんなスケールを、どれだけピロピロさせてくれるんだろうと、無意識にそんな事を考えてしまっていた。

(これは大阪公演の様子ですが)

スポットライトがCoryに当たり、たっぷりとした時間の中で、その左手は不必要にポジション移動することはなく、比較的シンプルなフレーズをじっくりと演奏するのです。
ただし、その右手から生み出される無限のニュアンスが、これがたった一つの楽器から発せられるとは思えない程の多彩な音を表現するのです。5本それぞれが表情を魅せるフィンガーピッキング、気づけばピックに持ち替え、ピッキングポジションでトーンをコントロールし、ボリューム奏法も織り交ぜながら、ブリッジを押してビブラート、ピックアップも切り替え、右手で表現できる全てを展開してストーリーを構築していきます。
ボルテージが高まり尽くしたタイミングで照明が変わり、バンド隊が盛り上げてくる。ボリュームノブによって歪み量を調節し、そうしてようやくCoryの左手が情熱的に動き始め、ソロシーンを終局へと導く。

(あぁ⋯この人は本当に楽器が大好きなんだな⋯)

そう思ってからの記憶が定かではありません。

ドヤ顔エフェクターがドヤ顔じゃない

そしてあまりに自然に存在するワウ、オクターバー、そしてシマーリバーブ。
この3種類なんて特に「エフェクター使ってますよォ!!!」「やっぱりBOSSのオクターバーは世界一ですな!!!!」「Strymonのシマーは元祖にして至高!!!!!」「オモシロサウンドでやってます!!!!!!」っていう使い方しかできないと思っていた。

このエフェクターは取ってつけたような世界観ではなく、Cory Wong自身の中から生み出される世界の一部を担ってるに過ぎない。

み〜んな楽器が大好き

そうなると何もCory Wongだけでなく、バンドメンバー全員楽器が大好きなんだなって感じられてなりません。ワンシーンワンシーンの音色があまりに多彩すぎる。

特にMichel Nelsonのトロンボーンが素晴らしい事については、トロンボーン星の尖兵として語らざるを得ない。
この日のMichaelは特段ソロがあるわけでも、トップノートを担うわけでもない。しかしバッキングのアンサンブルにおいてトロンボーンがどのように音色を選択するか、それによってホーンセクション全体の色彩感を自由自在に変化させる事が出来るのかを明示する。
サックスだけなのか、サックス+Michaelなのか。トランペットだけなのか、トランペット+Michaelなのか。もしくはホーンセクション全員のシーン。それぞれのアンサンブルに対し最適なアプローチを行い、より柔らかく、より硬く、より優しく、より激しく。バンドサウンド全体の彩りをコーディネートしてくれるのだ。

『み~んな楽器が大好き』
このことが僕の長年の悩みに神の啓示を与えてくれた。

“音楽の三要素”

僕は小学生の頃、“音楽の三要素”というものを知った。

音楽の三要素
リズム(律動)、メロディー(旋律)、ハーモニー(和声)をもつものが音楽とされる。

Wikipediaより

その後トロンボーンにハマりロングトーン・リップスラー・タンギングを練習し“音色と音形”を追求する事に喜びを感じ始める。

今の僕と中学生の頃の僕

これをライフワークにしたいと思いながらも、

(“音楽の三要素”に“音色”も“音形”も含まれないのか)
(ならば俺のやっている事は音楽ではないのか)

という自己批判に苛まれていた。
音色と音形が半ば機械的に決定されるピアノによってリズム・メロディ・ハーモニーを追求することこそ“音楽”であり、ピアノを捨て音色と音形だけを追求する様なヤツは音楽人ではない。“楽器が趣味”と名乗れ。
そう批判する自己認識を抱えながら二次性徴を過ごした。

大人になりお小遣いが増えると、マウスピースを買い、楽器を買い、マウスピースを買い替え、持ち替え用の楽器を買い、そのためのマウスピースを⋯
あぁやはり俺は“楽器が趣味”なんだな。音楽人ではないんだな。そう確信をしていく。
お母さんに「全部同時に吹けないでしょ?なんでいっぱい買うの?」と音楽が時間芸術である事を前提に捉えた実に音楽人らしい批判を言われたが俺には全く響かない。楽器が趣味だから。音楽が趣味じゃないから。

だからこそ、ギターを始めたいと思った動機の中には、ピアノとは違うアプローチで“音楽”の構成要素を学び、中年としての人生時間を掛けて老後に突入する前に“音楽人”と成りたい、というコンプレックスが奥底にあったのだろう。
と今なら分析できる。

楽器を愛する人間の音楽

Cory Wongの両手両足に奏でられるギター、紡がれるは多彩な音色、百様の音形。
その全てを以って表現されるリズム・メロディ・ハーモニー。
だからこそ“リズムギターの名手”と。

Coryの音楽は音源で聴いていた。YouTubeで観ていた。
でも解っていなかった。

楽器を愛する人間の生み出す音楽がこんなにも素晴らしいということ。

僕の思春期はもうちょっと続けられそうです。

最後に

脳イキという比喩表現を100億回我慢しました。
やっぱり我慢できなかったので石を思いっきりブン投げてください。


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