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庵野秀明が願う「AAAヴンダー」本当の役割

ここでひとつ懺悔をします。僕が『ヱヴァQ』を観たのは劇場公開から8年も経ってからのことでした。2012年当時色々あってイマイチ気力に欠けていた僕は初日公開に行った先輩に「あんなん観なくて良いよwwww」と言われ、その言いつけを8年間も守り続けたのです。

『シン』の公開が決まり、毎年正月と盆に会うガンダム特撮大好き従兄弟に「来年は『シン』の話しような!」と言われて観るに至った『ヱヴァQ』は、(ハードルを下げ過ぎたのもあって)とても面白い作品でした。一方で世間に叩かれまくった理由もよくわかりました。庵野監督とエヴァファンの間に乖離を産んでしまった『Q』、観た人それぞれ様々な理由があったかと思います。

ただ庵野監督から見て“絶対ウケると思ったのに全然ウケなかったネタ“が一つあります。

Autonomous Assault Ark Wunder

以下『シン』のネタバレも含みますご注意ください。

序論

庵野秀明の作家性はまさに温故知新と言ったところで、常に新しい映像表現を求めながらも、一方で映像の原点に立ち返った古典的手法を網羅的になぞりたいという欲求があるお方ではないでしょうか。

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特にウルトラマンやゴジラといった特撮作品への造詣が深く、学生時代の自主制作「帰ってきたウルトラマン」はもういうまでもないでしょうか。みんなもYouTubeで探してみよう。

エヴァンゲリオンも怪獣と戦う巨人という構図はまさしくウルトラマンそのものであり、ゴジラを迎え撃つ防衛軍を模した要塞都市は実写では作りきれない程のディティールをアニメーションによって演出しています。『序』『破』の第3新東京市マジかっこいいよね。

まあ多分これくらいのことはみんな知ってると思うし、知らなくても『ティガ』とか『コスモス』とか『モスラ』とか釈由美子がメカゴジラ乗るやつとかちらっとぐらい観た事があるハズ。んまぶっちゃけ観た事なくてもカッコいいと思わせる画面のパワーがある。

庵野秀明がやり残したモノ、日本特撮作品もう一つの原点

ただ、日本の特撮映画の歴史は『ゴジラ』『ウルトラマン』だけでは語り尽くせません。

SF×戦艦というジャンルを扱う作品達があったのです。

60年代〜70年代の日本では旧大日本帝国軍の艦隊主義に端を発する戦艦美学は根強く、大和や武蔵といった実在の戦艦の人気が高かったのです。そして戦艦とSF特撮を組み合わせた作品が数多くありました。

重厚な発艦シーケンス

艦載機と連携した空飛ぶ大艦隊

艦首を活かし大怪獣へと単騎突撃

『Q』そして『シン』を観た方ならお分かりいただけただろうか。庵野秀明は当時の男の子達を沸かせた特撮演出を、AAAヴンダーと現代のアニメーション手法をもって再現したのです。

しかしこれが現代っ子にはいまいちウケが悪かった。全くウケなかったとは言わない。ただ、きっとかつての少年たちならもっともっと大喜びしてくれたはずなのだ。

さらば、宇宙戦艦

1974年に放映された『宇宙戦艦ヤマト』で戦艦×SFは最盛期を迎える。しかし83年『宇宙戦艦ヤマト 完結編』以降“戦艦”がフィーチャーされる作品は激減してしまった。

『機動戦士ガンダム』、スーパーカーブーム、新幹線開通、ファミコン発売と、“戦艦”が男の子たちの関心から段々と離れていったのである。何より終戦から年月が経ったのもあるだろう。

復活しなかった戦艦ブーム

テレビシリーズのウルトラマンは『80』以降打ち切られていたが、96年『ウルトラマンティガ』として復活を果たす。それ以降も空いた時期は多くあるものの、現在のニュージェネレーションシリーズ『ウルトラマンZ』まで続いている。

対して『ゴジラ』は人気作が数多くあれど、幾度かの打ち切りの末、04年『FINAL WARS』以降新作が作られなかった。庵野秀明の手によって『シンゴジラ』という形で復活したのは記憶に新しい。それに呼応するかのようにハリウッドで『ゴジラKOM』『ゴジラVSコング』が製作されている。

戦艦モノはどうだろうか。『ふしぎの海のナディア』があったり『FINAL WARS』に海底軍艦が登場したりといったことはあったが、そもそもシリーズ作品ではないのもあり、復活と呼べるようなSF戦艦作品は登場していない。『宇宙戦艦ヤマト』『銀河英雄伝説』等は根強い人気を持つが、『シンゴジラ』程の新規ブームに昇華されてはいない。

現代っ子は美少女がくっついてないと戦艦の話ができなくなってしまったのである。

シン・惑星大戦争

『シン・エヴァンゲリオン』を通して、『ゴジラ』『ウルトラマン』に次ぐもう一つの古典芸能を未来に残したい。まさしくヴンダー本来の役割としてAAAヴンダーが演じた、庵野秀明監督の願い。

庵野秀明という方は本当に天才だ。ニッチなファンだけの閉じたコンテンツだった『ゴジラ』をあそこまで昇華したのだ。きっと目論んでいるに違いない。『シン・惑星大戦争』を。


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