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DNX USチーム直伝、米国の動きを受け日本のスタートアップにおける職場の多様性を考える

2020年8月上旬、弊社の投資先を対象に、DNXのUSチームが米国で起こる多様性の議論について「スタートアップの競争力に、職場の多様性がなぜ欠かせないのか?」と題してイベントを開催しました。イベントではUSチームから2名が登壇。一名は、台湾系アメリカ人でありながら日本で育ち、幼いころからバックグラウンドの多様性について馴染みのあるRickie Koo。現在はサンフランシスコで、Black Lives Matterのデモを、目の前で見て感じています。そしてもう一名、日本生まれ日本育ちで数年前米国へ移住、現在シリコンバレー在住のNatsuki Zihnioglu。女性でアジア人、マイノリティを意識したことがあるという当事者として、現在はVC業界やスタートアップ業界の女性・マイノリティ比率の向上に向けて積極的に活動しています。
アメリカの投資先スタートアップCEOとのつながりも深いふたりに参加してもらい、ともに、スタートアップの職場に多様性が求められる理由について語ってもらいました。


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スタートアップの競争力に、職場の多様性がなぜ欠かせないのか?
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2017年、SNSを中心に世界的に告白・シェアされた#metoo。そして、今年ジョージ・フロイド氏の殺害事件をきっかけにBlack Lives Matter、歴史的に根深い黒人差別の問題が再燃しました。アメリカ全土で、今一番大きな課題として、国民みんなが足並みをそろえて課題解決に向けた取り組みを始めています。
こうしたなか、なにかと華やかに映るテック企業やベンチャーキャピタルに矛先が向き、矢面に立たされています。企業の責任として何をするべきか。起こってから対応するのでは遅い。我々DNXは、多様性なしには生き抜けない世の中がくる、そんな危機意識をもって対峙しています。
そこで今回は、アメリカで起こっているこうした流れをうけ、将来も見据え、日本のスタートアップがすべきことはなにか考えるべく、USチームのメンバー2名とともにトークセッションを開催いたします。

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今回アメリカから参加したDNX USチームのふたり


1.Diversity & Inclusionとはなにか

まずはじめに、こちらの映像をぜひご覧いただきたいと思います。
(日本語テロップ無し)

デンマークの映像なのですが、部屋に入ってくるのは、世代も服装も肌の色も異なる人たち。外見だけで見ると、お互い相入れないのではないかと思われるような人たちが、「小学生のときお調子者だった人」「UFOをみたことがある人」と質問していくことによって、共通項を見つけたり、仲良くなれるかもしれないと思うきっかけを得たりして、だんだん距離が近くなっていくというもの。



2. 同等であること、公平であること

日本ではあまり馴染みがありませんが、アメリカでよく語られている "Equality(同等)" と、 "Equity(公平)"の言葉について、わかりやすいTony Wilson氏のイラストを使った解説をしたいと思います。

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イラストレーターのTony Wilsonのイラストでご紹介

イラストに描かれているのは、左にぐにゃっと曲がったりんごの木の下に、二人の子どもがいるようす。

左上の何も手を加えていないありのままの環境では、木が傾いている左側の子どもの方にだけりんごが落ちてくる "Ineuquality(不平等)" な状況が生まれています。この状況を解決するために、 "Equality(同等)" のサポートをしようと、同じ高さのハシゴをもってくる。左側の子どもはりんごに手が届くようになったけれども、木が傾いているので右側の子どもは手が届かない。イラストで "Equality?" とクエスチョンマークが付いている理由が、まさに「同じサポートをしたら本当に "Equality(同等)" は生まれるのか?」という問題提起なわけです。

そこで出てくるのが、 "Equity(公平)" という考え方です。ふたりともがりんごに手が届くためにどうしたらいいかを考え、木の歪みに合わせて右側の子どもにより長いハシゴを差し伸べた状況です。ようやく右側の子どももりんごに手が届くようになりました。サポートの大きさだけを見ると、「平等ではないじゃないか」という声も聞こえてきそうですが、ふたりの子どもがりんごにありつけるためにはどういうサポートが必要かを考えて、異なる対応をすることが、この "Equity(公平)" の考え方です。

最後に、そもそも曲がった木を直せばいいという考え方もありますよね。傾きもりんごの数も整えば、同じサポートで同じようにりんごに手が届くようになる。こうした根本解決の考え方が "Justice(正義)" と呼ばれます。当然これを実現するのが一番理想的ですが、実現までには時間もかかりますしコストもかかる。だからこそ、それまでの間にいかに "Equity(公平)" を実現するかを考えていくことが大事かと思います。

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コロナ感染リスクを鑑み、オンライン配信および広い会場で距離をとって公聴


3.データで見る多様性の "実際"

イベントでは、データ・事実情報から、職場における多様性が今どのようであるかを紹介しました。

[女性起業家のスタートアップエグジット数/金額]
まずは、女性起業家によるスタートアップのエグジット案件数とエグジットの金額に関するデータです。エグジットの数(画像左のグラフ)を見てみると、年々女性起業家が創業チームにいるスタートアップのエグジット数は増えており、昨年は全米のエグジット企業のうち20%近くまで増えてきました。ところが、同年のエグジットの金額(画像右のグラフ)を見てみると、2019年のエグジット総額のたった7%、創業者全員が女性という企業を見てみると1.1%というデータが出ています。

アメリカはすでに女性の進出が進んでいると思われがちですが、データを見ると女性の活躍は(特にスタートアップ起業の文脈ですが)まだまだと言わざるを得ない状況です。

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青の線は創業者のいずれかが女性である企業、緑の線は創業メンバー全員が女性である企業を指す

[ベンチャーキャピタルにおける女性の割合]
続いて、投資を行うベンチャーキャピタルにおける男女比のデータです。投資家はよく、自分と似た人、似た価値観をもつ人に投資をしがちだと言われます。女性起業家に投資をしていくためには、同じようにベンチャーキャピタルにも女性がいるべきだという考え方に基づいています。次のグラフは、2017〜2019年に初めてパートナーのポジションについた女性の数の比較です。今回パートナーに絞ってご紹介する理由は、ベンチャーキャピタルにおいて投資の意思決定を行うのがパートナーだからです。

傾向というほどのデータは出ていませんが、女性のパートナー起用数だけを追っていくと年々若干名増えていることが見て取れます。しかしながら、それでもまだパートナーのポジションに就いている女性の数は、全体の12%にしか及んでいません。そのほとんどがシリコンバレーに集中していると言われています。大手のVCファームは、 #metooムーブメントなどを踏まえて女性の採用を急ピッチで進めています

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男女比率で見ると大きな傾向は見て取れないが、女性VCパートナー数は増加傾向にはある

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Photo by Rie Amano

[上場企業上位500社のうち女性が社長を務める企業]
次は上場企業についてのデータに目を向けてみます。S&Pの500社のうち、女性が社長の地位にある会社の数は、たった30社、6%しかありませんでした。大きいところでいうと、GMやOracleなど。

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[シリコンバレーにおける移民一世の活躍]
シリコンバレーでは移民一世の活躍が顕著です。
たとえば、Google創業者のSergey Brinはロシア生まれ育ち、SlackのCEO Stewart Butterfieldはカナダ出身、そしてElon Muskは南アフリカ出身です。シリコンバレーのハイテク産業は移民の力で成り立っていると言っても過言ではありません。オバマ政権時には米国で起業する外国人にスタートアップ・ビザを付与について議論がなされるほど、アメリカは移民の力を頼っていることが伺えます。

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錚々たるIT系巨大ベンチャーが移民・外国人に寄って設立されている


4.職場の多様性は企業の競争力強化に繋がる

職場における多様性を実現していくことはいいことである、と考える方は少なくないと思います。ただ、私たちが強調したいのは、「職場の多様性を高める」ということは目的ではなく、多様性が企業の競争力に繋がるという観点です。

次にお見せするデータは、マッキンゼーが掲載したリサーチです。米国の上場企業のデータを分析し、上位25%の企業における多様性が、下位25%の企業における多様性より遥かに高いことが示されています。

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多様性と業績の向上には相互関連性がある

多様性と業績に相互関連性があることはわかったのですが、実際に多様性が業績や職員のパフォーマンスにどう繋がるのでしょうか。イベントでは、アメリカで山のようにある論文のなかからケースをいくつか紹介しました。今回のブログではそのひとつご紹介します。

"Surface-Level Diversity and Decision-Making in Groups: When Does Deep-Level Similarity Help?”という実験が行われました。実験では、全テスト対象のメンバーを次の3つのグループに分けました。

A:全員白人
B:ひとりが非白人で残りのふたりが白人
C:ふたりが非白人で残りのひとりが白人

ここで、各グループに殺人ミステリーを解明しなさいというお題が出されます。各メンバーに、このミステリーを解決するため、それぞれ違うヒントが記載されたヒントカードを配布、ひとりひとりのヒントを議論を通じて照らし合わせないと解決できない設計です。
この実験の結果、人種多様性の高かったグループBとCの正答率が遥かに高かったというデータが出たそうです。なぜこうした結果に至ったのでしょうか。

一つの仮説には、グループAは何かしらの衝動的プレッシャーが生まれ、新しいアイデアを発想しにくい、発言しにくい環境ができた可能性。一方人種多様性のあるチームは議論の時間も長くかかり、議論の強度・質が高かった故、正しい回答に至ったのではないか。この仮説は、人種多様性の高いグループにいる人たちは、根本的に「グループのメンバーと視点が違う」という自覚をもって議論に望み、逆に自分の発想や新しい考えを発言しやすい環境になったのではないかと考えられています。

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人種多様性が高いグループが、ミステリーの正答率が著しく高い結果となった

イベント中には、このケースについて多くの質問が上がりました。多様性があればあるほど、前提の考え方から理解・共有を深める必要があって時間もエネルギーも要する。スタートアップにおいては、質の高さだけでなくスピードも重要なのではないかというご意見でした。

しかし、みなさんが取り組むスタートアップはイノベーションを生み出す企業です。イノベーションを生み出す会社というのは、常に新しいアイデア、新しい思想を入れていくことが重要だと思います。もちろん多様性だけに集中するのではなく、多様性をうまく活用してイノベーションを実現するか、競争力を高めるかに意識を向けることが大事です。

また、多様性を実現するには、実は多様な人々が活躍できるようなルールや土壌が必要です。阿吽の呼吸でルールなく実現できていたことが、前提が共有できない多様な人が入ってくるとうまくいかなくなることも多い。ルールを決めたり、社内での意思決定の方法をある程度決めておくことで、異なる人々同士の衝突を防いだり、時間コストを削減することができるのではないかと思います。

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投資先からZoomでもリモート参加を含め、約50名に参加いただきました。 Photo by Rie Amano


5.各企業で取り入れるべきこと

企業が成長すれば、色々な人材も採用できるようになりますし、こうした多様性の実現もしやうくなります。一方で、スタートアップにとっては時間の価値が一番高かったり、人のリソースも限られていたりすると思います。そうしたできることが限られる中で何ができるのか、フレームワークを考えてみました。

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DNXが考える、スタートアップで施策を取り入れるためのフレームワーク

[DNXが考える企業で取り入れるためのフレームワーク]まずは「課題認識」をしてみましょう。自分の会社の男女比はどうか、年齢はどうかを考えて見ること。これがスタートです。さらに多様性実現に取り組みたいという会社さんは、「プロジェクトリーダーを選定する」ことをお勧めします。この問題はひとりで会社を動かして実現するのは難しい。さらに、この問題に問題意識がない人がリーダーになっても、それが仮に人事担当者であったとしても、結局いいものは生まれません。役職に関係なく、この課題について問題意識を持っている方を会社の中で探してみていただけたらと思います。

その後、「現状理解」のため、会社の状況をデータに落とし込んでみる。男女比は5:5なのか、9:1なのか、数字で見ると一目瞭然です。採用時のクライテリアがあれば、採用の仕方を見直すこともできるかもしれません。その上で、他のプロジェクトと同様「マネジメントチームの理解」を得ること、そしてサポートをもらうことが必須です。予算や時間を充てること、そしてその後の意思決定のためにも、早い段階で理解を得ることが大事になります。
社内のコミュニケーション戦略は、会社がどのような切り口だと前向きに取り上げやすいか事情が異なります。多様性の問題が、個々人のパフォーマンスやいい意思決定をするために重要であるということ、10年20年という長いスパンで考えた時になくてはならないものであるということを、例えば業績向上や人材採用に役立つなどのなかから、フィットするストーリーで、会社に合わせてコミュニケーションの仕方を選択できれば良いかと思います。

最後には、どのようなアクションをするのかにまで落とし込む。どんな施策を取り入れるにも、コストやリソースが必要です。KPIの仕組みの変え方も考える必要があるかもしれません。会社にあったアクションを見つけていただけたらと思います。

[Airbnbの事例]
Airbnbは実はシリコンバレーの中でもDiversity & Inclusionの取り組みに前向きな企業という評判があります。取締役会の50%が女性でなければならないなどのルールも義務付けられています。そんなAirbnbが気づいた社内の大きな課題が、データサイエンティストチームの女性が占める割合が10%しかないことでした。10%しかいない組織では、全米の顧客の声がフェアに反映されないのではないかと考え、採用プロセスを分析し、どのフェーズで女性候補が脱落しているかを分析。

その結果、そもそも応募の時点で女性が30%しかいなかったため、女性向けエンジニアコミュニティへのスポンサーやカンファレンスでの活動を強化。さらに、内定率が低かったため最終面接に着目したところ、大抵の場合、5人の審査員のうち全員男性であり、女性候補者に何らかのプレッシャーがかかっていた可能性があるとして、審査員のうち最低1名以上の女性を1アサインし、女性候補者が自信をもってプレゼンテーションできるよう心がけたそうです。これにより、データサイエンティストのチームも女性の割合が10%から30%まで上昇しました。

同チームの採用プロセスやデータ・ドリブンの分析的アプローチは他の部署でも共有され、全社で活用されているそうです。

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男女比率の偏りの課題をデータ・ドリブンに分析し解決


イベントの途中でオーディエンスからコメントも出た通り、立ち上げ当初、コストもリソースもさくことが難しいスタートアップも多いと思います。一方で、SalesforceのMarc Benioffは「創業当時から取り組んでいなければ、成長したあとで企業文化を築くことはできない」と、創業当時から環境への取り組みを行なっているように、アーリーステージから文化として根付かせることの大切さもぜひ頭の片隅に入れておいていただけたらと思います。

また、DNXとしてもこうしたテーマについて、みなさんと考える機会を定期的に設けていきたいと思います。まずはぜひ、みなさんの会社でも、自社の多様性がどうであるか、「課題認識」から始めてみてください。

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(プレゼン:ズィヒニォール・ナツキ / Rickie Koo、文:上野 なつみ)

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