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社内公募を成功させるには、人事と組織を根本から変えるしかない

日本の企業がキャリアの社内公募制度を導入すると聞いて、まず思うのは、「今さら?」の一言です。
欧米企業では 20年以上前から社内イントラに “Job Posting” がありました。

次に思うのは、人事の根本思想を変えずに、カタチだけの制度を採り入れて失敗する、日本企業の悪癖です。嫌な予感しかしません。

社内公募は、階級が人ではなくポジションについている人事制度を前提とし、その人事制度はジョブ型の組織を前提とします。
この 3つ(組織 ⇒ 人事 ⇒ 任用)が一気通貫して初めて意味をもつのです。

本稿は、それらの関係をわかりやすく説明したうえで、日本企業が社内公募を成功裡に導入するための要件を提示したいと思います。

任用には 3つの方法がある

企業が組織上のポジションに人材を配置する方法は、主に次の 3つです。

1) 採用(求人募集、ヘッドハント、Referral 等)
2) 社内公募
3) 密室人事(関係者のみで協議して決める)

欧米企業は、1~3 を使い分けます。
キーポジションは 3で決めることが多く、それ以外のポジションには 1と 2を併用します。

日本企業は、ほぼすべてのポジションを 3で決めます。

両者の違いには、れっきとした根拠があります。
日本と欧米では人事制度の根本思想が異なるのです。
その基礎となるのが “階級” の考え方です。

階級が人についている日本、ポジションについている欧米

日本企業では職階や職級などの用語が使われますが、本稿では ”階級” という言葉に統一します。軍人の階級をイメージすると理解しやすいからです。

軍隊には、一等兵や軍曹、少尉・中尉・大尉、少佐・中佐・大佐などの階級があります。
これらは、個々の人に与えられる “位” ですが、その人の役割を表すものではありません。
役割とは、分隊長、小隊長、大隊長、師団長といったもので、企業における役職=ポジションに相当します。

階級とポジションの関係には凡その目安があります。
分隊長には軍曹クラス、小隊長には中尉か少尉、大隊長には中佐か少佐、師団長には中将クラスの人物が就任する、といった具合です。

日本企業の人事制度は、この軍隊と同じです。
“一般 3級” や “管理 6級” といった階級が一人一人の社員に付与されており、課長や部長といったポジションはそれとはまた別に任命されるものです。

欧米企業には、この「人にくっついている階級」という概念がありません。
階級はポジションにくっついているのです。
あるグローバル企業の組織図を見てみましょう。

組織図

各箱の中の黒文字がポジションです。
GM(支社長)、CFO(財務責任者)、Sales Lead(営業部長)など。
白文字は、階級を表します。それらはポジションに紐づいているのです。

日本企業の人事制度では、まず Senior Director という階級をもつ人ありきで、その人を CFO に配置するという発想になります。
欧米企業の発想は逆です。CFO というポジションが務まる人材を配置し、その結果としてその人は Senior Director になるのです。

まずはこの根本思想の違いを理解しなければ、話になりません。
なぜなら、人に階級がない欧米企業なればこそ社内公募が機能するからです。
日本企業では、例えば営業課長を決めるときに、その役職に見合った階級の人(管理 6級のような)からしか選べませんから、密室人事が最も効率的になります。

メンバーシップ型の日本、ジョブ型の欧米

では、この日本と欧米の人事制度の違いはどこからくるのでしょうか?

それが、メンバーシップ型とジョブ型という、組織スタイルの違いです。
両者の違いは「役割と責任」(Roles & Responsibilities; 以下 “R&R”) の有無にあります。
日本企業に代表されるメンバーシップ型の組織は、個々の社員の R&R が定義されていないので、社員のモチベーションを維持するために、人に階級をつけ、それを一歩一歩昇級させていく必要が生じるのです。
一方、欧米企業に代表されるジョブ型の組織は、R&R が増えることが社員のモチベーションになりますから、人に階級を付与する必要がありません。

以上をまとめると、次のような因果関係になっています。

日本企業: メンバーシップ型 ⇒ 人に階級 ⇒ 密室人事
欧米企業: ジョブ型 ⇒ ポジションに階級 ⇒ 社内公募と採用

ジョブ型であれば、ポジションに階級がつく制度となり、その制度下では、最適な任用方法が公募(社内・社外)になるのです。

ここまでは、ジョブ型の how so(どうやってそうするのか)の話ですが、もっと重要なのは、why so(何のためにそうするのか)です。

ジョブ型にする目的は何か?

ジョブ型の組織にするメリットは、次の 3つです。

✅ コスト: R&R がない人員を解雇できる
✅ パフォーマンス: R&R に基づく適所適材
✅ スピード: R&R に則った最速の意思決定

現在の日本企業にこれらが可能でしょうか?

コスト
欧米諸国の労働法では、組織再編によってあるポジションがなくなった場合、そのポジションに就いていた社員を合法的に解雇することができます。
日本の法制下で、それができますか?
現行法でできない場合、解雇の法的要件を変える必要があります。

パフォーマンス
ジョブ型では、人事の注力点が育成から採用へシフトします。
原石を磨くより、完成品を買うほうが手っ取り早いからです。
それには人材市場が成熟していることが大前提です。
現在の日本で、企業が求める特定スペックの人材を低コスト・短時間・ピンポイントで調達できる環境は整っているでしょうか?

スピード
ジョブディスクリプションと R&R が完備されていても、それを社員が守らなければ意味がありません。
決めるべき人が決める、会議の出席者を必要最小限にするなど、R&R に従って仕事を進めるように、社員のマインドセットを変えられるでしょうか?

コスト(不要人員の解雇)だけ達成して、パフォーマンスとスピードは改善しない、なんてパターンになりはしないでしょうか?

仮に、すべての条件(労働法の改正、人材市場の成熟、社員の意識改革)が整った場合、何が起こるでしょう。
それは、人材のグローバル化です。
日本の人材がグローバル化するという意味ではありません。
世界中から優秀な人材が参入してくるという意味です。
経営者はそれでハッピーかもしれませんが、その他 99%の一般社員はますます苦しくなるだけです。

提言

社内公募を本格的に導入する場合は、人に階級をつける人事制度を撤廃し、全ポジションのジョブディスクリプションと R&R を定義し、適材適所ではなく “適所適材” の思想を貫くべきである。
それはジョブ型組織への移行を意味する。
現在の日本では無理なので、ジョブ型がよく機能する国に本社を移転する。そこまでの覚悟がない経営者は、安易にジョブ型を口にするべきではない。

ジョブ型に移行する覚悟がない場合は、社内公募制度を導入すべきでない。
どうしてもやりたければ、一部のポジションに限定する。それらは、”翻訳” や ”IT サポート” など業務内容が明確なポジションに限られる。(社外の求人広告となんら変わらない)
部課長などの要職を社内公募の対象にするなど正気の沙汰ではない。
ジョブ型の欧米企業ですら Director 以上のポジションは社内公募しない。


#日経COMEMO #キャリアの社内公募