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ヨーロッパ人が教えてくれる小さな幸せ

生きづらい、うまくいかない、と感じたことがある人に読んでほしい話。
変わりたい。でも人生はそうそう変えられない。どうせ同じような人生を生きるなら幸せな気分でいるほうがいい。多くの人がそう教えてくれました。

会議中、窓の外に心を向けるひととき

ルクセンブルクに住み始めた頃、周りの人間が妙におおらかに生きていることが不思議でした。
見知らぬ人の顔を見て、ニコッと微笑む人たち。
バスで車椅子の乗客の乗り降りを手伝う人たち。
道で地図を広げていると、声をかけてくる人たち。

最初のうちは、この国は裕福な人が多いから心に余裕があるのかな、くらいに思っていました。
街には物乞いがいます。その前を通り過ぎる人がさりげなくお金を渡しています。ごく普通の人たちです。会社員ふうの中年男性だったり、若い女性だったり、お年寄りだったり。みんな平均的な生活を送っているように見えます。

1年ほどたち、ヨーロッパ人の振る舞いが感覚的にわかりかけてきた頃、会社でのミーティング中にオランダ人の同僚が突然言いました。
「ほら、窓の外を見て」
議論が盛り上がっていたときに、いきなり何を言ってるのかな、と私は呆気にとられながら窓の外を見ましたが、とくに変わったことはありません。
すると、ドイツ人やフランス人やイギリス人たちも窓の外を見ながら、口々に言いました。
「きれいな青空だなあ」
「ほんと。雲ひとつないわねえ」
「空気が澄んでそう。窓開けよっか」

おいおい議論のほうはどうなったんだよ、とイライラしていたのは日本人の私だけでした。

外界のことどもをすくいとって、心に留める

ほかにも似たようなことがありました。
当時私はドイツ語の個人レッスンを受けていました。いつもと変わらないレッスンの最中、先生(ドイツ人女性)が人差し指を口にあてて「しーっ」というポーズをしました。私は、何ごと?と思い沈黙します。
先生「聞こえる?」
私「何が?」
先生「窓の外で小鳥が歌っているわ」
私「・・・・・・」
先生「なんてきれいな声なんでしょう」

こういうのがヨーロッパ人特有のメンタリティなのかどうかはわからないけれど。
今日はいい陽が射している。空気がおいしい。小鳥のさえずりが聞こえる。きれいなお花が咲いている。蝶々が飛んでいる。新緑の香りがする・・・
こういった、ある意味で「小さな」発見をスルーせずに丁寧にすくいとり、そこに喜びや幸福感を見いだす姿勢に、なにか生きるヒントのようなものをもらった気がしました。
さらに、見いだすだけでなく、それをほかの人と共有することで小さな幸せを分かち合う。そうすると、誰かとつながっていることを実感できて、ますます幸せな気分になるのです。

鳥が鳴くのは当たり前、花が咲くのは当たり前でしょうか。
たしかに知識としてはそうでしょう。では、あなたは最近、鳥が鳴くのを聞きましたか?花が咲いているのを見ましたか?
べつに、都会を離れて山にでも行こう、みたいな話ではありません。
ただ、あなたの今の日常の中で、なにか小さな幸せを見逃していませんか。
子供のとき何を見てもなにかしら感じた、あの頃の感性を忘れていませんか。
ビルだらけの都会にも無機質な職場にも、あなたの感覚のアンテナにひっかかる何かがあるはずです。それらを丁寧に心に留めて、今ここにある小さな幸せをゆっくり味わってみてはいかがでしょう。ほかには何も要りません。

幸せの値段は0ユーロ

じつは、つらいことなど何ひとつ存在しない

逆に、心に留めないほうがいいものもあります。
例えば、「上司とそりが合わない」と「今日は天気が良い」を比較してみてください。比較できませんか。なぜでしょう。前者は深刻な悩み、後者はどうでもいいことだから?
いや、逆ですよね。まず、後者はとても幸運なことです。天気が良いだけでその日1日の気分が上がります。そして、前者こそどうでもいいことです。そりの合わない上司なんて、あなたの人生の中では無意味な存在です。
いいえ、存在すらしないものです。だって、「あなたの人生」ですから。
いなくなってほしいものをわざわざ登場させる必要ないでしょ。

じつは、今日の天気も上司の人間性も、あなたが決められないことでは同じなんです。今日の天気が良いのは幸運で、上司とそりが合わないのはただの不運です。どちらもあなたの力が及ばない領域なのです。だったら、幸運のほうを見よ、ということです。不運については、無視せよ、となります。

日本ではいじめが原因で自殺する若者がいる、という記事を読んだヨーロッパ人たちと議論したことがあります。彼らの感想はシンプルで「まったく理解できない」というものでした。彼らは口をそろえて言いました。
「つらいなら、逃げればいいじゃん」

仕事も同じだよ、と彼らは言いました。ノルマがきついなら、上司が嫌なら、処遇が不満なら、辞めればいいじゃん、と。

「どうして日本人は我慢するの?」とも言いました。
どうしてでしょうね。そういう教育を受けているから?
つらくても我慢しろ。逃げずに頑張れ。人のせいにするな。
いっそ、これらとは逆のことをしてもいいんじゃないでしょうか。

人生は一度きり、そして日常の一瞬一瞬は一回性のもの。
変えられないことで悩み苦しむのはもうやめましょう。

なにかを感じる心さえあればほかには何もいりません。
この世界は小さな感動で満ち満ちています。