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いつまでエクセルを使い続けますか?

最初に、この記事の内容を 3行で要約します。

✅ ERP システム導入の目的は、エクセル作業をなくすこと
✅ 社内での数字のやりとりは、ほとんどが不必要なもの
✅ 数字信仰をやめて、人間らしい仕事を取り戻したい

日本人のエクセル好き、ヨーロッパ人のエクセル嫌い

Microsoft の表計算ソフト “Excel” のスプレッドシート。
職種によっては、日々の業務に欠かせない重要ツールでしょう。
私の職種はファイナンス系なので、私の部下たちも私自身も、エクセルにはお世話になっています。

日本の会社員にはエクセルが得意な人(エクセル職人)が多い気がします。
また、香港の会社員もエクセルスキルが高いことを最近痛感しています。
優秀な部下が複雑怪奇な関数やマクロを駆使してきます。
いやいやこっちが理解できねーよ、と舌打ちするクオリティです。

他方、ヨーロッパの会社員はエクセルを使う業務を手作業 (manual work) と蔑んで、ひどく嫌う傾向があります。
ヨーロッパの民のほうが、良くも悪くも、怠け者なんだと思います。
いかにラクをするか、という姿勢で生きているところがあります。
苦行も美徳とするフシがある日本人は、この姿勢を見習うべきかもしれません。
ラクしたいと思うからこそ、工場を機械化したり、定例会議を廃止したり、労働時間を最短化することが最大の関心事になるのです。

なんとかしてエクセル作業をなくしたい彼らが考えることはいつも同じ。
IT ツールやシステムの導入です。

ただのデータ送受信ツールじゃねーか

エクセルの問題点:
✅ 単純作業に時間がかかる
✅ ヒューマンエラーが発生しやすい
✅ 自由度が高い(各人が独自のテンプレートを “開発” してしまう)
✅ オフラインである
✅ どのファイルが最新のバージョンかわからなくなる
✅ 作業がチマチマして、メンタルにも体にも悪い

まだまだあるでしょうが、これらの問題を一気に解決するソリューションとして、新しいプラットフォームを開発・導入しよう、と言い出す輩が必ずいます。

当社も、KPI (Key Performance Indicator) の実績を報告するためのツールとして、新しいシステムを導入したことがあります。
製品原価、原価差異、イールドなどの実績値を入力するオンラインのツールです。これらの数値はエクセルを使って算出されます。
つまり、KPI 実績の計算は各自エクセルで行い、計算結果の数値だけをこの報告ツールに入力せよ、とおっしゃるわけです。

作業増えてね?

子供でもわかりますよね。
エクセルで出した答えを報告ツールに手入力するわけですから。
単純に、その手入力作業分だけ増えています。

しかも、「単位:千ドル」と書いてあるところを、「1ドル単位」で入力してくるおバカさんが 10人中 3人くらいいます。

ヒューマンエラーも増えとるがな。

さらに、”.” と ”,” がヨーロッパとアジア・アメリカでは逆なんですよ。
「258,000」は、日本では「25万8千」と読みますが、ヨーロッパでは「258」なのです。ヨーロッパで「25万8千」は、「258.000」です。
この違いによって世界中でどんな混乱が起こるか、ご想像にお任せします。

この報告ツール、百害あって一利なしだね、と気づくのに 1年かかった後、本社ご当局はツールに改良を加えました。
手入力するかわりに、エクセルファイルをアップロードする仕様にしたのです。

バカなの?

ねえねえ、バカなの!?

ねえねえねえねえねえねえ!!

ねえねえ


世の中には、このような ITツール・システムがゴマンとあります。
あるとき、当社の経営幹部がこの状況を知って、キレました。
で、世界に 130以上ある事業所に通達しました。

「ローカルで使用している ITシステム、アプリケーション、ツールをすべて洗い出してリストアップせよ」

そのアクションが、また要らん仕事を増やしていることに・・・

気づかんかいボケ!!

気づかんかいボケ2


結局、エクセルに戻ってくる

ERP や業務システムやプラットフォームというのは、エクセルをなくすために導入するものらしいです。

当社が世界最強の ERP システムである SAP を導入したときのこと。
go live の 1年後、SAP の効果を検証するための調査が行われました。
それはごくシンプルなアンケート調査でした。

Q1. 今でもエクセルを使っている業務をすべて挙げよ。
Q2. 上で挙げた業務にエクセルが必要な理由を述べよ。

どんだけエクセルが憎いんじゃい。

むかし、何かあったのね、エクセルさんとの間に。
わたくしに話してくださるかしら。
少し気持ちがラクになるかもしれないわ。

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どれほど強力な ERP を入れても、エクセル業務はなくなりませんでした。
データの集計、加工、分析等でエクセルに優るソフトはありません。
エクセルを愛用し続けている日本の会社員はそんなに間違っていないと思います。(使い方を間違えている例はあるかもしれません。エクセルの大きな表をパワポに貼り付けるとか、議事録や企画書をエクセルで作成するとか。)
エクセルにしかできない機能は多く、けっこう奥が深いので、新たなテクや小技を覚えることで業務効率が上がります。
今の業務プロセスを前提とするなら、エクセルはパワフルなツールです。

しかし、今必要なのは、既存の業務プロセスを疑い、エクセルとの付き合い方を変えることだと思います。

数字で遊ぶの、もうやめませんか?

ファイナンスの仕事というのは、数字のやりとりばかりしています。
私は、そのほとんどが不要だと考えています。
ファイナンスに限らず、社内でやりとりされる数字のコミュニケーションは何の役にも立っていないことが多いのです。
例えば・・・

資金繰り
零細企業ならいざしらず、キャッシュのイン・アウトをいまどきエクセルで管理している企業などありえません。
資金がショートする前に、人材がショートする心配をしたほうがいいです。

制度会計としての財務報告
これは法定要件なので避けて通れませんが、財務諸表の作成などはほとんど ERP の仕事です。照合や決算調整などの人力作業は、一部の経理部員が汗をかけばいいことです。

ロジスティクス(製造計画、需給・在庫管理、発注)
ERP内のモジュールが全部やってくれます。BoMとMRP が弾き出すオーダーに任せておけばいいのです。
システムはバカだから人が数字に手を加える必要があるって?
いいえ。誤りを犯すのはたいてい、システムではなく人間です。

管理会計
私見では、これを効果的に行っている企業などほとんどありません。
原価管理や利益管理と称して、数字をこねくり回して悦に入っているだけ、というのが実態です。
なぜか、これをやっている人たちは上から目線で面倒な注文をつけてきたりする傾向があります。
現場のオペレーションをやっている人にとっては百害あって一利なしです。

経営判断のための報告
不要物チャンピオンです。
現場から上がってくる数字を見て経営判断を行う、という建て付けになっていますが、ほとんどの経営者は数字が読めません。
ときどき数字に強い経営者もいますが、それは例外です。
そもそも、優れた経営者は数字なんかで重要な意思決定をしません。


数字に働かされすぎなんですよ。
一度も使われることのない数字を作るためのエクセル作業が多すぎます。

数字をやたら信奉する人をスージストと言います。(今私が命名しました)
数字で示せ。数値化せよ。定量的に評価せよ。数字はウソをつかない。
こういうことを言いがちなスージストは、数字に強い人、数字が好きな人、あるいは数字にひれ伏してしまう人たちです。
スージストは、ビジネスの戦略も、計画も、実行も、結果も、すべて数字で説明可能と考えていて、そういう一次元的な世界を維持しようとします。

私はもともと理系で数字に強いので、スージストの世界では有利な存在です。
しかし、だからこそ、私のような人間が言わなければならないと思っています。無機質な数字の事どもは無機質なコンピュータに任せておいて、私たち人間は、数字では表せない言葉や感情の力で仕事をしよう、と。

味気ない数字労働から、少しでも人間性を取り戻したいと思います。