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上を目指す女性社員への提言

最近は出世したくない若者が増えているそうで、それを私は良い傾向と捉えています。自分の気持ちに正直に生きる人が増えてきた結果だと考えるからです。
一方で、
それなりの学歴で、それなりの会社に入った人が、それなりに出世したい、と考えるのはごく自然である、とも思います。
それは男性も女性も同じ。
☟ の noteを読みました。

女性のキャリア形成が困難なのは、女性の能力が劣っているからではなく、また男女差別があるからでもない
それは Greedy job のせいである。

ヨーロッパ系のグローバル企業で働いてきた経験から、私見を述べたいと思いました。


Greedy jobを撲滅する

Greedy(強欲)は、ひと昔前に経営学界隈などで流行したワードです。
すでに富める者がもっとお金を欲しがる態度を揶揄する言葉でした。

Greedy jobとは、会社や上司に献身的に仕えることで過分に高い報酬を得る仕事のことです。
これ、日本人にはピンときやすい概念ではないでしょうか。

会社にいる時間が長い。
いつも上司とつるんでいる。
深夜でも休日でもすぐに応答する。

こういう人が出世するんですよね。
もちろん、このような働き方をしている人は大きな犠牲を払っています。
労働時間は長くなるし、365日 24時間仕事から解放されることがない。
しかし、出世するということは、報酬も上がります。

例えば、1日 8時間普通に働いている人の日給が 8,000円とします。
時給に換算すると 1,000円です。
Greedy jobで出世した人は、1日 12時間働いて 18,000円もらえる。
時給に換算すると 1,500円。普通に働いている人の 1.5倍ですね。

あなたはどちらを選びますか?って話。

そこで、家庭を大切にする女性は普通に働くことを選び、家庭を多少犠牲にしても平気な男性は Greedy jobを選ぶ傾向があった。いや、今でもある、ということです。

当たり前じゃないか、と思われましたか?

でもこれってね、男女の賃金格差は男女差別のせいではない、と言っているわけですよ。
では、何のせいでしょうか?
A. 会社に心身を捧げて働きすぎる男性が悪い
B. そういう社員を昇進させる会社が悪い
C. 休暇中に電話してくる上司が悪い

どれも問題の本質ではないような・・・。
根本的な解決はもっとシンプルでしてね。
男女の賃金格差をなくすためには、Greedy jobをなくせばいいのです。

働き方改革って?

私の勤務先はスイスに本社を置くグローバル企業ですが、CEOら経営陣の国籍はベルギー人、ギリシャ人、イギリス人、フランス人、オーストリア人など。ヨーロッパ系の会社と言っていいでしょう。

トップ層 (Senior Vice President) の女性比率 38% (16人中 6人)。
マネジメント層 (Director以上) の女性比率は 50%近く。
女性社員のキャリア形成に成功しているほうだと言えます。

その秘訣は、Greedy job状態を徹底的に回避していることです。
具体的な仕組みを 3つほど紹介します。

1. フレキシブルな働き方を推奨
まあ定番ですけどね。推奨するだけではダメで、評価に影響させないことが肝心です。当社の規程にはこう明記されています。
「評価者は、部下のパフォーマンス評価において、彼女/彼の労働時間 (working hours) ・場所 (workplace) を加味してはならない」

2. 共有メールボックス
個々の社員のメールアドレスのほかに、複数社員で共有するメールボックスがあります。社内業務の依頼はこの共有アドレスに送ります。届いた依頼は手の空いている社員が拾い上げて処理するので、一人や二人遊んで不在にしていても問題ありません。

3. 権限委譲 (delegation)
上司は決裁権限を直属の部下にいつでも無制限に委譲することができます。
電子決裁システムで、決裁を任せる部下と委譲期間を設定するだけで OK。これで、例えば 3週間のバカンス中、あらゆる意思決定から解放されるのです。

このような働き方によって、働く時間・場所を強制されたり、一人で業務を抱えたり、休暇を邪魔されたりすることがなくなります。
そうなれば、男性も女性も、シングルも共働きも子持ちも、そしてワーカホリックもそうでない人も、同じ土俵に立つことができます。
自由と平等が同時に実現している状態です。

それでも出世競争はある

多様な生活を営む社員らが平等な勤務条件になったからといって、出世競争がなくなるわけではありません。
出世に興味のない人は競争に参加しなければいいだけですが、それなりに昇進を望む人は競争を避けられません。

Greedy jobがなくなり、男女間の不平等が解消されると、男も女も関係なく平等な競争になります。
私がいるファイナンス部門は、女性比率 66% (29人中 19人) で、部門長の Vice President は女性、その直属である Director (部長格) は 3人中 2人が女性です。
この組織には、女性同士が競争する空気があります。

女性社員が優勢な組織では、男性社員は萎縮する傾向があり、競争から降りている人や、男性同士で愚痴をこぼす人が多く見られます。
一方、女性社員は元気があり、仕事も会話も弾んでいます。
女性社員のほうが会社にいる時間が長いです。

彼女たちは、女性同士の結束を強めつつ、女性同士の競争を戦っています。
足の引っ張り合いみたいなことはないものの、政治的な所作は各階層で観察できます。アピール合戦、派閥形成、ご機嫌取り、日和見など。組織に所属する人なら多かれ少なかれやっていることではありますが。
むかし日本の会社で見ていた男性同士の競争を思い出します。

結局、最後は忠誠心

平等な条件下で競争に勝つには何が必要でしょう。

「出世」と言うと漠然としていますが、端的に言えば、ポジション(役職)を勝ち取ることです。
ほとんどの場合、それは「経理課長」のような既存の役職であり、現任者がいます。

例えば、経理課長の後任はどのようなプロセスで決まるでしょうか。
典型的なパターンとして・・・
1) 上席である経理部長が経理課長にメール:「君の後任候補を 3人くらい挙げてみてくれないか?」
2) 経理部長と経理課長が 1 on 1 ミーティング:課長が挙げた候補者について経歴・適性・評判などを説明
3) 3ヵ月後、部長から課長に異動の内示あり:「君の後任は〇〇でいい?」「はい。いいと思います」

えらく単純でしょ?
ポイントは、密室で決まることと、現任者(この場合、経理課長)の意向がほぼすべてということ。そして基本的にサプライズはないということです。
それくらいの内幕わかっとるわい、と思われたかもしれません。

経理課長のポジションを取るには、現経理課長の子飼いになるのが王道。
シンデレラストーリーなどないわけです。
経理部長のポジションを取るのも(ワンランク上の)同じ道筋になります。

「子飼い」とは何か。
身も蓋もないことを言えば、いつも近くにいて、意見を交わし合い、一緒にメシを食い、弟子→右腕→コピーになること。これが現実なのよね。

わかりやすくて、ある意味で簡単と言えるかもしれません。
才覚とかマネジメント能力なんてやつは誰にもわからないけれど、忠誠心やコミットメントは上の人間に最もアピールする要素ですからね。

ちなみに、転職派の人も社内でポジションを上げることは重要です。
経験者採用の条件には、前職のポジションと年収が考慮されるからです。

働く女性たちへ

五十にして天命を知りポジションを手放した人間が、なぜこんな話をしているのかって?

良い組織の必要条件は、然るべき人が然るべきポジションにいることで、「適材適所」の適材 (Right person) とは、人と組織に貢献することをコミットした人のことだと思うんです。
そういう人はちゃんと上に行ってほしいのですよ。

それと、☟ の noteにも書いたように、私は日本の会社の男社会と同質性に耐えられなかった人間なので、男性も女性もいる職場が好きです。

男と女は異質。その異質な両性が平等で、対等な競争をするのは、なかなかいいものです。
部下やセクレタリーではなく、ピアとして、認め合い、助け合い、磨き合いながら互角に勝負できる女性。異質ゆえに、逆立ちしても勝てない長所と、愛おしいくらい脆い短所を併せ持つ女性。
男はね。そんな女性たちと仕事がしたいんだ。
だから、上を目指す女性は順当に上に行ってもらわなきゃ困るんだ。
あわれな男たちがしてきた Greedy job によってではなく、”普通の働き方” で、狙ったポジションをスマートに取りにいけ。
競争に敗れたら、フェアに戦ったことを誇りにまた女を上げられよう。

戦う女には特有の洗練がある。
それは、仕事以外のところにもっと大切なものを持っているからかもしれない。
仕事しかない男たちも、競争をやめた男たちも、貴女たちから普通の働き方を学んでいます。
これからも、私どもの良き教師、良きパートナー、そして良きライバルとして、楽しくやっていきましょう。

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