地元を捨てた人間は心を隠している
中学時代の同級生に会いました。
タケシとオサム。
この二人は、小中学校以来の親友で、私が海外に行ってから音信が途絶えていましたが、お互い 40代になってから再び連絡をとるようになりました。
今は年に 1度くらいで会っています。
この二人に共通しているのは、中学時代の同級生と結婚していることです。
タケシは、中学時代にクミコと付き合っていましたが、別々の高校に入ってから別れました。
その後、何人かの女性とお付き合いしたそうですが、長くは続かなかったようです。
30歳を前にした頃、タケシは、地元の居酒屋でシズエにばったり出くわしました。シズエは中学時代のクミコの友達でしたが、タケシとシズエは話したこともなかったそうです。
お互いに顔くらいは知っていたので、一緒に飲もうか、となって、ふたりはクミコの悪口で盛り上がって意気投合したそうな。
それからわずか数ヵ月でタケシはシズエと結婚して今に至ります。
オサムは、21歳で職場の同僚と結婚し、子供を2人もうけましたが、33歳のときに離婚しました。
その 2年後、35歳のときに、オサムはマユミとばったり出くわしました。やっぱり地元の居酒屋で。
マユミとは、オサムが中学時代に付き合っていた女子です。
オサムは中学の番長(☜ 意味がわからない若者はググってください)でした。マユミは先代の番長の妹で、当時オサムとマユミはいわば学校公認の仲だったのです。
そんなお似合いのふたりが 35歳で再会したわけです。
しかも、そのときはどちらもバツイチでした。
オサムは、前妻に養育費を払いながら、マユミと再婚し、マユミの連れ子を引き取りました。
タケシとオサム。この二人に会うと、私はいろいろ考えさせられます。
地元の居酒屋では何かが起こる説、とかではなく、たとえば元同級生という不思議な力について。
私にも元同級生はいるわけですが、タケシとオサム以外は完全に関係がなくなっています。
高校卒業後に地元を離れたこと。就職後に日本を離れたこと。それらは自分の意思でしてきたことです。
あのとき、地元に留まりたくない、とはっきり思いました。
海外に移住したときも、こんな国出て行ってやる、みたいな思い上がりがあったように思います。
今さらそれが間違いだったなどと感傷に浸るつもりはありません。
ただ、彼らをうらやましく感じるのはたしかです。
50を過ぎて気づけば根無し草の私と、”ホーム” に太い根を張って生きている彼ら。どちらがいいといった話ではないのでしょう。
しかし、「おまえはいろんなとこに行けていいよなぁ」なんて言われると反応に困るのです。
おまえたちは、これからいくらでも行きたいところに行けるじゃないか。
おれは、今さらホームをつくることはできないんだぞ。
そんなことを言ったら彼らはなんて言うだろう。
地元を離れた者は、翼を手に入れた気がして、地元に居続ける者たちに対して優越感をもつことがあります。
でもいつか生まれた場所に帰ってくる。そのとき彼らには、分厚い地元のネットワークがあり、立派な家があり、むかしから変わらない美しい風景があるのです。
何かを得た者は何かを失う。ただそれだけのことなのかもしれません。
または、隣の芝生は青いとも言いますね。
タケシもオサムもわかっているのでしょう。
私の優越感と劣等感とを。
そして自分自身のそれを。
誰もが勝ち組であり負け組でもある。
そんなふうに思いました。