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人事評価の季節に、制度を評価してみた

年末年始の恒例行事と言えば、部下の業績評価です。
Performance Review とか Appraisal と呼ばれるアレ。
2021年の部下の成果を評価し、格付 (Rating) し、面談でフィードバックする。
一年で最も神経を使う仕事です。

とあるグローバル企業の評価制度

当社は、いわゆる目標管理制度を採用しています。
年初に、一人ひとりの社員が業務目標 (Business Goals) を上司と握ります。
1年後、その達成度を評価します。

Rating は以下のとおり。

Exceeds expectations(期待を上回る成果をあげた)
Meets expectations(期待どおりの成果をあげた)
Requires improvement(改善を要する)

かなりシンプルな、3段階評価ですね。
Exceeds を 3点、Meets を 2点、Requires を 1点とすれば、スコア化も可能な評価制度と言えます。

当社の評価制度がユニークなのは、この Rating (score) がボーナスにも昇給にも影響しないところです。
ボーナスは、全社 KPI 達成度によって、全社員一律の % が決まります。
昇給は、インフレ率等を加味した上昇率 % が機械的に計算されるだけ。

つまり、Exceeds と高く評価されても、Requires と低く評価されても、給与は変わらないということです。

さらに、昇進の方法は社内公募が基本なので、評価と昇進も切り離されています。
評価・給与・昇進が相互にリンクしていない、当社の人事制度です。

評価・給与・昇進がややこしく絡み合ってブラックボックス化しているより、きれいに切り離してしまったほうがシンプルでいいと考えています。

人事部門は思考停止している

ここまで読まれて、「悪平等」という言葉が浮かんだ方もおられるかもしれませんね。頑張って成果を出しても、頑張らずに成果を出さなくても、報酬が同じなのはおかしい、と。

頑張ったことに対する報酬とは何か。
企業経営や、コンサルティングや、人事 (HR) に携わった方も、同じような問いに悩まれたことがあるのではないでしょうか。

その答えは様々だと思いますが、金銭ではない、とだけは確信をもって言えます。
金銭だ、と言いきってしまうと、組織論・モチベーション・リーダーシップ理論など、経営学の根幹をなす主題が崩壊します。

金銭以外の報酬。
それは、第一に、成果そのもの。
第二に、最も認めてほしい人からの評価・感謝 (Appreciation)。
第三に、その他周囲から得られる評判・人望 (Reputation)。

「成果そのもの」とは、自己評価に基づく感情です。
自分自身が成し遂げたいとセルフモチベートされた仕事を、うまく成し遂げたことによって得られる達成感は、何物にも代え難い報酬です。
自己を肯定し尊重する Self-esteem の源となります。

第二の Appreciation は、「誰からの?」という部分が重要です。
必ずしも上司とは限りません。先輩、同志、顧客、あるいは配偶者かもしれない。自分が最も敬愛する人からの評価と感謝を受けとることです。

第三の Reputation は、見えにくいものですが、あなたの働きぶりや振舞いが反映・蓄積された結果です。組織に生きる人なら、評判・人望というものがもつ重みを、身をもって経験されているのではないでしょうか。
人事施策として、Reputation の「見える化」に取り組む企業もあります。

金銭による報酬を全否定はしませんが、お金でモチベートされる人と、お金以外のものにモチベートされる人とでは、後者の方が高いパフォーマンスを発揮する、というのが私の経験則です。

そういう意味で、当社の評価制度はなかなかよく設計されていると思います。

と褒めた矢先、P&C(人事部)から全評価者宛てのメールが来ました。

Exceeds expectations は、全体の 20%以下に抑えること

はあ?

なぜ P&C がそんなことを決めるのですか? 評価するのは私たちですよ?
「目標」に対して達成度を評価する建て付けなんじゃないの?
結局、相対評価ってことですか?

目標を明らかに上回った部下に対して、「あなたより優れた成果をあげた人がいるので、Meets expectations で我慢してください」とでも言えと?

P&C よ。キミらの制度設計には、首尾一貫した思想というものがないのか?

日本人と日本人以外で、フィードバックの主旨が異なる

Rating は給与に影響しないんだから、あまり気にしなくてもいいのでは?と思われますか?
逆ですよ。
金銭以外の報酬の話を思い出してください。
最も認めてほしい人は上司とは限らない、と言いましたが、上司である場合も当然あります。上司が Exceeds と言う、その言葉こそが重要なのです。
それに、自己評価に確信が持てない人は、Exceeds とオフィシャルに認められることで、「私の自己評価は間違ってなかった」と確認するのです。

評価を給与に反映させない制度にすることによって、Rating の言葉がもつ重みが増し、その言葉によって社員をモチベートするという設計思想のはず。
であれば、Rating は絶対評価でなければなりません。
「Exceeds を 20%以下に抑えよ」との P&C 通達は、この設計思想を台無しにする効果しかない。

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上司からのフィードバックに何を求めるかにおいて、日本人と日本人以外で大きな違いがあることに気づいていました。
日本人は上司からのフィードバックをあまり求めない傾向があるのに対し、ヨーロッパ人や他のアジア人などは、貪欲にフィードバックを聞きたがるのです。彼らの要求はたいてい同じ。

「改善すべき点を教えてください」

どんなに優秀で高い成果をあげている部下でも、それを尋ねます。むしろ、優秀な部下ほどそれを知りたがる傾向が強いです。
私が満足顔で「ありません」と答えると、部下は残念そうな顔をするので、必ず何かしらサジェストするようにしています。

かたや、日本人は、「褒めてほしい」という気持ちが強いようです。
それは、自己評価が低いから、と私は推察します。
つまり、自分に自信がないんですね。
だから、上司に褒められてようやく安心する、という自虐的な心理に陥っている。一方、改善すべき点に言及されると、「ダメ出しされた」と感じる。これも自己評価の低さからきています。

なので、日本人の部下に対しては、良かった点をひたすら褒めて、悪かった点には触れない、というのが適切なフィードバックだと思います。

ヨーロッパ人や香港人は逆です。
良かった点に関しては「自己評価を承認する」程度で十分で、改善すべき点にフォーカスするのが、求められるフィードバックになります。

まとめ

人事評価の目的は、賞罰を与えることではなく、社員のやる気を高めることです。
「ボーナス 10%増し」と「丁寧なフィードバック」のどちらか一つだけ与えられるとしたら、あなたはどちらを選びますか?
意見の分かれるところでしょうが、私は断然後者ですね。

あなたの部下が最も聞きたい言葉を聞かせてあげましょう。
自己評価が低い部下には、全語彙を駆使して褒め言葉を浴びせてやろう。
改善のヒントを知りたい部下には、思いつく限りの提案を並べてやろう。
あなたが、部下にとって最も認めてほしい人であることが大前提ですが。