鏡の国のアリス 第1章

第一章

鏡の家

 間違いないのは、白い子猫は何も悪くないってこと―悪いのは何もかも黒い子猫だった。なぜって白い子猫は、もう一五分も前から、親猫に顔を洗ってもらっていたから(それをちゃんと我慢したのはえらい。考えてみれば)。一緒にいたずらができたわけはない。
 ダイナがどんなふうに子猫たちの顔を洗うのかというと、まず、片方の手でかわいそうな子猫の耳を押さえて、それからもう片方の手で、鼻から順に顔中をこすっていく。それも毛並みとは反対に逆なでにする。そう、今も、ダイナはそんなふうに白い子猫の世話に懸命で、子猫の方はじっと寝そべって、ごろごろのどを鳴らし始めている―自分のためを思ってしてくれているのはちゃんとわかっているらしい。
 黒猫はもう、昼過ぎには顔を洗ってもらっていた。だから、アリスが大きな肘かけ椅子のすみに丸くなって座って、ひとりごとを言ったり、うとうと眠ったりしているときに、黒猫はアリスが巻きかけていた毛糸玉に盛大にじゃれついて、あちこちに転がした。毛糸はすっかりほどけて、暖炉の前の絨毯いっぱいに広がり、結ばったりからまったりした。子猫はその真ん中で自分のしっぽと追いかけっこをする始末。

「あら、困った子ねえ!」アリスはそう叫んで子猫を捕まえ、軽くキスをした。一応、子猫への罰のつもりだ。「ほんとにダイナは、もっとちゃんとお行儀をしつけてくれなくちゃ。あなたのせいね。ダイナ。わかってると思うけど」アリスはいかにも怒ったというふうに親猫を見ながらそう言った。精一杯、不機嫌な声を出している―そしてすぐにまた、子猫を連れ、毛糸を持って肘掛け椅子に戻り、毛糸を巻き始めた。と言っても、そんなにはかどらない。何しろ、ずっと話をしているからだ。ある時には子猫に向かって、またある時は自分に向かって何やら話をしている。キティはアリスの膝にとてもおとなしく座り、毛糸が巻かれるのを見ているふりをし、時々、片手を伸ばしてそっと毛糸玉に触ったりしていた。アリスのお手伝いができたら嬉しいのに、と思っているようでもある。
「明日が何の日か知ってる、キティ?」アリスがそう言い出した。「私と一緒に窓のところまで上がればわかったかもしれないけど―ダイナにきれいにしてもらってる時だったから無理ねえ。男の子たちが、たき火に使う小枝を集めるのを見ていたの―たき火にはすごくたくさんの小枝がいるから。だけどすごく寒くなってきたし、雪まで降ってきたから、みんな帰っちゃった。でも大丈夫。キティ、明日にはたき火を見に行けるよ」そこでアリスは、似合うかなと思って、子猫の首に毛糸を二巻き、三巻きしてみた。でも、それがよくなかった。すぐに子猫は暴れ、毛糸玉は床に落ちて、何メートルも何メートルも転がって、またすっかりほどけてしまった。

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