やがてほのかに白く光る

日曜日なので、映画館にきた。

スモールサイズのコーヒーを買って、指定された席に座り、スクリーンに映る予告編を観る。私はいつも予告編からわりと真剣に観てしまう。目当ての映画に関するヒントが隠れているわけでもないのだけど。

劇場内はひと組のカップルと私と同じくらいの年恰好の男性がひとりいるだけだ。カップルは私から3列前の左端に、男性は私よりかなり後ろに座っている。カップルはときどき頭を寄せあって小さな声で何か囁いている。

酸味が強すぎてあまり好みではないのに何故かいつも買ってしまうコーヒーを少しずつ飲みながら私は見慣れたスクリーンを眺める。 

「余命宣告を受けた名物牧師」
「時間を自由に操る高校生」
「禁煙に失敗した天才外科医」
「祖母に渡しそびれた手紙」 

どれもありがちなテーマだけど、4作品それぞれの主人公を組み合わせたら全てが丸く収まりそうではある。 

映画好きというよりも、日曜日にひとりで映画館にくるという行為そのものを気に入っている。なにも考えずに夕方前に映画館までバスを乗り継ぎ、おもしろそうな映画のチケットをその場で買ってただ観る。映画が終わるともう夜になっている。日曜の夜は気分が塞ぐけれど、余韻が刹那をない混ぜにしてくれる。 

さぁ、映画がいよいよはじまった。
物語はいつも何も見えない場所からはじまる。しばらく淡々と暗闇がつづき、やがてほのかに白く光る。


#詩  #Poem #散文詩

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