頁をめくる
付け焼き刃かもしれないが台詞をひとつだけ用意して、君のもとへ自転車で急ぐ。直接会って話すのは四日ぶりだ。
電線の上のカラスが私を見て「アー」と鳴く。ひとりひとりのカラスに本当に帰る巣があるのだろうか。都会のカラスはハンガーを使って巣を作ると聞いたことがあるが、私はほとんど巣を見たことがない。カラスは毎日色んな場所でたくさん見るのに、どう考えても数が合わないと思う。私は電線の下をくぐる瞬間、空を見た。カラスは私のことを見ていなかった。
用意した台詞を口に出してみる。「◯◯◯◯。」少しだけ笑って、言う。君は気持ち悪がるかもしれない。笑われてしまうかもしれない。でも、これ以外に思い浮かばないのだ、仕方がない。
私はペダルをこぐ。読み終わりそうな本の頁をめくるときのように、ていねいに、大切に、ペダルをこぐ。この瞬間のひとつひとつが物語になるのだ。長編か短編かは、読み終わってからでないと分からない。こまぎれの短編集だと思って読み進めていたら最後に話が繋がる、なんてこともあるかもしれない。
私はペダルをこぐ。君は家に居るだろうか。君の心はどこだろうか。
私は頁をめくる。ペダルをこぐ。
donor -06-/ あゆ
#写真 #詩
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