見出し画像

「ビットコイン480億円盗難事件」について話します【亀っちの部屋 特別編】

「NewsPicks」2024年7月31日掲載

*音声版は「亀っちの部屋ラジオ」でお聞きいただけます。配信先はSpotifyApple PodcastVoicyです。


Q1. 流出の当日、何が起きたんですか?

亀山 お昼ごろだったかな。午後2時か3時くらいだったと思うんだけど、電話が鳴ってね。「480億円相当のビットコインが盗まれました」と。

 声から察するに責任者もひきつっている感じだから、責めても仕方ない。「どういう状況なの」と聞いたら、「原因はよくわかっていません」。

 ただ盗まれたことは間違いなさそうで、警察や金融庁に届けは出したというので、夕方くらいにはマスコミにも知られてしまうだろう、と思った。

 だから、それまでにはDMM Bitcoinとしてリリースを出さないといけない。「それまでに保証できるか決めてほしい」と。

 DMMの看板を背負っている以上、子会社を潰すことはできないじゃない。

 日頃のバランスシートも理解していたから、すぐに用意はできると思ったので、「わかった。補填しよう」と伝えた。

 そして、30分後に「保証します」というリリースを出した。

 コインチェック事件があったじゃない。俺もあの記者会見を見ていたんだけど、多分いろいろな事情があって、記者会見では「今後については検討中です」と言ったんだと思う。

 ただ、その発言を聞いたら、心配になるよね。「どうなるんだ!」と炎上してしまった。

 だから、盗まれたと発表されるのと同時に保証も発表したほうが、ユーザーも安心すると思った。

 せめて信用だけは守っておこうと。

 当日は、カスタマーサポートの対応要員も増やしていたんだけど、意外と問い合わせは少なかった。

──保証を即決できたのは、亀山さんをトップとするDMMの組織構造があったからだと。

 DMMは非上場なので、俺が決裁すれば済む話。オーナー会社の特権ではあるよね。良いところも悪いところもあるけど、今回はそれで済んだ。

 日々の運営はDMM Bitcoinに任せていて、俺は口を出さない。ただ今回は子会社だけでは対応しきれないから決裁した。

 日頃は現場にまかせて、最終責任は俺が持つ。これが逆になると、めちゃくちゃおかしな組織になるからね。

 偉そうなことを言っているけど、ユーザーの皆様には、本当にご迷惑をおかけしています。その中で、自分が少しでもやれることは、完全な保証しかないと思ってます。

Q2. なぜ暗号資産が流出してしまった?

亀山 原因は今現場で究明中で、警察も入っている事件だから、DMM Bitcoinからもまだ言えないんだよ。

 とはいえ、後々解決してから事の顛末を話す時期は来ると思うけど。だからみんな知りたいと思うけど、もう少しお待ち下さい。

 実は、今どこら辺まで解明されているのか、俺も詳細は知らされていないんだ。それこそ、犯人が捕まってないのだから機密情報だしね。

 とはいえ流出事故が起きてしまったのは、やはり運営のどこかに穴があったということ。

 今はDMM Bitcoinに、本社のCTOやCFOを送り込んで体制を整えている最中だね。

 それから一番重要な点は、すでに増資をして、ユーザーの皆さんのビットコインは購入済み。

 実は、ビットコイン価格がちょっと上がったので、購入資金は500億円くらいになっちゃったけど、全て購入しています。

 現金での保証は今でもできるけど、利確したくない方々もいると思うので。

 もう少しお時間をいただくことになってしまうのだけど、ビットコインでの移動や取引もできるようにしますので、本当に申し訳ないのだけれどお待ちいただきたい。

Q3. 流出した「500億円」のインパクトは?

亀山 損失の金額としては一番でかいね。これだけ持っていかれることはなかなかないので。精神的なダメージの面からいうと、5〜6番目くらいだけど。

 大きな損失にはなったけれど、(キャッシュフローでいえば)1〜2年で取り戻せるかなというくらい。

 最近は投資が利益の半分くらいしかできていなかったから、キャッシュがある程度貯まっていて、今回はすぐに出せるお金もあった。

 でも、決算上はこれが特別損失になったから、グループとして初めて赤字になってしまった。今までは手堅くやってきたんだけどね。

 ただ、会社が衰退に向かうという、DVDレンタルみたいな構造的な問題ではない。

 営業利益の段階では常にプラスになっているからね。

 深刻かといわれれば、今回の特損は事故なので、常態的なマイナスではない。新しい分野への投資も全く止めてないよ。未来は悪くないと思うので、絶望感はないかな。

──500億円というお金がなくなってしまったということについては、どういう感情でしたか。

 一番良かったと思ったのは仕事が続けられるということ。個人的にはもともとあんまり資産に対して未練がないから。

 いっぱい残して子どもに継がせたいという思いもないしね。

 もちろん、できるはずだった500億円の投資余力がなくなったのはあるけど、自分のやりたいことができなくなったわけではない。

 経営を続けられるのが一番ありがたいね。それ以外に大して取り柄もないから、失業したらアルバイトでもしないといけなくなるしね。

 だからまあ、そんなものかな。

Q4. ビジネスのリスク、どう考えてますか?

亀山 今回のリスクは、リターンに対してやっぱり大きかったかな。預かり資産自体が大きかったから。

 うちは保証ができたけど、単独でやっているところで起きると、補填できるだけの収益性があるかどうか。そこは悩みどころだよね。

 あの頃はコインチェックもかなり収入が大きかったから保証ができたんじゃないかな。

 でも今は業界自体が収益性が高いわけじゃないから。うちだけじゃなく、悩みどころの多い業界だよね。爆弾を抱えながらビジネスを続けますか、という話になる。

 どんな仕事でもリスクはゼロにはならない。例えば実店舗のビジネスをやっていたら、せいぜいそこにある商品やレジのお金が盗まれるくらい。たかが知れているといえばそうだよね。

 でも資産を預かるビジネスで、しかもそれが暗号資産だと、ある意味「ボタン一つ」で盗むことができちゃうわけ。

 ルパン3世が金庫に入って500億円の現金を盗むとしたら、トラック何台分にもなるけどね。

 新しいテクノロジーに新たな犯罪はつきもの。だから新しいサービスを広めようとすると、新たなリスクが生まれるジレンマがあるよね。

 世の中に悪いやつがいなくなることはないから。AIでもWeb3でも、いろいろな犯罪や法律が変わりながら、ちょっと後退して、また進んでみたいな繰り返しになるんじゃないかな。

──収益性や利便性を多少損ねてでも、暗号資産の取引所はセキュリティなどの守りを固めていくことになるのでしょうか。

 もちろん、それはそうせざるを得ないよね。

 これはテロと同じで、攻撃と防御を比べると、防御のほうがやっぱりきつい。いつ来るかわからないものに備えるわけだから。攻撃側のほうが明らかにローコストなんだよ。

 テロが一度起きたら、飛行機の手荷物検査が厳しくなったりしたじゃない。

 守りの体制をもう一度チェックしたうえで、さらに人員を増やしたりね。このまま運営コストが上がって採算性が取れるか、みたいな議論にはなる。

 ITサービス全体でも、バックアップをどこまで取りますか、サーバーをどこまで分散しますか、IDチェックをどこまで厳しくしますか、みたいな話になる。

 やればやるほどコストはかかるけど、現場がどんな体制でどうしたいかを聞きながら、今後の経営方針を決めることになるかな。

──これまで流出事故があった暗号資産の取引所は、他社に買われたケースも少なくありません。

 そこは俺が判断する前に、担当役員がどう判断するかを聞いてから決めようかなと。

 いくら俺が「まだやろうぜ」と言っても、「もうこりごりです」って言われるかもしれないし、「これからもやりたいです」と言うかもしれない。

 やっぱり責任者の意思がないと、俺も動けないわけよ。俺がお尻を叩いてもしょうがないじゃない。

 だからまず原因究明が終わって、どういう形で続けたいのか、それとも止めたいのか。ある程度落ち着くまでは判断しきれないかなと。

Q5. 社内ではどう説明しましたか?

亀山 2023年に社員持株会を立ち上げたんだけど、ビットコインの流出直後がちょうど第1回の株主総会だったんだよ。

📌DMMグループ持株会制度
グループ会社の役員・正社員がDMMグループの株式を購入できる制度。2023年9月に開始。毎年の純資産額を基に株価を算定する。利益に応じて株価が上がるため、会社で出た利益を社員に還元する狙いがある
【なぜ】非上場のDMMが「持株会」を始めたワケ

 結果的に来期の株価は下がると思う。上がってから下るから、最初に買った人は損していないんだけど、今年買った人は損することになる。

 40年間赤字になったことがないので安心してと言っていたのに、突然の赤字!

 社員には申し訳ないことをした。

 とはいえ、これで社員の給料が下がるわけでもないし、自分の部署で結果を出せば今まで通り給料は上がる。

 事業投資も、進めているM&A案件も今まで通り変わらないので、現場はとくに落ち込んでいないみたい。

 逆に「大変ですね」と慰めてもらってるよ(笑)。

 新卒採用の内定者からは「内定取り消しですか」との問い合わせがあったらしい。

 なので彼らを集めて財務状況を説明して「安心して」と説明したり、取引先にも「支払いは心配ない」とは個別に伝えていた。

 社員や取引先に対しての説明は翌日からやったので、みんな安心してたみたい。

 だけど、外野からは面白がって、なんだかんだと言われるわけじゃない。

 「DMMは潰れるんじゃないか」とか、ホリエモンにもYouTubeで「亀ちゃん480億行ってらっしゃい〜!」とかイジられてる(笑)。

 だから100%ではなくても、ある程度目処はついたので、そろそろ社外にも説明しないといけないかなと思って今日は来た。俺もSNS再開したいしね(笑)。

Q6. 保証は亀山さんが即決。非上場の方がいいですか?

亀山 どうしてもスピードは非上場のほうが早いと思う。

 上場していても権限が集中していれば、今回みたいなときにも即決できるかもしれない。

 ただ、上場、非上場にかかわらず、株主がたくさんいたら、「株価が下がるから勝手に保証するんじゃないよ」と言われるかもしれない。それを無視して決裁できるかという問題はあるよね。

 逆に言うと、今回の俺の判断が正しくなかったとしたら、他の株主が止められたという側面もある。だから、どっちにも良いところと悪いところがあるよね。

 経営者が判断を間違うことはあるから、多くの意見を募ることも大事。それが上場会社におけるガバナンスだよね。暴走を防ぐ、みたいな。

 俺はある意味、今回暴走したわけだよ。独断でやった。結果的に良かった、悪かった、ということは歴史が判断することだと思う。

Q7. 暗号資産の未来をどう考えていますか?

亀山 暗号資産自体は大きい流れで言えば、やっぱり広がっていくと思う。

 事故は日本でも海外でも定期的に起こっているし、今後も起きると思う。そのたびに市場は不安になって、また戻って、ということを繰り返しながら、徐々に盛り上がってきた業界なわけ。

 問題を起こしながらも、それでもやっぱり暗号資産の可能性に惹かれて、投資家たちが未来に賭けているわけよ。

 「Web3」の一般的な普及は、AIほど早くないし、2〜3倍の時間はかかると思うけど、それでも暗号資産の世界観が広がってくるんじゃないかなと思う。

 ビットコイン自体の価値がどんどん上がってきているというより、通貨の価値が落ちているんじゃないかな。

 発行量に限りがあるから、通貨というよりも金のように見られているよね。

 いろいろな暗号資産があるけど、胡散臭いのもたくさんある中で、ビットコインは信用を得た通貨だと思う。

 うちではDMM Bitcoinとは別の子会社で、Web3の事業として、DMM独自のトークンを出そうとしている。

 これは取引所とはまったく別なので、基本的には予定通り進めているよ。

 DMMのトークンは、目先の利益は追わず、トークンの価値を上げていく方針。

 ブロックチェーンゲームとかいろいろな新しいサービスで、こういうことをすればトークンをもらえますよとか、独自のプラットフォームを作ろうとしてる。DMM全体との連携も、後々やれるかと思うね。

──2022年頃にWeb3を一から勉強しようと言っていましたね。

 あの頃よりは業界全体のスピード感は落ちているね。若者が山ほど入ってきて、みんな逃げていって、今AIに行っている。

 そもそも俺は当時バブルだと思っていたのよ。このビジネスは10年掛かりで考えないと成就しない。

【DMM亀山】61歳、ゼロから〇〇を勉強しようと思う

 一旦バブルが弾けてくれたほうが、むしろやりやすい気はするかな。だから今も継続して、ゆっくり学びながらやってるよ。

 Web3だろうが、AIだろうが、将来自分たちを脅かすものにちゃんとリーチしておかないとね。

 イノベーションにはお金をいれるだけじゃなくて、人も育てる必要があるよね。

 DMMのヤドカリ経営としては、新しい次の貝を見つけておかないといけない。10年後に、今のIT企業がどれだけ生き残ってるかわからないんだから。

 最後に、本当に今回はビットコインユーザーの皆様には、多大なるご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。

 被害に遭われた方々からも、励ましのお声をたくさんいただき、本当にありがたく心強かったです。

 引き続き、原因等公開できる情報があり次第、すぐに開示いたします。