「不動産屋の“お買い得”を鵜呑みにするな」 情報に振り回されずに生きるヒントを語る【亀山塾 投資編 4/4】
DMMの社員向けに定期開催される勉強会"亀山塾"。今回は会長・亀山敬司が、「不動産投資」をテーマに家を買うタイミングや損得の見極め方について語りました。
※今回紹介する亀山塾は2016年に開催されました。
家を買うのに最適なタイミングとは
亀山敬司:多くの人は賃貸マンションとかに住んでると思うけど、将来「自分の家を買おう」と思ってる人もいるよね。
消費税が上がる頃になると、たぶん不動産屋さんから「消費税増税が近いので、家を買うなら今ですよ」ってセールスされると思うよ。「2パーセントもお得なんだから、急いだほうがいい」って感じで。
じゃあ、消費税が上がる前に買うのが得だと思う人、手を挙げてみて。上がった後に買ったほうが得だと思う人? まぁ、どっちもどっちなんだよね、これについては。
不動産の価格がどうやって決まるかというと、基本的に需要と供給。これは不動産だけじゃなくて、どんな商品でも価格というのは、買いたい人と売りたい人の数で決まるよね。
消費税前だとみんなが得だと思うから、日頃はお客が10人しか来ない不動産屋に、駆け込みで20人くらい来るわけ。でも、物件がいきなり増えるわけじゃないから、全体の不動産相場が上がるんだよ。
みんなは「この家は3000万円です」って言われても、それが妥当な価格かなんてわからないじゃない。結局、まわりを見て比較して、どちらがお買い得かで決めるしかないよね。だから全体の相場が高くなれば、結果的に高い買い物をすることになる。
増税後だったらモノは少し安くなるけど、消費税の2パーセント以上安くなるかはちょっとわからないんで、結局のところ、神の見えざる手が動いて、どっちもどっちというのが結論。
でも、不動産屋の営業は、消費税が上がる前には「もうすぐ2パーセント上がりますよ。今買うのが一番お得ですよ!」って言うわけよ。
じゃあ上がった後にはどうかって言うと「駆け込み終了で売り手が弱気なんですよ。今買うのが一番得ですよ!」って。やっぱり最後は、「今買うのが一番お得ですよ」になるのよ(笑)。
両方聞けばどっちもどっちと思うけど、自分たちに聞かされるのは、そのときに聞く片方だけ、営業はどっちの言い方もできるわけよ。だから、結論はそんな不動産屋の言葉に惑わされずに「欲しいときに買えばいい」ってことさ(笑)。
「これから土地が上がるのか? 下がるのか?」なんて悩んでる人もいるけど。少子化で下がるか、中国人が買いに来て上がるのかは、プロでさえもよくわかんない。
そんなわからないことを考えてもしょうがないから、土地の価格は変わらない前提で、「そもそも自分が住む家は、借りたほうが得か? 買ったほうが得か?」について考えてみよう。
「持ち家」vs「賃貸」選ぶならどっち?
例えば、毎月10万の家賃を払って借りていた家を、毎月10万の30年ローンを組んで買ったときに、これが得か損か? それじゃ、家賃を払ったほうが得だと思う人、手を挙げてみて? 買ったほうが得だと思う人は? 半々くらいかな? まぁ、無回答が半分くらいいるけど。
新卒が多いだろうから改めて言っておくけど、答えを求められたとき、自信がなくても、とにかく賛成か反対か決断して手を挙げてほしい。これは講義じゃなくて勉強会だからさ。
人生はどのみち、どっかで結論を出さなきゃいけないわけよ。「今ここで決断しろ」ってことがあるわけで、待ってくれないからさ。目一杯頭を働かせて、とりあえず意思を示せ。保留はだめよ。
不動産投資の落とし穴
話が脱線したけど、みんなが不動産投資を考えたとき、不動産屋さんが「今は年利3パーセントで借りられますので、他人に貸したとしても5パーセントで回りますよ」みたいなことを言うことがあるのよ。
「ほうっておいても2パーセントも儲かるんだ」って思うかもしれないけど、これは鵜呑みにしないほうがいい。
というのは、不動産屋さんが言う「利回り」というのは、「表面利回り」といって、表面だけ取り繕った本当の利回りじゃないってこと。
3000万円で買った家を年間150万円の家賃で人に貸したら、年利5パーセントで回りますよってことなんだけど、30年後もそのマンションは3000万円の価値があるってことが前提で計算されている。
「30年後の価値はわからないもので」っていうのが理由らしいけど、それはちょっとずるいよね。
土地は上がるか下がるかわからなくても、建物の価値は間違いなく下がっていくじゃない。30年も経ったら建物は古くなってボロボロだからね。評価0になるわけよ
君たちのお父さんが「わしが昔に買った家は、買ったときと同じ値段で売れた」とか言ってない? でもそれは、お父さんが30年前に買った3000万円の家の、土地が1000万円で建物が2000万円だったのが、土地が値上がりで3000万円になって、建物が0円評価で、結果、同じ3000万円で売れただけなんだからね。
もしかしたら土地が3200万円に上がって、建物の取り壊し費用がマイナス200万円かもしれないけどね。
どっちにしても、昔みたいに土地が上がったり、物価が上がったりしてた時代だから同じ価格だったので、お父さんの成功体験は、今はぜんぜん参考にならないからね。アフリカとかならともかく、今の日本じゃそんなこと有り得ないから。
知っておきたい住宅ローンのリスク
実際、買った家を誰かに貸したとしようか。月8万円のローンを組んで、月10万円で貸したとすると、しばらくは2万円儲かるかもしれないけど、何年も経ったら古くなって5万円でも貸せないかもしれない。
でも考え方としては「ず〜っと10万円で貸せる」ってことになってるわけよ。それで儲かるって言われても、やっぱりちょっとおかしいわけ。
頭金を入れたり、買うときにかかった手数料とかも足すと、さらに利回りは悪くなるし、借り手が付かずに家賃0円になるリスクもあるよね。
「いや僕は投資でなく、自分たちが住むために買うんですよ。毎月同じ10万円を払うなら、家賃よりもローンのほうが、家が残るだけ得でしょ」と言う人もいるけど、これもよく考えてみて欲しい。
新築の家でも20年も経てば、かなりボロボロになってるわけよ。その頃10万円のローンがなければ、10万円で新築を借りて移り住めるかもしれない。「自分の古い家」より「他人の新しい家」のほうが快適生活かもしれないじゃない?
ただね、人には所有欲とかがあるわけよ。これは自分の家だから愛着がわくとか、改装できるから楽しいとか、または「生きた証だ」とかね。
数字の損得だけじゃなく、気持ちの損得、思い出の価値みたいな、そういったこともある。だからそれを含めて考えればいいし、買うってことを否定してるわけじゃない。
もちろん実質の利回りでも得な物件もあると思うよ。全部が損ってわけじゃないし。ただしっかりと計算して、税金や諸経費も考慮して、ちゃんと確認してから決めたほうがいいってことだね。
結局、世の中にはいろんな計算方法があるんだけど、それはやっぱり、いろんな人たちが物を売りたいとか、そういった中でのポジショントークがあるわけよ。
ずるいかもしれないけど嘘でもない。ただ、ちょっと説明不足。リスクについて理解しないまま「なんでこれ、元金割ってるんだ!」みたいなトラブルもいっぱいあるってこと。
情報の精度は「利害関係」によって変わる
今日はいろいろ話したけども、俺も自分の知識でザックリ言ってるだけだし、もしかしたら勘違いしているところもあるかもしれない。
「亀山さんわかってないですね」とか「株や不動産はこうやったら儲かります」とか、違う意見を言う人もいると思うのね。実際俺も専門家ってわけじゃないからね。
じゃあみんなはこれから先、いろんな情報があふれている中で、なにを指針に、どの情報を信じて生きていけばいいかという話になるんだけど。
1つの目安として、2つの相反する情報があったときに、どっちを信じるかというと、利害関係のない人の情報のほうが精度は高いと思ったほうがいいよ。
人が情報を発信するとき、少なくともその情報には思惑があるよね。マルチの人たちも不動産屋さんも自分たちが稼ぎやすい情報を出すじゃない。俺なんかもビジネスで売りたいものがあれば、売りやすい情報をバンバン出すよ。
でも今回の話については、俺に利害関係があるのかと言うと、とくにないわけよ。ウチの社員に損してほしくないというか、ちょっといい顔したいってだけのもんで、みんなが株を買おうが、マルチにはまろうが、俺は別に得も損もないからさ。
つまり、これからいろんな人の話を聞くときに、その情報には、別のフィルターがかかってるかどうかというのを考えたほうがいい。
営業マンの思惑があるか、友人が君のことを思っての情報か、もしかしたらその友人が誰かに騙されてないか、そもそも情報の根元はどこなのか、そこは気をつけたほうがいいと思う。
結局人は「好きか嫌いか」で判断する
もう1つ付け加えるなら、これから先、自分たちが信用されるか好かれるかで、受け取れる情報の質が変わるってことも知っておいたほうがいいね。
例えば、君の友人にAさんとBさんがいて、AさんがBさんに君の悪口を言ったとしようか。そのときBは考えるのよ。「Aさんがあなたの悪口言ってたよ」って君に伝えようかどうしようかと。Aより君のことが好きだったら言うし、嫌いだったら、それは言わないよね。
そして、さらにAが君のことを「口の硬いやつだ」と信用したときに、初めて君はAから情報を受け取れるんだよ。つまり、正しい情報は口の硬い、いいやつにしか届かないってこと。
たまに「仕事ができれば、人に好かれなくていい。それで損をしたこともないです」とか言う人もいるんだけど、「好かれたことで得をした」ってことがないから、自分の知らないところで損をしてても、知らないだけかもしれないよ。
前に経済ニュースにもなった大きな出来事があって、メディアではいろんな憶測が飛び交ったんだけど、本人に「なんであんなことしたの?」って聞いたら、「あいつが嫌いだったからです」って(笑)。
聞いてみると、案外そういうもんなんだよ。いろんな複雑な事情があったとしても、結局人は、最後の最後は、好きか嫌いかで決めちゃうんだよ。
また別の人で「我々が扱うのは何億規模のM&Aなので、好き嫌いで決める人はいませんよ」って人もいたけど、意外とそれがそうでもなくて。
例えば100億くらいの価値のあるものをAさんが売りに出すとするじゃない。入札になって親友のBさんが90億、よく知らないCさんが95億の価格を付けたとしたら、5億も高いんだから当然AはCに売るよね。さすがに好き嫌いで5億の損は出せないよね。
でも、AはBに言うんだよね。「実はさ、向こうが95億なんだけど、同じ額でよかったら、どうせ売るなら君に売りたいんだ」と。
Bは95億で買っても儲かると判断したら「わかったよ。君がそう言うんだったら、それで買うよ」ってならない?
そしたら、Cはせっかくいい価格を付けたとしても、当て馬にされちゃうわけよ。世の中には、入札とかあるかもしれないけど、好きか嫌いかで裏返っちゃうこともあるってこと。「実はさ……」っていう情報でね。
仕事ができる・できないという以前に、好きか嫌いかが意外と世の中を決めてるということだね。
だから、これからいろいろと仕事をやってくとき、交渉とかやってくときに、君たちは下手な駆け引きより、誠実な対応をした方が得。
君たちの青臭いテクニックなんて、取引相手に見透かされてるから。俺みたいな食えないジジイからすれば、小賢しいだけの小僧にしか見えないからね。
え〜と。結局今日は何が言いたかったかと言うと、楽を考えないで、人を騙さないで、好かれながら、自分で考えて、自分に投資して、自分の力で稼ごうよって話。
そして長い目で見れば、悪いやつは勝手に自滅して、誠実なやつも、これまた勝手に誰かが支えてくれるよってこと……これは本当だよ(笑)。
はい、そういうことで。じゃあおしまい。かいさ〜ん!
(会場拍手)