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薄味が好き

東日本は味付けが濃く、西日本は薄いとされている。名古屋は果てしなく味噌くさいので関ヶ原あたりが味の分目なのだろうか。同じ商品であっても、東西で即席麺の味付けが変えて売られているのは、東京新大阪を2時間半で行き来するこの時代になっても近くて遠いを感じざるを得ない。下手をすると西日本の中でも東京より行きにくい場所などいくらでもあるのだから不思議なことで、あえてそういう違いを作り出して楽しんでいたり、消費を促しているように見えてならない。カールが首都圏で売られていないのは流通の関係なのだろうが、立ち食いそば屋のうどんのつゆなんかはどう考えても西の方が美味い。それぞれの店で拵えているのだから流通もへったくれもない。あんなに色濃いものをそばならまだしもうどんにぶっかけて出すのは、商品開発者の味蕾に問題があると問いかけざるを得ない。

冗談はさておき、近畿二府四県で18年間育ってきた身としては外食に出かけたときに違和感となるものがいくつかある。まず理解できなかったのは鯖の塩焼きに添えてある大根おろしにかけるものとして醤油が添えてあることだ。そもそも、そこそこの塩辛さがある焼き魚になぜまた塩味の強い醤油をかける発想になるのだろうか。大根おろしだけで良い。鯖の塩味をマイルドにし、かつほどほどの辛さで食欲を増進させる。それでいいじゃないか。それだけでいいじゃないか。

定食屋にいくとたいがい味噌汁が出てくるが、東京でいい感じの個人経営の店に入るとナチュラルに赤だしが出てくる。合わせの味噌汁が普通なので違和感は間違いなくある。ただ嫌いではなくむしろこれはこれで好きなのと、そういう定食屋は大抵おかわり自由なので、必ずと言っていいほどおかわりしている。違和感もときには物珍しさに変わり食欲を増進させるのは確かだろう。

すき焼きについても関東での作法を知らず恥をかいたことがある。家庭で何か良いことがあったときに出食べるものの筆頭格がすき焼きだったこともあり、すき焼きについては並々ならぬ執念と食い意地を張っている自負があるが、当時の私はあまりにも世間知らずだった。私の知っているすき焼きはまず肉を焼くところから始まる。脂をしいて、牛肉を炒め、砂糖と醤油と酒を1:1:1でぶっかけて、好みの味になるように調味し、白菜やネギなど汁気を出す野菜を加える。味が薄いなと思えば砂糖と醤油と酒を適宜アドリブで足していくので毎度毎度全く同じ味にはならない。ただ味付けする人の好みはさほど変わらないので大体いつも慣れ親しんだ味になる。ところが関東では割下を用意してまるで鍋でもやるように進めていく。そのときは卓上に醤油も砂糖も酒もなかったので「すき焼き始めようか」と言われて固まってしまった。とにかくすき焼きが食べたいと言って催した会だったので、私の様子を見た周囲も固まっていたと思う。

少なくともすき焼きは関西風がいいし、首都圏の立ち食いそば屋でうどんを頼むようなことはしないけれど、鯖の塩焼きには醤油をかけなければいいわけだし、赤だしは積極的におかわりしたい。いろんなものを知りながら自分が何を好むのか探していきたい。

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