2023年ADCC北米西海岸予選男子66kgの感想とDorian Olivarezはなぜあれほど強いのかとグラップリングの未来について

みなさんこんばんは、まごっとです。
ADCC北米西海岸予選、楽しかったですね!!
やたら長く壮大なタイトルをつけましたが、今回のADCC北米西海岸予選からいろいろズルズルと考えたことがあるので、存分に語っていきたいと思います。

1.2023年ADCC北米西海岸予選男子66kgの感想

今回の66kgは結構有名選手が揃っていて
ADCC本戦レベルのEthan CrelinstenやKeith Krikorianを始め
ECIで優勝したCameron Mellott、EBIの優勝経験者Jon Calestine、他にはGianni Grippoなどなど、強い選手がたくさんいました。
個人的にはKeith Krikorianが優勝してほしかったですが、希望と現実的予想はまた別です。
私がずっと注目していた選手は、先日のCJJで優勝したDorian Olivarezです。
私は以前こんなポスト(今はnot ツイート)をしていました。

これは高橋“SUBMISSION”雄己選手とのやり取りの一部で
「Dorian Olivarezはグラップリングで超強いのでは」と思っていて、それまでCJJ優勝以外目立った戦績はなかったものの、今回ADCC予選で勝って私のDorian Olivarez幻想は現実であった、と言えるでしょう。
Dorian Olivarezの試合はどれもDorian Olivarezらしかったですが、特にB-Team同門のEthan Crelinstenとの試合は、Ethan Crelinstenが引き込んでマイナスポイントを負ってしまって負けるという形も含め、一種の世代交代を感じさせる試合内容でした。
前述の通りトップ中のトップの選手が揃った大会でDorian Olivarezはこういう結果を残したので、超絶控えめに正確に言っても、少なくとも大会参加者の中でDorian Olivarezは他の選手誰も極められない、一番強いやつだった、ということになります。
やってみないとわからないのもありますが、今回の結果を含めて個人的な予想としては、Mikey MusumeciがDorian Olivarez極める、というのはないのではと思っています。
もしもMikey MusumeciがDorian Olivarezを極めたら、今回の66kg選手全員より一つ上の次元の極め力をMikey Musumeciが持ってるということになり、それはないと私は考えています。
おそらく、Mikey Musumeciが下を取って今回のようにエンドレストップゲームをDorian Olivarezが仕掛けて、いつかパスするか、もしくはそのままレフリー判定でDorian Olivarezが勝つと現在も私は予想します。
今回のADCC予選以前に私が抱いたDorian Olivarez幻想というのも、ある程度理論的な裏付けがあり、その予想理論通りに優勝したので「やっぱり」というのがまた感想でした。

2.なぜDorian Olivarezはあれほど強いのか?

では、なぜあれほどDorian Olivarezは強いのか?
いくつかポイントがあり、それが現在のグラップリングのルールに完全適合しており、それはつまりメタにも完全適合しているからだと思います。
そのポイントとしては

①極められない力が高い
当たり前ですが極められたら負けなので、極められない力は大前提です。
これがあるが故に誰にも極められず試合時間を「少なくとも」完走することができます。
タップ負けは絶対回避できますから、あり得る結末は「タップ勝ち」「ポイント勝ち・負け」「レフリー判定勝ち・負け」だけに絞られます。

②スタミナがある
スタミナが尽きると、極められる可能性とポイントを取られる可能性がぐっと高まります。
Ethan Crelinstenが引き込みでマイナスポイントを負ってしまったのも、スタミナの関係もあるでしょう。

③レスリングが強い
ADCCルールだと後半のテイクダウンが超絶重要になってくるので、前述の2つのポイントは当然として、結局物言うのがレスリング力になってきます。
引き込みでマイナスポイントもあるので、ずっと立ち続ける力というのが大事、それはレスリング力でもあります。
Dorian Olivarezはゴリゴリのレスリング経験があるので、これが物を言っています。

④トップゲームが強い
トップゲームが強いというのは「スイープされない力」と「エンドレスでトップをキープできる力」と「エンドレスでパスを仕掛ける力」に分解できると思います。
この3つはお互い被っていたりもするでしょう。
これができると、ポイントを取られないまま最後の最後のレフリー判定で勝つことができます。

これら4つの要素を完全に持っているのがDorian Olivarezであり、これが完全にADCCルールを勝つためにピッタリと適合しています。
他のルール、CJJやEBIやPolarisだと完全一致ではありませんが、ほぼ一致していると考えて良いでしょう。
私は以前からADCCルールに勝ちやすい選手とは何かとぼやぼや考えていたため、その延長線上で予想するにDorian Olivarezはドンピシャだなと思っていました。
このメタに適合する選手というのは以前からもいて、特にレスリング出身の選手、PJ BarchやNick Rodなどですが、Dorian Olivarezは今回完全な完成形を見せた、と言えるでしょう。
逆に言うと、レスリング出身の選手はこのメタに適合する素質を持っていて、レスリングやっている人がいたら、ぜひグラップリング始めてみてください!!!
ちなみに、最近ゴリゴリレスリング出身の選手と練習したことがあって、その方はまだグラップリングは初めてちょっとだったのですが、それでも「うわー、これ試合になったらどうやって勝てば良いんだー」と自分は思ってしまいました。
ということで、これらの4つの要素を持つというのがADCCルールにおける勝つためのメタであり、このメタがひっくり返されるためにはまた新しい概念や技術が投入されてパラダイムシフトが起こる必要がありますが、私はそれとは何かが現在思いついていません。

3.グラップリングの未来について

さて、話はさらに壮大になります。
このままDorian OlivarezはADCCの覇者として君臨するのか?
前述の4つのポイントでDorian Olivarezに総合的に上回る選手が現れない限り、覇者でありつづけるでしょう。

私が現在上回るのがありえると思うのは、二人。
前年のADCC男子66kg覇者のDiogo ReisとCole Abateではないかと思います。
この二人との試合、特にDiogo Reisとの試合が実現したら超絶激しい歴史に残る試合になるのではないかと思います。

また、ちょっと違う面から考えてみましょう。
メタの変化は起こりうるのか?
私はこれにて少なくともADCCルールのメタは一種の完成を遂げたと考えています。

しかし、あり得るのがルールからの変化。
ここで参考になるのが2つあり、1つは柔道のルールの変化です。
15年ほど前、柔道で足を掴むのは許可されていました。
実際にトップの世界においても、海外の選手を中心に足を掴みに行く戦法、具体的には双手刈りなどの言ってしまえばレスリングのような戦法が強かった時代がありました。
伝統的な日本の柔道では邪道とされており、当時の日本のトップ柔道の間でも「足を掴みに行くのは邪道!日本の柔道は両手で組み、そして投げて一本を取る!」という思考が主流だったと思います。
が、日本の選手はその戦法に負けていました。
当時(一応)柔道家だった私は総合格闘技などを見まくっており、この戦法の有効性を独自に見出して日本柔道の空気を読まずに試合でバリバリやっていました。笑
しかし、その後何が起こったかというと、柔道のルールの改正です。
どういう力が働いたかわかりませんが、「いきなり足を掴みに行くのは反則」というルールが追加され、現在もそうなっています。
そこで私はもう柔道はやっていなかったものの、「あ~、柔道は倒すという格闘技の側面においてレスリングに屈したんだ」と思いました。
(以上の経緯は私の記憶のみで書いておりたぶん合っていると思いますが、詳しい方がいたらぜひ訂正してください・・・!)
というように、ADCCにおいてもルールの改正の可能性はゼロではないでしょう。
が、IBJJFの傾向などを見るに、グラップリング・柔術界は自由を尊ぶ傾向があるので、「レスリング強いやつが勝っちゃうからルール変えちゃうもんね!」という力は働きづらいのでは、と個人的に予想します。

もう1つありえるのは、レフリー判定の傾向の変化です。
これはMMAで顕著で、以前のMMAは「とりあえずテイクダウンして上取ってたら判定勝ち」という傾向が強かったですが
現在は「上だろうが下だろうが、ダメージをちゃんと与えた者が優位」という傾向が非常に強いです。
そのため、ADCCでも「上だろうがパスがんばろうが、結果が伴ってなければノーカン。ニアパス・ニアスイープを厳しくカウントしていく。」とかになれば変わっていくでしょう。
Dorian Olivarezもちょっとヒヤッとしたシーンがなきにしもあらずなので、こういうレフリー判定の傾向が変わってくるとそれに巻き込まれる可能性は大です。
その他に、純粋に前述の4つのポイント、特に極めとスイープに関してとんでもない技術革新が起こればまた違った様相を呈していくと思いますが、そういったことが起こる確率は低いと思っています。
ちなみに、Gordon Ryanがなぜあれほど強いかというと①の極められない力は当然のこと④のトップゲーム、さらには相手をパスして極めまで持っていくじわじわ力がとてつもなく強くて、Gordon Ryanの階級でGordon Ryan以上にトップゲームにこだわれる選手がいたら負けると思いますが今のところいないでしょう。
見てて思ったのが、軽い66kgとGordon Ryanなどの99+kgだと人間の動きがまた別になってくるなあと思いました。
一度99+kgの身体になってみたいです。他の階級の感想はまた別で書きます!

ということでいかがだったでしょうか?
ADCC本戦でもDorian Olivarezは超絶注目でしょう。
皆さんも今回のADCC予選に関する感想や、本noteを見ての感想などあればお気軽にコメントやXでリプライをいただけると嬉しいです!

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