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ハードシングス後日談 逆境を乗り越え最短でPMFを目指すプロダクトマネジメント

こんにちは、HiCustomer鈴木です。イメージする成長を実現できないまま少しずつ噛み合わなくなった組織が一気に瓦解し、訪れたハードシングス。それを乗り越える過程を記したnoteを出して半年ほど経過しました。そしてこの度、創業以来3度目の資金調達を実施することができ、迫りくる死の回避ではなく、高みを目指すスタートアップとしての挑戦を再開しています。

結果的に新たな株主をお迎えできたことを心強く思っていますが、新プロダクトのリリース直後で数値が揃わない中、急速に悪化する資金調達環境を眼前にハラハラしながら渦中を過ごしていました。資金が尽きるまで残りわずかの中で自分たちの可能性を示すには、プロダクトを確実に成長させる一択。2打席目である今回は、これまでの失敗から得た学びを活かし新プロダクトの開発を推し進めてきました。前回のnoteは有り難いことに多くの方に読まれ、似た苦境の只中にいる起業家からも多くのメッセージを頂きました。今回のnoteでも、ハードシングス後日談として、挑戦を続ける起業家や創業初期のSaaS関係者、エコシステムへの貢献と今後一緒に働く仲間に届くことをモチベーションとして書いています。(以下常体で書きます)

マイナスからの再スタート

壊れた組織をもう一度組み上げ、モメンタムを取り戻すことができた2022年初頭。雪辱を誓う新プロダクトの開発も順調に進んでいたが、銀行の残高は刻々と目減りしていた。現体制を維持するには新たな資金が必要あり、当時のP/Lでは当然のように借り入れは全滅。株式による調達以外ほぼ選択肢がない状態だった。これまでの資金調達の結果、シードとは言えない時価総額になった一方、手元には瓦解の記憶が新しいコンパクトなチーム、リリースを待つ開発中プロダクトという限られた手札。さらに、資金調達環境は日を追うごとに悪化していた。

カスタマーサクセスは「契約後」ではない

「カスタマーサクセス」は日本でもかなり定着してきたが、輸入されバズワードとして広がった結果、使われる文脈によってその意味が変わる言葉になった。総じて契約後の顧客に対する活動を指すことが多いけれど、その言葉の解釈は自分の中でも年々変化している。
自社と顧客の間で期待値や提供できる価値に開きがあったり、成果創出に至る摩擦が大きいほど契約後工程を担う「カスタマーサクセス」の役割は重要である。しかし、言い換えると介在価値が大きいほど売り手にとっては機会損失リスクと顧客維持コストが大きくなり、買い手にとっては必要となる努力量が大きくなる可能性が高い。
経営のレベルにおけるカスタマーサクセスとは「資本効率と持続的な成長を目的に顧客の成果を起点としたリソースの配分指針」と個人的に整理している。これが意味するところは「『契約後』の顧客に対するコミュニケーション」に限ったものではない。自社製品で成果を出せる顧客へ正しく情報を届けるターゲティングとマーケティングから始まり、認識齟齬のない意思決定を支援する購買体験のデザイン、契約直後の成功体験創出までを一本の線で繋げることができれば、その後の工程に関する売り手・買い手双方の労力を低く抑えることができる。
これが新プロダクトArch(アーチ)の大きなテーマであり、資金が尽きるまであと数ヶ月の中でこの実現可能性を確かなものにしなければならない。

地形を把握する

限られた期間内に成果を出すには、手持ちのリソースを一点に集中するのが王道だ。注目すべきは顧客の強い課題であり、最も重要なのは「誰の課題から解くか」を決めることである。今後の成長や資金調達のことを考えると、「市場」に目を向けてしまいがちだが、一言で市場と言ってもそこに属する企業は多様だ。同じ業種だとしても、取り扱う製品、規模、創業からの年数、利用している周辺システムや買い手の部門、評価基準、文化、風土等々それぞれの企業の色が存在している。
その中から「誰の課題から解くか」を決めるために、大量のインタビュー結果から同じ特徴を持つ顧客セグメントを可能な限り細かく切り刻んで定義し、抱える課題の強さと要求される技術的水準のバランスが合うところにリソースを集中、顧客の熱量を引き出す。極論、「市場」をN=1まで絞り込めば、PMF(Product Market Fit)は早期に達成できるのだ。攻略する顧客セグメントの連続性がイメージできていれば対象を絞る恐怖は消えていく。

旗を立てる

提供価値の手触り感を得ることができたら、プロダクトビジョンの制定に移った。これから先、多くの要望と作りたい機能が乱立したときに、やる/やらないや優先順位の判断の連続となるため、その礎となるものは早めに立てておこうと決めた。
今や未来の顧客が求めるものは何か、社会は向かう方向はどこか、自分たちが引き起こしたい変化はどのようなものか。作り手として腹に落ち、顧客から共感を得やすく、覚えやすいシンプルなキーワードを2年程度の耐用をイメージして「売り手と買い手の成果をエフォートレスに」と設定した。

局地戦をデザインする

プロダクトを公開してからは、販売実績のある顧客セグメントごとに受注率を可視化し、機能追加によって改善が認められたら次いで顧客の成果や使い勝手に繋がるカイゼンを行う「深化」のアプローチと、次に狙う顧客セグメントを見つけ当てバリュープロポジションを精緻にする「探索」のアプローチを交互に行うことで実績を積み重ねていった。収益を担う組織と開発部門の足並みが揃わないと無駄が大きくなるため、顧客セグメント別の実績や発見は週次で全社レビューを行い、今何に集中しているのか目線を合わせていく。大半の顧客とはSlack Connectで繋がせてもらっており、新機能リリースの際には各社のオリジナルのスタンプを押してくれたり、特に気に入って貰えると喜びのコメントも頂けた。こうした反応がチームにモチベーションとリズムをもたらし、開発の精度も高めることに繋がった。このあたりで投資家による顧客インタビューが入ったのだが、活用による成果、継続利用の意思に加えプロダクトへの愛着、応援を表明して頂くことができ、今回の調達に良い影響を及ぼすことができた。加えて結果的に前回出したハードシングスnoteの甲斐もあり、失敗を持ち直す経験から次こそ成功するでしょうと評価をしてもらえたような気もしている。

新たな地平へ

スタートアップは脆い。軽くて小さい存在なのに大きなものに立ち向かうため、喜びよりも困難の方が多い。狙った企業に刺さらない、作った機能が使われない、リスク/リターンが釣り合わないと人は抜けるし、刻々とお金は少なくなるし、投資家から検討結果は帰ってこないし、顧客に「あの会社はやばいらしい」と吹聴する同業も出現するし、とにかく窮状を狙って悪いニュースは畳み掛ける。気分を変えようと遠出しても、今を忘れようと酒を飲んでも、問題は消えない。時間は何も解決しない。最悪な明日は当然のようにやってくる。
銀の弾丸はない。だからこそ、日々を積み重ねるしかない。不可能を大きな壁の数々に分解して、細かく砕いて解決すべき課題に、今日取り組むべき仕事に落とし込む。トライと学習のサイクルを早くし、小さな成功を祝いリズムを生み出す。少し上を向くことができるようになったら、次の大きな成果に向けて仕掛けをしていく。基本、この繰り返しで自分たちにしか作れない資産を積み重ねていく。
会社として大きなマイルストーンを達成できたわけではない。ただ、次のステージに挑戦する機会を得ることはできた。バカみたいな話だが、元気があれば何でもできるのだ。今日も明るく楽しく、自分たちが信じることに、顧客に多くの価値を提供できることに向かってキーを打ち続ける。

最後にお知らせ

一時期はストップしていた採用も再開しており、以下役割の作り手/売り手を探しています。採用文脈で情報発信を行うイベントも予定しているので、少しでもご興味があればぜひご参加ください。DMもお待ちしております。

プロダクトマネージャー

このnoteでは僕たちの開発の進め方を紹介しましたが、実は経験あるプロダクトマネージャーが在籍しておらず、大いに伸びしろを感じています。狙うの顧客セグメントのバリュープロポジションを精緻にし、エンジニアやデザイナーと共同で機能開発と仮説検証を牽引して頂きます。

UXデザイナー

Arch(アーチ)は僕たちにとっての顧客である「売り手」と売り手が提供するサービスを購入/活用する「買い手」双方に価値を提供するプロダクトです。活用できる業種が広がりつつある中で、プロダクトビジョンの実現に向け多様な関係者の体験設計をお任せしたいと考えています。

BizDev兼営業

新顧客セグメントの探索と既存顧客セグメントへの提案活動の双方をお任せします。ISからトスアップされた商談に臨んで頂きつつ、初期は契約後顧客へのフォローアップお任せしながら顧客の解像度を高めていって欲しいと考えています。


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