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人生の物語。誰もが持つドラマ。その5。

サム・バンクマン・フリードの失敗から学ぶ。宗教と孤独の影響。第一話。

 これまで、さまざまな人生の成功や挑戦を通じて自己啓発のヒントをお届けしてきましたが、今回は失敗に焦点を当てたいと思います。

 成功者のストーリーは多くありますが、失敗者から学ぶことも、人生において大きな価値があります。

 特に今回は、仮想通貨取引所FTXの創設者であるサム・バンクマン・フリード(Sam Bankman-Fried)が直面した失敗について考えてみましょう。

 彼の物語を理解する上で、マイケル・ルイス著『1兆円を盗んだ男 仮想通貨帝国FTXの崩壊』は重要な参考資料です。この本では、彼の成功とともに、彼がどのようにして道を踏み外し、最後には壮大な崩壊へと向かっていったのかが描かれています。

幼少期の特質と宗教的背景


 サム・バンクマン・フリードは、カリフォルニアで知識人の両親のもとに生まれ育ちました。両親はスタンフォード大学の名誉ある法学教授であり、彼は知的で恵まれた環境の中で育ちました。

 しかし、この環境は彼にとって必ずしも幸福をもたらすものではありませんでした。幼少期から彼は孤独感に苛まれ、他の子供たちとの交流や、一般的な子供時代の喜びに距離を置くようになりました。

 サムの家族はユダヤ人の背景を持っていましたが、宗教に対しては熱心ではなく、彼の家庭ではユダヤ教の習慣や信仰が軽視されていました。

 たとえば、ユダヤ教の重要な祭りであるハヌカ(注1)ですら祝うことを忘れることもありました。このような家庭環境は、サムの神に対する理解や信仰に大きな影響を与えました。

 バンク・フリード家は祝日に関心がなかった。ハヌカは祝っていたが、とても熱心とはいえず、ある年にはそれを忘れてしまった。しかも誰もそのことを気にしていないとわかったので、お祝いそのものをやめてしまった。『さて、みんなハヌカを忘れてしまったけれど、それが気になった人はいる?』と言う質問に、誰も手を挙げなかったよ」(マイケル・ルイス著『1兆円を盗んだ男 仮想通貨帝国FTXの崩壊』43頁)

 (注1)ハヌカ(Hanukkah)は、ユダヤ教の重要な祭りの一つで、「光の祭り」とも呼ばれます。ハヌカは、紀元前2世紀にユダヤ人がシリア・ギリシア軍との戦いに勝利し、奪われていたエルサレム神殿を取り戻したことを記念しています。

 この時、神殿にあった「メノーラ」と呼ばれる燭台に火を灯すための油が1日分しか残っていませんでしたが、その油が奇跡的に8日間燃え続けたという伝承があります。

 ハヌカは、この奇跡を祝う8日間のお祭りで、毎晩1本ずつ燭台に火を灯していきます。祭りの期間中、人々は祈りを捧げたり、特別な食べ物を食べたり、子供たちは遊びや贈り物を楽しんだりします。


神の存在を否定するようになった理由

 幼い頃、サムは周囲の子供たちが信じていたサンタクロースの存在に懐疑的であり、それは神の存在についても同様でした。

 彼にとって、神や信仰の概念は、フィクションのようなものに過ぎませんでした。家庭の中で宗教が軽視されていたため、彼は宗教的な価値観や神の存在に対して疑問を抱くようになり、それが次第に神の存在自体を否定する態度へと変わっていきました。

 彼の人生において、神という存在は信じるべきものではなく、むしろ不確かなものとして遠ざけられていました。

 ある時、サムは毎週日曜日に両親が主催する家庭での食事会で、宗教について学識者たちに質問を投げかけました。しかし、誰も彼に納得のいく答えを提供できませんでした。

 「『神様を信じてる?』と尋ねると、彼らは言葉を濁したよ。たとえば、(神の代わりに(筆者加筆))宇宙を創造した存在について何か語るとかね。僕はふざけるなって思った。これは二者択一の問題だ、イエスかノーで答えてよ、って」(マイケル・ルイス著『1兆円を盗んだ男 仮想通貨帝国FTXの崩壊』46頁)

 このことがきっかけで、サムはさらに神の存在に対して懐疑的になり、信仰についての答えが見つからない状態が続きました。その結果、彼の心の中には不安と孤独感が次第に深まっていったのです。


孤独と集団の中での孤立

 サム・バンクマン・フリードが幼少期に感じていた孤独は、彼の人生全体に影響を与えました。両親は知的な人物であり、サム自身も幼い頃から学者である母親の論文を査読者顔負けの論理で批評する等、他者とは異なる鋭い知的感覚を持っていました。

 しかし、彼の才能は精神的な支えや価値観と結びつくことがなく、それが原因で他の子供たちから孤立してしまいました。彼自身もどこかで「自分は普通ではない」と感じ続けていたのです。

 この孤立感は、後に彼が仮想通貨ビジネスで成功する上でも影響を与えました。彼は他人を信じることに慎重で、他者の意見に頼らず、独自の判断や決断を重視する傾向がありました。

 彼はただ、世界が何かについて完全に間違っていて、自分が完全に正しい場合があるという事実を受け入れるようになった。(マイケル・ルイス著『1兆円を盗んだ男 仮想通貨帝国FTXの崩壊』46頁))

 周囲からのアドバイスや忠告に配慮せず、人の気持ちを読むことが苦手だった彼の生き方が、成功を一時的なものに留め、最終的な失敗へと導いたのです。

失敗から学ぶ教訓

 サム・バンクマン・フリードの失敗は、ただのビジネス上の失敗にとどまらず、彼の人生全体に通じる内面的な疎外感と信仰の欠如が影響していたと言えるでしょう。

 彼が宗教的な価値観を受け入れず、神の存在を否定していたことが、彼の精神的な孤立を強め、結果として人生のバランスを失わせたのです。

第二話へと続く。。。

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