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【感想】ラストレター - 想いが人を生かしてくれる

映像美

ラストレターを観た。岩井俊二さんの映画は映像だけでぐっと違う世界に連れ去られてしまう病的な魅力があって公開が決まったときから絶対に観ると決めていた。

結論から言うと今回の作品では岩井俊二さんの他の作品にあるような病的な映像の魅力はなかったように思う。が、変態性こそないものの紡がれる映像はいずれも確かに美しかった。主張しない洗練された美しさだ。

学生の頃抱いた思い

この映画を観ながら高校時代よりも小学時代や中学時代を思い出していた。高校時代は社会への繋がりが現実味をおびてくるが、この作品の中で描かれる高校の空気感はもっとピュアで、僕にとっては中学時代が近い感覚がした。

卒業式でのスピーチの内容が特に胸に刺さる。まだ何者でもないという不安と、何者になりたいかもわからないとまどい。だけれど漠然と未来は明るいと感じていて、希望を抱いていた。

中学時代を卒業する頃に自分自身が思い描いていたことを思い出した。僕が中学の卒業式のスピーチで話した内容やそこに込めた思いは今でもお守りのように自分の中に残っている。

みんなと離れ離れになるけれど、みんなが社会に出て、色んな仕事について、誰かのした仕事がなんらかの形で自分に届いたり、自分のした仕事が誰かに届いたりしたら嬉しい。そんな未来を生きていけることが楽しみで嬉しい。

無条件に未来は明るいと信じていた。みんながもっと幸せになれると思っていた。そのために何かができたら嬉しいと思っていた。

現実はなかなか厳しい。辛い話だって耳に入ってくる。それでもやっぱり確かにみんな頑張って生きている。その事実だけでも十分嬉しいと思う。自分も頑張らなくては、と思わせてくれる。

過去の自分を内包して生きること

学生時代とは苦痛だろうか?宝物だろうか?学生時代をよく思わない人もたくさんいると思う。僕にとって学生時代とは、思い出すと自分自身のピュアな感情を呼び戻すことができる存在だ。
あれから自分という人間にいろんなものがのっかったりして色々変わったけれども、あの頃の自分は今の自分の中にたしかにちゃんといる。

ラストレターの裕里と乙坂もかつての想いを自分の中に持ち続けていて、それが生きる活力になっているのだと思う。

未咲の娘、鮎美の言葉がぐっときた。ああ、彼女は乙坂の存在を希望にして生きることができていたんだな。そう思った。乙坂が未咲を思い続けていた事実が鮎美に繋がって、彼女を生かしていた。

「誰かを想うことを通して、別の誰かを救うことがあるんだ」そう思わせてくれて、人が人を想う行為のすばらしさを実感した。

人を想うこと

今の時代に1番必要なことは、人を強く想い続けることなのではないだろうか。物質的な豊かさや便利さが増えていく中でシステムの中に忘れ去られそうになっているもの。だけど1番大事にしたいもの。それが人への想いだ。

手紙は人から人への想いを表現する最も古典的で象徴的で王道のアイコンだ。岩井俊二さんが現代にあえてこのテーマを選んだのはとても意味深いと感じる。

想いが人を生かす。想いが人の中に生き続ける。本人が死んでもずっと生き続ける。

そんな希望があると思えるだけで、生きることに希望が湧いてくる。観れてよかったな。

ああ、久しぶりに文通とかしたくなったな。

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