クックゥ・ウェアズ・ザラ

 このスラム街、イオンモールと呼ばれた廃墟での暮らしは、いいとは言い切れないが施設から逃走した先としては申し分なかった。IDを偽ってベーシックインカムを盗めば、生きることができる。オレたちもいつか、ここをジャスコって呼ぶあのジジババみたいになるんだろうなと話すと、大概の人間は悲しそうな表情を浮かべたが、彼女だけは
「いやよ、そんなの」
 と答えた。彼女はZARAに住んでいたのでザラと名乗り、いつしか皆、彼女に習って本名を隠すようになった。
「ねぇ、ユニクロ」
 ある寒い日の夜、オレはザラに呼び止められた。
「手伝って欲しいんだけど」
 手招きに従って、ZARAの店内に入った。試着室までくると、ザラはカーテンを開けた。そこには、縄で縛られた、見知らぬ少女がいた。
「どうしたの、これ」
「誘拐してきた」
「誘拐して、どうするの?」
「どうするって、決まってるじゃない」ザラは笑う。「私がこの子になるの。これから、一生」

【続く】

#逆噴射プラクティス #逆噴射小説大賞

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