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風少女:樋口有介:12年間の呪縛

「風少女」(39/2021年)

1990年の風なんですね、30年前か。

東京育ちにとって、小学→中学→高校という一気通貫の閉じられた世界での12年間の物語を持っている人たちは多数派では無いと思います。自分は中学から地元を離れ私学に通ったし、だいたい高校入学の時点で都立か私立、都立にしても各所に拡散されてしまいますから。なので、この12年間の「呪縛」をベースにした物語を読む時は複雑な気持ちになります。

この濃密な人間関係に憧れる一面もあります。呪縛の心地よさ、感じたことがないので。ただ、辻村、湊系で語られる呪縛の被害者の物語も知っているので、自分は自由で良かったとホッとすることも。しかし、この呪縛の真相を知ることは出来ません。あくまでも物語で読んだだけですし、人口的には呪縛経験者の方が多いと思うので、今の日本は呪縛経験者で動いていることになります。呪縛から逃れて東京に来た人たちが、日本を動かしているわけですから。

そんな呪縛をベースにした青春ミステリです。

本作の場合は、その呪縛が20代前半で解き放たれます(=事件が発生します)。主人公が義父の危篤を受けて、前橋に帰省した際に、初恋の相手が死んだことを知る。事故死として処理されたようだが、どうもおかしい。自殺でもないと考えると、他殺になる。その謎は呪縛の中に潜んでいる。

ずっと前橋にいる人もいるし、東京から戻ってきた人もいる。主人公は東京の人になったわけだが、前橋に着いた瞬間に、呪縛の中にタイムスリップしかかのように飲み込まれる。

30年前を全く感じさせないことに驚きました。きっと、この呪縛は30年前から同じなのでしょう。インターネットが生まれ、モバイルツールが発達し、SNSで世界は拡がったはずなのに、ね。

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