罪深き緑の夏:服部まゆみ:耽美なモヤモヤを堪能

「罪深き緑の夏」(16/2021年)

「欲望と背徳の伝統的ゴシック・ミステリ」と内容の箇所に書いてありました。巧い表現です。

画家の兄弟と、彼らの別荘の近くの通称「蔦屋敷」に住む兄妹、もちろん美男美女、の物語。って事実だけ書くと味わいがないのですが、ゴシックですから、そう単純なわけではありません。最初のシーンからして、少年期の主人公(画家の弟の方)が、母に連れられて、死期間近の父の「本妻」の家に行くところからスタートですから。で、母はその後、本妻になります。

それから12年後、画廊が火事になって絵が燃えて、社長が焼死したり、画家の兄が交通事故に会い、同乗してた蔦屋敷の妹が半身不随になったり、実家に泥棒が入って絵が破壊されたり、大変です。

更に蔦屋敷の兄の娘が登場。それが妹に似ているわけです。ゴシック、入ってます。同性愛、近親相姦といったテーマを散りばめた耽美な世界、浮世離れした設定を楽しむ作品です。

後半、ひょんなことから主人公は蔦屋敷の一室に壁画を書くことになります、フレスコ画を。ゴシック、強いです。ここまでぶっ飛んでくれます。そして壁画が完成した夜に…

一応、ミステリなので事件、事故の真相はある程度明らかになります。がしかし、登場人物自体そのものが整合性が取れていないのですから、そこに明快な謎解きを期待すべきではありません。

ラスト、もやもやしたまま終わります。そのもやもやが読者を非現実的な世界へ誘います。だから読書は止められませんな。


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