機龍警察 火宅:月村了衛:こんな贅沢な読書、滅多にありませんから!

「機龍警察 火宅」(12/2021年)

8つの短編、どれも濃い、とても濃い。そして、濃くて短いからこそ、この前段、後日談、背景、行間が無限に拡がっていく、読者の妄想は果てしなく続く。なんて贅沢な読書なんでしょう。

本作品、存分に楽しむためには、本作品前に発表されたシリーズ長編「機龍警察」「機龍警察 自爆条項」「機龍警察 暗黒市場」「機龍警察 未亡旅団」を全て読むことをオススメします。長編はどこから読んでも楽しめると思いますが、本作品は先にある程度、機龍ワールドを把握しておいてもらいたいです。僕は未文庫化の「未亡旅団」を読んでなかったのが悔やまれます。

お気に入りは「勤行」。『事件は「現場」ではなく「会議室」で起きている』という「現実」をちょっぴりユーモア交えて描いています。機龍警察も国家の組織の一部であるという超絶リアリティを感じさせてくれ、より警察小説としての完成度が高まっていく凄く気持ちの良い作品でした。

もちろん、長編に繋がる残酷で過酷な作品もあります。ユーリが経験したロシアの事件と隅田川沿いの倉庫での事件がクロスオーバーする「雪娘」は、このまま長編にしても良い深さがあります。

ライザのスカウトシーンをさりげなく描いた「済度」も、テロリストであるのに日本の警察で働く彼女の複雑な人間模様をスマートに表現している、冷酷で過酷だけど、素敵な作品です。

恩師の過去の謎を暴く「火宅」や由起谷の青春時代の事件を描いた「沙弥」は警察小説の超ど真ん中、テレビ「相棒」の1話になりそうなノリも好きです。

その他「焼相」、「輪廻」、「化生」、どれも機龍ワールドを満喫できる作品ばかり。こんな贅沢な読書、滅多にありませんから!

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