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死の島:小池真理子:惹かれる、何かに

「死の島」(69/2021年)

「死亡」とは、どういうことなのだろうか。実際に死んだ人から話を聞くことが、今のところは、出来ないので、分からない。もし、何かしらのテクノロジーで可能になったとしても、人それぞれ、死亡の条件が異なるので、答えは出ないと思うが。

本作の主人公・澤は、癌により、死ぬまでの時間がそう長くはないことが分かっている。それなりの痛み、苦痛も伴っているので、肉体的な限界も同時に感じているケースだ。69歳ということで、どちらかといえば早死にの部類だろう。そんな澤の死に至る物語。

小説の編集者として出版社で働き、退職後は小説講座の先生をやっているという澤、そんな彼が作家志望の自分の子供の年齢くらいの女性、樹里に惹かれる。なぜか惹かれる。死が迫っていなかったら相手もしないような女性に、惹かれる。

人は何かに惹かれることがある。急にパッと見た洋服に惹かれて買ってしまったり、町角でふと耳にした音楽に惹かれて、その流れでアーティストにハマってしまったり。あと「一目惚れ」ってやつもそうかもしれない。

本作品の澤は死に着実に向かっている中で彼女に惹かれてしまった。これは一目惚れではない。だって、惚れていないから。磁石のように吸い寄せられた感じかもしれない。昔の彼女が死んだことを知り、何度も何度も昔のことを思い返すものの、その思い出と樹里はオーバーラップしそうでしない。

自分は自分の死を確信した時に、何に惹かれるのだろうか。その時が来るまで、待つしかない。


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