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六月の雪:乃南アサ:自分ではない他人を直視せよ

「六月の雪」(72/2021年)

台湾の台南が舞台の物語。乃南アサ、流石です。優しいだけじゃない。苛烈な現実もちゃんと描く。でも、どこかに、ちょっとかもしれないし、気が付かない場合もあるかもしれないけれど、しっかり希望を読者に見させてくれる。

声優の夢を捨て、とりあえず普通の会社員として3年間勤めてみた主人公、未来。次にやりたい事も、人生の目標もないままにいたところに、祖母が台湾の台南生まれだったことを知る。祖母の最後の願いは台南に「戻る」こと。「ならば、暇な私が戻る場所を探しに」ということで、祖母が住んでいた家とか通っていた学校とかを「聖地巡礼」、一週間の一人旅に出るのです。

がしかし、聖地巡礼なんて軽いものではありませんでした。未来を待ち受ける、ここ百数十年の台湾の過酷な歴史、日本、そして中国大陸に翻弄されていた悲惨な過去、その台湾で出会った家族の惨状。乃南は容赦せずに書き連ねます、淡々と、感情を排して冷静に。所詮他人事なんです。他人の悲劇を自分事化して共感するような甘さを乃南は嫌っていると思います。自分ではない他人を直視せよ。そんなメッセージを感じます。

そんな中にも、現地の人の温かさや台湾の優しさも感じつつ、未来は次のステップを見つけられるのでしょうか。

台湾の事件と並行して日本での祖母の親族の物語も進行します。ここでは未来の自分事が急展開します。台湾とのコントラストとシンクロが実に巧み。やっぱ、乃南アサ、凄いです。間違いなし。

そして、台湾、コロナあけたら、絶対に行くぞ、待ってて!


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