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セーラ号の謎:折原一:叙述ですから

「セーラ号の謎」(119/2021年)

折原の場合、最初から叙述だと思って慎重に疑いながら読み進めるから、油断できない。性別ひっかけか?時系列ひっかけか?同じ名前ひっかけか?夢ひっかけか?全部「本当のこと」しか書いていないなかで、どこをミスリードさせてくるのか、疑心安儀の読書が続く。

今回は海での遭難という非日常的な事案で攻めてくる。それも、何度も遭難して、何度も助かるというトリッキーな展開。本格ミステリ系だからこそ可能な舞台設定の中に潜む「叙述」を見つけるべく、読者は物語を追い続ける。折原も、いかにも「叙述」っぽいエサを投げてくる。でも、惑わされてはいけない。如何にも、如何にもな記載があるけど、そこじゃない。

結局、ネタは明かされるわけだが、そこに至るまで、どれだけ「騙されてしまったか」がポイント。たくさん騙された方が楽しいので、個人的には折原のミスリードにいちいち騙されておいた方が良いと思います。

本作も主人公がミステリ作家という時点から、そもそも作品全体がこの作家の作品という仕掛けなんじゃないか、という疑いから始まります。さあ、疑いましょう。そして、騙されましょう。

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