QED 式の密室:高田崇史:正体、ここにあり(ネタバレ、ギリギリ)

「QED 式の密室」(82/2022年)

ちょっと感動しました。陰陽師で有名な「式神」の正体を見事に喝破した本作品、歴史とはこうやって作られていくのだと、底の見えない恐怖を感じました。
以下、ネタバレ、ギリギリかもしれませんが許してください。見える見えないということは、心理的な事象であることを教えてくれます。雑草という草の名前は無い、それぞれの草には固有の名前がある。それを雑草と呼んでいるのは完全に気持ちの問題です、と本作では書かれています。
見えるとは、光が視神経を刺激して、それが脳に伝わって像を結ぶということではないのです。単純に意識の問題なんです。
それは草に限りません、人間でも、同じことなのです。

今回は昔の殺人事件の謎解きです。陰陽師のような力を持つといわれる男の人が死んでいました、自宅の自分の部屋、密室状態で。その時の捜査では、非常に問題はあるものの自殺と考えるしか選択肢がないという理由で自殺となりましたが、30年後、被害者の孫は他殺説を主張します、それも式神を使った殺人を。

平安時代の社会の構造なんて、詳しく学校の歴史の時間では教えてくれませんよね。我々は、当時は貴族しか生きていないかのような誤解をしています。そう、貴族しか見えないのです。
そして、歴史は、歴史を語る立場になった勝者にとって不都合なことは、見えなくしてしまいます、そう、無かったことになります。そして、長い時間をかけて、本当に無になってしまうことも多いのです。

今回、提示された式神の正体に、私は心打たれました。歴史の中の「目に見えない」存在とは何か。今もこの世界、この宇宙に式神がいるのです、きっと。


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